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17章
月光の岬、光の矢 64
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「丈、素晴らしいな。皆が同じゴールに向かって歩み出すなんて」
離れに戻ってからも、洋の頬は紅潮したままで、興奮を隠せないようだった。
出会った当初、洋は常に青ざめた顔で、周囲を警戒し必要以上にピリピリしていた。
あの日々があっての今だが、しなくてもいい苦労ばかりした洋にはもっともっと幸せになって欲しいと思っている。
洋にはその権利がある。
「洋、そんなに興奮して可愛い奴だな」
「あっ、すまない。俺は今まで、人に期待するのは無意味だと思っていたが、違うんだな。どんなアイデアが生まれてくるのか、ワクワクしているよ。ははっ、待てよ。ワクワクなんて子供が使う言葉だよな」
洋がくくっと笑うと、場が一気に色めいた。
参ったな。
またいつものパターンになってしまう。
私は洋を求めてやまない。
どんな洋でも無条件に愛しているが、今日の洋は魅力的過ぎる。
積極的に動き出した洋は、しなやかで男気があって最高だ。
参ったな。
ドストライクだ。
「洋のおかげで、素晴らしいパーティーになるだろう」
洋を抱き寄せ、顎を摘まんで上を向かせると、洋は三日月のように口角をあげて、目を細めた。
「丈先生、俺もお役に立てていますか」
「あぁ、最高のパートナーだ。開業医になるのは勇気がいるが、洋がいてくれるから心強い」
「そうか、よかったよ」
洋自らシャツを脱ぎ捨て、私をベッドへ誘う。
「……しよう」
「洋、いいのか。疲れていないか」
「疲れてはいるが、興奮して眠れないから、付き合ってくれ」
「ふっ、そういうことなら遠慮はしない」
私は洋をベッドに押し倒し、自分のネクタイをクイッと解いた。
「丈、今日はカッコよかった。お前……職場でかなりモテるな」
「どうした? ヤキモチか」
「違う! 俺の丈がカッコよくて、誇らしかったのさ」
ニヤッと笑う洋にグッとくる。
さっきから可愛いことばかり言うこの男を、存分に抱いて淫らに乱してやりたい。
「待て。丈……先に診療所の名前を決めないと」
「シンプルでいい。真っ直ぐに届く月の光のように」
「じゃあ……海里先生にあやかって『由比ヶ浜・丈診療所』はどうだ?」
「あぁ、治療に立ち向かう意気込みが感じられるな。堂々としている、成長する、強い意志を持つ……それが私の名前『丈』の意味だから」
****
「流、僕たち大役をもらったね」
「あぁ、診療所の看板ということは、病院の顔だしな」
「僕たちに出来ることを作ってくれて……丈は優しい弟だね。幼い頃から分かってはいたけど……そうだ、早速試し書きをしてみよう」
机の上には黒光りする硯と、端正に並べた筆が置いてあった。
それを見た途端、僕は無性に何か書きたい気分になった。
「翠、ちょっと待てよ。まだ書けないぞ」
「えっと、どうして?」
「だって診療所の名前を聞いていないじゃないか」
「あ、そうだね。ふっ、嬉しすぎて先走ってしまったよ。では、せっかくだから流に贈る言葉を書こう」
僕は硯にたっぷりと水を垂らし、黒い墨をゆっくりとすり出した。
次第に墨の香りがほんのりと漂い、鼻腔を擽ると、集中が高まった。
いいかい、今から書くのは流と僕の人生だよ。
筆を持つ手に緊張感が走る。
真っ白な和紙の、その清らかさを汚してしまわぬよう、慎重になる。
息を止めて、一気に筆を下ろした。
『一蓮托生』
深く息を吐きながら筆を静かに置くと、月が湖に映るように、僕の心を映した文字が、墨の艶を纏い存在感を放っていた。
共に運命を共有し、切り離せない存在であることを意味する言葉を、僕は流に贈る。
離れに戻ってからも、洋の頬は紅潮したままで、興奮を隠せないようだった。
出会った当初、洋は常に青ざめた顔で、周囲を警戒し必要以上にピリピリしていた。
あの日々があっての今だが、しなくてもいい苦労ばかりした洋にはもっともっと幸せになって欲しいと思っている。
洋にはその権利がある。
「洋、そんなに興奮して可愛い奴だな」
「あっ、すまない。俺は今まで、人に期待するのは無意味だと思っていたが、違うんだな。どんなアイデアが生まれてくるのか、ワクワクしているよ。ははっ、待てよ。ワクワクなんて子供が使う言葉だよな」
洋がくくっと笑うと、場が一気に色めいた。
参ったな。
またいつものパターンになってしまう。
私は洋を求めてやまない。
どんな洋でも無条件に愛しているが、今日の洋は魅力的過ぎる。
積極的に動き出した洋は、しなやかで男気があって最高だ。
参ったな。
ドストライクだ。
「洋のおかげで、素晴らしいパーティーになるだろう」
洋を抱き寄せ、顎を摘まんで上を向かせると、洋は三日月のように口角をあげて、目を細めた。
「丈先生、俺もお役に立てていますか」
「あぁ、最高のパートナーだ。開業医になるのは勇気がいるが、洋がいてくれるから心強い」
「そうか、よかったよ」
洋自らシャツを脱ぎ捨て、私をベッドへ誘う。
「……しよう」
「洋、いいのか。疲れていないか」
「疲れてはいるが、興奮して眠れないから、付き合ってくれ」
「ふっ、そういうことなら遠慮はしない」
私は洋をベッドに押し倒し、自分のネクタイをクイッと解いた。
「丈、今日はカッコよかった。お前……職場でかなりモテるな」
「どうした? ヤキモチか」
「違う! 俺の丈がカッコよくて、誇らしかったのさ」
ニヤッと笑う洋にグッとくる。
さっきから可愛いことばかり言うこの男を、存分に抱いて淫らに乱してやりたい。
「待て。丈……先に診療所の名前を決めないと」
「シンプルでいい。真っ直ぐに届く月の光のように」
「じゃあ……海里先生にあやかって『由比ヶ浜・丈診療所』はどうだ?」
「あぁ、治療に立ち向かう意気込みが感じられるな。堂々としている、成長する、強い意志を持つ……それが私の名前『丈』の意味だから」
****
「流、僕たち大役をもらったね」
「あぁ、診療所の看板ということは、病院の顔だしな」
「僕たちに出来ることを作ってくれて……丈は優しい弟だね。幼い頃から分かってはいたけど……そうだ、早速試し書きをしてみよう」
机の上には黒光りする硯と、端正に並べた筆が置いてあった。
それを見た途端、僕は無性に何か書きたい気分になった。
「翠、ちょっと待てよ。まだ書けないぞ」
「えっと、どうして?」
「だって診療所の名前を聞いていないじゃないか」
「あ、そうだね。ふっ、嬉しすぎて先走ってしまったよ。では、せっかくだから流に贈る言葉を書こう」
僕は硯にたっぷりと水を垂らし、黒い墨をゆっくりとすり出した。
次第に墨の香りがほんのりと漂い、鼻腔を擽ると、集中が高まった。
いいかい、今から書くのは流と僕の人生だよ。
筆を持つ手に緊張感が走る。
真っ白な和紙の、その清らかさを汚してしまわぬよう、慎重になる。
息を止めて、一気に筆を下ろした。
『一蓮托生』
深く息を吐きながら筆を静かに置くと、月が湖に映るように、僕の心を映した文字が、墨の艶を纏い存在感を放っていた。
共に運命を共有し、切り離せない存在であることを意味する言葉を、僕は流に贈る。
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