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17章
番外編 2024年ハロウィンSSリレー『魔法の南瓜』②
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「瑞樹、芽生、今日の夜は月影寺に行くことになったぞ。流から誘われたんだ」
「楽しみですね」
「やったぁ、こもりんくんにあえるかな?」
「もちろんだ。ところでドレスコードがあるそうだ」
「なんですか」
「今年は動物の仮装だってさ」
「ええっと」
「大丈夫だ、俺のベッドの下に完備してある」
というわけで、俺たちは熊と兎と羊に変身して、車に乗り込んだ。
「はずかしいですね。この恰好で高速の乗るのは」
「堂々としよう」
「そうだよ、お兄ちゃん、とっても可愛いよ」
「あ。ありがとう」
頬をピンク色に染める瑞樹は、兎のコスプレがよく似合う。
羊のメイを抱っこした芽生もノリノリだ。
俺は茶色のクマだが、若干、大沼のお父さんっぽいな。
案の定、瑞樹が目を細めてうっとり見ている。
「宗吾さん、そうしていると、大沼のお父さんみたいですね」
「違う違う! 俺は瑞樹の恋人だ」
「分かっています。僕の宗吾さん」
おぉ? 兎の姿をすると、いつもより積極的な気がする。
「あの……それは……心が跳ねているからだと……この衣装を着るとヘンな気持ちになります」
「ボクは心がぽかぽかだよぅ」
ヤバい、瑞樹の言葉に反応してしまう。
「俺はガォォーだ」
「そ、宗吾さん、それは……狼です」
「パパ、だめだよ。動物の掟を守って」
「掟か。月影寺は無礼講だぞ、たぶん」
「ぶれいこうって?」
「宗吾さんー!」
「ははっ、すまんすまん」
さぁいざ、月影寺へ――
****
「流、どうして僕だけ動物ではないんだ?」
「翠は気高い、翠は綺麗だ、翠は尊い……翠は……」
「も、もういいから黙って」
やれやれ、月影寺のハロウィンは動物園?
振り返ると、薙が立っていた。
「父さんは人のままか。いいな~ オレは何故かモモ尻おばけなんだよ」
「やっぱり僕の息子だね。動物じゃなくて人だなんて」
「いやいや、肝試しの使い回しの桃尻おばけだって」
「でもそのお尻は人のものだよ」
「父さんどこ見てんだよー」
薙が顔を赤くするのが、面白い。
「ふふ、僕は薙のおしめも替えたんだよ。何も恥ずかしくないよ」
「オレははずいんだよ」
すると背後から声がした。
上半身裸で下半身はシマウマなのは丈。
全身オーロラのように輝く生地で包まれているのは、洋くんだった。
「私は……何故かシマウマです」
「俺はユニコーンですよ」
なんとなくお気の毒だ。
僕は人のまま……これは有り難き幸せなのかもしれないな。
「みんなかっこいいよ」
「あ、菅野くん、その姿は……」
「……忠犬パチ公です」
「はは……よく似合っているよ。ところで小森くんは?」
「ここですよ、ここ」
犬になった菅野くんにぶらさがっているのは……
「小森くんは動物ではなかったの?」
「コホン、僕はあんこ党ですので」
「では、これは……」
「はい、きびだんごちゃんです。もっちもっちですよ」
小森くんはつやつやふっくらほっぺを膨らませて、ニコニコしていた。
「ふっ、最高のメンバーだね。さぁ、門を開こう。客人をお招きしよう」
最初にやってきたのは、宗吾さんと瑞樹くんと芽生くん。
熊と兎と羊さんだ。
良く似合っている。
着慣れているようだ。
続いて、かっこいい羊さんと魔女とプリンセスのおでましだ。
あぁ、宗吾さんのお兄さんのご家族だ。
更に……今宵は東銀座からもお客様が。
大河さんと蓮さんとそのお嬢さん。
タイガーと黒豹と可愛い羊さんだ。
「おー みんな集まったようだな。憲吾さんでしたね。初めまして、お話は伺っています。月影寺へようこそ」
「ご住職様ですか。いつも弟家族がお世話になっています。今宵は堂々と羊の衣装が着られる場所があると聞いて……厚かましくも参加させていただきました」
「歓迎致します。ここは人の心を重んじることの出来る人のみが入れる結界が張ってあります。宗吾さんのお兄様も、情のお深いお方のようですね」
「いえ……私はそうなりたいと思っている段階です」
謙虚な人だ。
「その心がけが初めの一歩ですよ。今宵は無礼講でお楽しみ下さい」
「無礼講!」
「ぶ、ぶれいこう」
僕の挨拶に何人かが過剰反応していた。
そして芽生くんと蓮さんのお嬢さんと憲吾さんのお嬢さんが、仲良く遊びだした。
いい光景だ。
月影寺は縁を深める寺。
せっかく出逢った人とのご縁を大切に――
無下なことはせず、相手を大切にして欲しい。
そこから生まれた縁は、新たな縁を生む。
月影寺にやってきた人は、皆、僕の縁者だ。
だから、どうか大切にさせて下さい。
「翠、何をしている。パンプキンパイが焼けたぞー」
「あぁ、今行くよ」
流が作ったカボチャのランタンが灯す道を、僕は真っ直ぐに歩く。
迷いなく歩けるのは、そこに流がいてくれるから。
ここに集う人には、それぞれ、心の支えとなる人がいる。
だからこうやって集って、縁を深められるのだ。
今年もハロウィンによせて、僕は人と人の縁を強く感じている。
さぁ、進もう。
動物たちのハロウィンナイトを楽しんで、また明日へ行こう。
『魔法の南瓜』 了
余談
「翠さん、このパンプキンパイは、実は魔法の南瓜なんですよ。一口いただくと、1日だけ小さくなれます。いかがいたしますか」
「小森くんは不思議なことを。そうだね、もしそうなれたら、流の胸元に入り込んで、流の1日を覗き見したいな」
「では、その夢、叶えましょう」
「えっ」
****
そんな話を書いてみたいですね。
今年のハロウィンリレーはここで時間切れです。
一気に書き下ろしたので、誤字脱字等ご容赦ください。
沢山の方に楽しんでいただけて、嬉しいです。
Trick or Treat!
また来年も楽しみましょう。
2024年のハロウィンSSリレーおしまいです。
ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございます!
「楽しみですね」
「やったぁ、こもりんくんにあえるかな?」
「もちろんだ。ところでドレスコードがあるそうだ」
「なんですか」
「今年は動物の仮装だってさ」
「ええっと」
「大丈夫だ、俺のベッドの下に完備してある」
というわけで、俺たちは熊と兎と羊に変身して、車に乗り込んだ。
「はずかしいですね。この恰好で高速の乗るのは」
「堂々としよう」
「そうだよ、お兄ちゃん、とっても可愛いよ」
「あ。ありがとう」
頬をピンク色に染める瑞樹は、兎のコスプレがよく似合う。
羊のメイを抱っこした芽生もノリノリだ。
俺は茶色のクマだが、若干、大沼のお父さんっぽいな。
案の定、瑞樹が目を細めてうっとり見ている。
「宗吾さん、そうしていると、大沼のお父さんみたいですね」
「違う違う! 俺は瑞樹の恋人だ」
「分かっています。僕の宗吾さん」
おぉ? 兎の姿をすると、いつもより積極的な気がする。
「あの……それは……心が跳ねているからだと……この衣装を着るとヘンな気持ちになります」
「ボクは心がぽかぽかだよぅ」
ヤバい、瑞樹の言葉に反応してしまう。
「俺はガォォーだ」
「そ、宗吾さん、それは……狼です」
「パパ、だめだよ。動物の掟を守って」
「掟か。月影寺は無礼講だぞ、たぶん」
「ぶれいこうって?」
「宗吾さんー!」
「ははっ、すまんすまん」
さぁいざ、月影寺へ――
****
「流、どうして僕だけ動物ではないんだ?」
「翠は気高い、翠は綺麗だ、翠は尊い……翠は……」
「も、もういいから黙って」
やれやれ、月影寺のハロウィンは動物園?
振り返ると、薙が立っていた。
「父さんは人のままか。いいな~ オレは何故かモモ尻おばけなんだよ」
「やっぱり僕の息子だね。動物じゃなくて人だなんて」
「いやいや、肝試しの使い回しの桃尻おばけだって」
「でもそのお尻は人のものだよ」
「父さんどこ見てんだよー」
薙が顔を赤くするのが、面白い。
「ふふ、僕は薙のおしめも替えたんだよ。何も恥ずかしくないよ」
「オレははずいんだよ」
すると背後から声がした。
上半身裸で下半身はシマウマなのは丈。
全身オーロラのように輝く生地で包まれているのは、洋くんだった。
「私は……何故かシマウマです」
「俺はユニコーンですよ」
なんとなくお気の毒だ。
僕は人のまま……これは有り難き幸せなのかもしれないな。
「みんなかっこいいよ」
「あ、菅野くん、その姿は……」
「……忠犬パチ公です」
「はは……よく似合っているよ。ところで小森くんは?」
「ここですよ、ここ」
犬になった菅野くんにぶらさがっているのは……
「小森くんは動物ではなかったの?」
「コホン、僕はあんこ党ですので」
「では、これは……」
「はい、きびだんごちゃんです。もっちもっちですよ」
小森くんはつやつやふっくらほっぺを膨らませて、ニコニコしていた。
「ふっ、最高のメンバーだね。さぁ、門を開こう。客人をお招きしよう」
最初にやってきたのは、宗吾さんと瑞樹くんと芽生くん。
熊と兎と羊さんだ。
良く似合っている。
着慣れているようだ。
続いて、かっこいい羊さんと魔女とプリンセスのおでましだ。
あぁ、宗吾さんのお兄さんのご家族だ。
更に……今宵は東銀座からもお客様が。
大河さんと蓮さんとそのお嬢さん。
タイガーと黒豹と可愛い羊さんだ。
「おー みんな集まったようだな。憲吾さんでしたね。初めまして、お話は伺っています。月影寺へようこそ」
「ご住職様ですか。いつも弟家族がお世話になっています。今宵は堂々と羊の衣装が着られる場所があると聞いて……厚かましくも参加させていただきました」
「歓迎致します。ここは人の心を重んじることの出来る人のみが入れる結界が張ってあります。宗吾さんのお兄様も、情のお深いお方のようですね」
「いえ……私はそうなりたいと思っている段階です」
謙虚な人だ。
「その心がけが初めの一歩ですよ。今宵は無礼講でお楽しみ下さい」
「無礼講!」
「ぶ、ぶれいこう」
僕の挨拶に何人かが過剰反応していた。
そして芽生くんと蓮さんのお嬢さんと憲吾さんのお嬢さんが、仲良く遊びだした。
いい光景だ。
月影寺は縁を深める寺。
せっかく出逢った人とのご縁を大切に――
無下なことはせず、相手を大切にして欲しい。
そこから生まれた縁は、新たな縁を生む。
月影寺にやってきた人は、皆、僕の縁者だ。
だから、どうか大切にさせて下さい。
「翠、何をしている。パンプキンパイが焼けたぞー」
「あぁ、今行くよ」
流が作ったカボチャのランタンが灯す道を、僕は真っ直ぐに歩く。
迷いなく歩けるのは、そこに流がいてくれるから。
ここに集う人には、それぞれ、心の支えとなる人がいる。
だからこうやって集って、縁を深められるのだ。
今年もハロウィンによせて、僕は人と人の縁を強く感じている。
さぁ、進もう。
動物たちのハロウィンナイトを楽しんで、また明日へ行こう。
『魔法の南瓜』 了
余談
「翠さん、このパンプキンパイは、実は魔法の南瓜なんですよ。一口いただくと、1日だけ小さくなれます。いかがいたしますか」
「小森くんは不思議なことを。そうだね、もしそうなれたら、流の胸元に入り込んで、流の1日を覗き見したいな」
「では、その夢、叶えましょう」
「えっ」
****
そんな話を書いてみたいですね。
今年のハロウィンリレーはここで時間切れです。
一気に書き下ろしたので、誤字脱字等ご容赦ください。
沢山の方に楽しんでいただけて、嬉しいです。
Trick or Treat!
また来年も楽しみましょう。
2024年のハロウィンSSリレーおしまいです。
ここまでお付き合いくださいまして、ありがとうございます!
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