重なる月

志生帆 海

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17章

番外編 2024年ハロウィンSSリレー『魔法の南瓜』①

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 一仕事終え渡り廊下で寝っ転がっていると、小森の悲痛な声が聞こえた。

「流さん、流さん、重たいですよー 助けてくださーい」
「おぉ、届いたか」
「最近に小包は重たすぎますよー。丈さんといい流さんといい、人使いが荒いですぅ……」
「まぁ、そう怒るなって。小森にも恩恵がある」

 頬を膨らませていた小森も、恩恵という言葉を使えばイチコロだ。

「それは、あんこですか。あんこですよね」
「お前って奴は……まぁ、そんなようなもんだ。ちょっと手伝え」
「重たいですよ」
「俺が持つよ」

 小森からダンボールを軽々と奪い取ると、甘ったれた顔が見えた。
 
 小森の顔を見ると『和顔愛語』という言葉を思い出す。

 和やかな笑顔と思いやりのある話し方で人に接することは大事だと気付かされる。
 
 だから俺もニカッと笑う。




 離れの仕事場で小包を開けると、鮮やかなオレンジ色のかぼちゃがずらりと並んでいた。

「おおお、ということは、かぼちゃあんですね。やっぱりあんこでしたね」
「それもあるが、これでハロウィンのかぼちゃのランタンを作るのさ」
「わぁ、盛り上がりますね」
「だろう! ただ、このオレンジ色のアトランティックジャイアントというカボチャは水っぽくて甘くなくて、あんこには向いていない。これは味付けしてパイの中身にするぞ。今回は和風パンプキンパイでどうだ」

 提案すると、小森は俺の手を握って目を輝かせた。

 口の端によだれが……

 食いしん坊め!

「和風パイ……それは新しい響きです」
「よし、手伝え」
「はい!」

 小森は器用だから安心して任せられる。

 二人で中身をくり抜いて夢中で顔の切り込みを入れていると、いつの間にか日が暮れていた。

 そこに、洋くんがふらりとやってきた。

「こんばんは、二人で何をして? あぁ、ハロウィンのですか」
「あぁ、カボチャのランタン作りをしているのさ」
「それ、丈の診療所に一つ分けていただけませんか」
「いいけど、ただではやらないぞ」
「手伝いますよ。どれ、ここを切り取るのですか」
「よ、よせ!」
 
 思わず小森とブンブンと頭を横に振ってしまった。

「ふっ、ではこれで手を打って下さい」

 洋が箱から取り出したのは、江ノ島名物、タコせんべいだった。

「おおおお、これは酒の肴に最高だ。翠と飲もう」
「良かったです。今日も診療所に差し入れして下さった方がいて」
「へぇ、地元の人に愛されているようだな。よし、出来上がったのを、持ってけ持ってけ」

 洋はくりぬいたばかりのかぼちゃのランタンを大事そうに抱えていった。

 俺が作るカボチャのランタンは、どれも最高の笑顔を浮かべている。

 月影寺のハロウィンは、翠の結界の中で繰り広げられる大人も子どもワクワク楽しめる祭典だから、わざわざ怖がらせたりはしないのさ。

 さぁ、今年は誰がやってくるだろう。

 縁ある人が、ここに集う。


 続く~🎃






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