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17章
月光の岬、光の矢 51
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お屋敷の門を潜ると、アーサーさんと瑠衣さんが和やかに出迎えてくれた。
二人の手で門戸が開かれると、俺の心も同時に開かれた。
「やぁ! 今日あたりきっと来ると思っていたよ」
「洋くん、お待ちしておりました」
英国貴族のアーサーさんは、俺を友のように扱い、執事のような口調の瑠衣さんは、俺を恭しく出迎えてくれた。
二人の温かさに触れ、ここに来たことは間違いではなく、歓迎されていると実感できた。
そうか、診療所でも、こんな風にやわらかく温かく、患者さんを出迎えればいいのか。
大切なのは心だ。
心のキャッチボールができる診療所でありたいな。
丈も俺も人付き合いが得意ではないので、それを克服するためにも、開業まで様々な人と積極的に関わってみよう。
「ボディソープの香りが素晴らしくて、お礼を……あの香りのお陰で、気持ちが強くなりました」
「良かったよ。白江さんから開業の話を聞いて、俺たちも役に立ちたいと思って作ったのさ」
「おばあ様が……」
「白江さんもそうだが、俺たちも楽しみにしているよ。何しろ由比ヶ浜ではお隣さんだもんな。よろしくな。洋くん」
アーサーさんがスッと手を差し出したので、握手をした。
青い瞳に吸い込まれそうだ。
「こちらこそ、お世話になります」
「由比ヶ浜に滞在するのが、ますます楽しみになったよ。なっ、瑠衣」
「お隣の洋館が、海里が生きていた頃のように再び診療所として動き出すなんて、夢のようです。ありがとうございます」
丈の診療所は開業前から、既に周囲の希望となっている。
それが伝わってきて、俄然やる気が出た。
ますます気が引き締まった。
「洋くん、ところで、何か相談があったのでは?」
「あ、そうなんです。実はボディソープの香りでキャンドルや石鹸など、パーティーのお土産になりそうな物を、作りたいのですが……」
「それならちょうど『R-Gray』社でカスタムオーダーメイドシステムがあるよ。オリジナルのラベルも作れるし、いかがかな?」
まさに俺がイメージしていた物だ。
「是非、オーダーしたいです」
「ご注文承りました。今日はお時間はありますか。早速オーダー内容をお伺いしたいのですが」
「あります。ぜひさせて下さい」
「では、お向かいのカフェ月湖で致しましょう」
****
お茶を飲みたくて、自室から1階のカフェに降りてくると、窓の向こうのテラス席に洋ちゃんの姿が見えた。
あら? アーサーさんと瑠衣と一緒だわ。
もしかして、あのボディソープの件かしら?
そうだとしたら、嬉しいわ。
「洋ちゃん、早速来てくれたのね」
話しかけようと思ったけれども、もう少しだけ様子を見守りたくなったの。
洋ちゃんってば、素敵。
スッと背筋を伸ばして、凜々しいお顔をしているわ。
夕によく似た女性的な美しい顔立ちだけれども、あなたは、ちゃんと男性なのね。
当たり前だけれども、影のある憂いのある表情が多かったので、おばあちゃま、気になっていたの。
「白江さん、どうされたのですか」
「あ、テツさん、孫が活気のある表情を浮かべているのが嬉しくて」
「いい顔をしていますね。俺が作った香りでキャンドルと石鹸を作りたいと相談しているようですよ」
「まぁ、そうなのね」
「気に入っていただけて良かったです」
「流石、テツさんだわ。洋ちゃんを奮い立たせてくれてありがとう」
「あの香りは……俺が配合をアレンジしましたが、実は、元々は日本古来の、平安時代に生まれた薬草の組み合わせですよ」
「まぁ、んなに歴史ある香りだったのね」
庭師のテツさんは、香りの魔術師。
人々の不安を香りで包んで、葬ってくれるの。
「お孫さんのお姿を拝見した時に、思い出したのです」
「そうだったのね。どんな効能があるの?」
「……災いを撥ね除ける香りです」
洋ちゃん……
あなたを襲った災いが何だったのか追求はしないから、せめて撥ね除けるお手伝いはさせてね。
「ありがとう。テツさん」
「白江さんには、お世話になりましたから」
「そんな……」
「俺と桂人を受け入れてくれました」
「そんな……当たり前のことをしただけよ」
「寛大な心をお持ちです」
過去の過ち……夕を追放したことを後悔しているから、もう二度と、誰かをこの手で咎めるようなことはしたくないの。
「お孫さんは、出逢いを大切にできる人のようですから、きっと診療所でも患者さんお一人お一人を大切にされるでしょう」
テツさんから素敵な言葉をもらったわ。
洋ちゃんは、私との出逢いも大切にしてくれた。
一つの出逢いを大切にすれば、その先にもきっと良い出逢いがあるの。
出逢いは縁をつなぐ最初の一歩よ。
二人の手で門戸が開かれると、俺の心も同時に開かれた。
「やぁ! 今日あたりきっと来ると思っていたよ」
「洋くん、お待ちしておりました」
英国貴族のアーサーさんは、俺を友のように扱い、執事のような口調の瑠衣さんは、俺を恭しく出迎えてくれた。
二人の温かさに触れ、ここに来たことは間違いではなく、歓迎されていると実感できた。
そうか、診療所でも、こんな風にやわらかく温かく、患者さんを出迎えればいいのか。
大切なのは心だ。
心のキャッチボールができる診療所でありたいな。
丈も俺も人付き合いが得意ではないので、それを克服するためにも、開業まで様々な人と積極的に関わってみよう。
「ボディソープの香りが素晴らしくて、お礼を……あの香りのお陰で、気持ちが強くなりました」
「良かったよ。白江さんから開業の話を聞いて、俺たちも役に立ちたいと思って作ったのさ」
「おばあ様が……」
「白江さんもそうだが、俺たちも楽しみにしているよ。何しろ由比ヶ浜ではお隣さんだもんな。よろしくな。洋くん」
アーサーさんがスッと手を差し出したので、握手をした。
青い瞳に吸い込まれそうだ。
「こちらこそ、お世話になります」
「由比ヶ浜に滞在するのが、ますます楽しみになったよ。なっ、瑠衣」
「お隣の洋館が、海里が生きていた頃のように再び診療所として動き出すなんて、夢のようです。ありがとうございます」
丈の診療所は開業前から、既に周囲の希望となっている。
それが伝わってきて、俄然やる気が出た。
ますます気が引き締まった。
「洋くん、ところで、何か相談があったのでは?」
「あ、そうなんです。実はボディソープの香りでキャンドルや石鹸など、パーティーのお土産になりそうな物を、作りたいのですが……」
「それならちょうど『R-Gray』社でカスタムオーダーメイドシステムがあるよ。オリジナルのラベルも作れるし、いかがかな?」
まさに俺がイメージしていた物だ。
「是非、オーダーしたいです」
「ご注文承りました。今日はお時間はありますか。早速オーダー内容をお伺いしたいのですが」
「あります。ぜひさせて下さい」
「では、お向かいのカフェ月湖で致しましょう」
****
お茶を飲みたくて、自室から1階のカフェに降りてくると、窓の向こうのテラス席に洋ちゃんの姿が見えた。
あら? アーサーさんと瑠衣と一緒だわ。
もしかして、あのボディソープの件かしら?
そうだとしたら、嬉しいわ。
「洋ちゃん、早速来てくれたのね」
話しかけようと思ったけれども、もう少しだけ様子を見守りたくなったの。
洋ちゃんってば、素敵。
スッと背筋を伸ばして、凜々しいお顔をしているわ。
夕によく似た女性的な美しい顔立ちだけれども、あなたは、ちゃんと男性なのね。
当たり前だけれども、影のある憂いのある表情が多かったので、おばあちゃま、気になっていたの。
「白江さん、どうされたのですか」
「あ、テツさん、孫が活気のある表情を浮かべているのが嬉しくて」
「いい顔をしていますね。俺が作った香りでキャンドルと石鹸を作りたいと相談しているようですよ」
「まぁ、そうなのね」
「気に入っていただけて良かったです」
「流石、テツさんだわ。洋ちゃんを奮い立たせてくれてありがとう」
「あの香りは……俺が配合をアレンジしましたが、実は、元々は日本古来の、平安時代に生まれた薬草の組み合わせですよ」
「まぁ、んなに歴史ある香りだったのね」
庭師のテツさんは、香りの魔術師。
人々の不安を香りで包んで、葬ってくれるの。
「お孫さんのお姿を拝見した時に、思い出したのです」
「そうだったのね。どんな効能があるの?」
「……災いを撥ね除ける香りです」
洋ちゃん……
あなたを襲った災いが何だったのか追求はしないから、せめて撥ね除けるお手伝いはさせてね。
「ありがとう。テツさん」
「白江さんには、お世話になりましたから」
「そんな……」
「俺と桂人を受け入れてくれました」
「そんな……当たり前のことをしただけよ」
「寛大な心をお持ちです」
過去の過ち……夕を追放したことを後悔しているから、もう二度と、誰かをこの手で咎めるようなことはしたくないの。
「お孫さんは、出逢いを大切にできる人のようですから、きっと診療所でも患者さんお一人お一人を大切にされるでしょう」
テツさんから素敵な言葉をもらったわ。
洋ちゃんは、私との出逢いも大切にしてくれた。
一つの出逢いを大切にすれば、その先にもきっと良い出逢いがあるの。
出逢いは縁をつなぐ最初の一歩よ。
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