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17章
月光の岬、光の矢 48
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身体の力を抜いて、丈の逞しい胸に背中を預けた。
ここが俺の居場所だ。
そう確信できる。
丈と重なる場所が心地良い。
そのまま深い眠りにつき、久しぶりに前世の夢を見た。
時代を遡る夢を――
……
休憩時間にジョウを探した。
「ジョウ、どこだ? どこにいる?」
「ヨウ、ここだ、ここにいる」
薄暗い小屋から、声がした。
木戸を開くと、俺が放った光が真っ直ぐに白衣を着た丈に届いた。
ジョウは薬研で薬を熱心に砕いていた。
「また薬作りをしていたのか」
「薬草の組み合わせは無限だからな」
「それにしても、ジョウが開いた『救衆院(診療所)』は大繁盛だな」
「今、人手不足で困っている。なぁ、ヨウ……武官を辞めて手伝ってくれないか」
「え? そんなこと、王様がお許しになるはずが……」
「だが、私たちもいつまでも若くはない。そして王様だって、いつから王位を世継ぎに譲るだろう。だからヨウも部下を育てて、自分の将来を考えるべきではないのか」
ジョウは、いつだって先を見据えている。
俺は今を生きることで精一杯なのに――
やはりジョウはすごい。
だからこそ、俺にはジョウが必要だ。
「急に……すまない。実はヨウが戦で命を落としてしまう夢を見て……不安になって……」
「俺も同じだ。お前と出会う前は命を捨てることなど少しも惜しくなかったのに……今はお前と寿命を全うしたいと願ってしまう。これでは武将として失格だ」
「今でなくてもいい。いずれ……そうしないか」
「俺も、いつか……お前の片腕になりたい」
「ジョウ……」
「ヨウ……」
ジョウが手を止めて、俺を抱きしめてくれる。
ふわり――
薄暗い小屋の中に、満ちていく月のような、爽快な香りが充満した。
「良い香りだな」
「丁子と橙皮と薄荷を使っている」
「何に効く?」
「ヨウのための薬だ。気分がすっきりするように」
「確かに……胃がムカムカしていたが、収まってきた」
「私たちはいつの世も一緒だ。私が常にヨウの盾になるから、ヨウは思いっきり矢を放て―― これはヨウを目覚めさせる香りだ」
「意味深なことを」
……
そこで目覚めた。
カーテンのない寝室の窓から、竹林をすり抜けてきた朝日が届く。
眩しくて手の甲で目を覆い、愛しい男の名を呼ぶ。
「ジョウ……どこだ?」
返事の代わりにシャワールームから水音がしたので、ガウンを羽織りシャワールームへ向かった。
扉を開けると、蒸気と共にスパイシーな香りが溢れてきた。
これは……
「洋、起きたのか」
「ん……」
その香りは、丈の水滴を纏った身体から生まれていた。
「どうした?」
「ボディソープを変えたのか」
「あぁ、実は瑠衣さんとアーサーさんが『R-Gray』社の製品をサンプルで送ってくれたので、試してみた」
「この香り……いいな」
「私も好きだ。主成分はクローブ(丁子)とダイダイの果皮(橙皮)とミント(薄荷)だそうだ」
「なんだって?」
遠い昔、丈が俺のために調合してくれた香りじゃないか。
千年の時を超えて、俺を目覚めさせに来たのか。
これは満ちていく月の香り。
気持ちを切り替えたい時、好奇心のままに大胆に行動したい時、この香りが背中を押してくれる。
ここが俺の居場所だ。
そう確信できる。
丈と重なる場所が心地良い。
そのまま深い眠りにつき、久しぶりに前世の夢を見た。
時代を遡る夢を――
……
休憩時間にジョウを探した。
「ジョウ、どこだ? どこにいる?」
「ヨウ、ここだ、ここにいる」
薄暗い小屋から、声がした。
木戸を開くと、俺が放った光が真っ直ぐに白衣を着た丈に届いた。
ジョウは薬研で薬を熱心に砕いていた。
「また薬作りをしていたのか」
「薬草の組み合わせは無限だからな」
「それにしても、ジョウが開いた『救衆院(診療所)』は大繁盛だな」
「今、人手不足で困っている。なぁ、ヨウ……武官を辞めて手伝ってくれないか」
「え? そんなこと、王様がお許しになるはずが……」
「だが、私たちもいつまでも若くはない。そして王様だって、いつから王位を世継ぎに譲るだろう。だからヨウも部下を育てて、自分の将来を考えるべきではないのか」
ジョウは、いつだって先を見据えている。
俺は今を生きることで精一杯なのに――
やはりジョウはすごい。
だからこそ、俺にはジョウが必要だ。
「急に……すまない。実はヨウが戦で命を落としてしまう夢を見て……不安になって……」
「俺も同じだ。お前と出会う前は命を捨てることなど少しも惜しくなかったのに……今はお前と寿命を全うしたいと願ってしまう。これでは武将として失格だ」
「今でなくてもいい。いずれ……そうしないか」
「俺も、いつか……お前の片腕になりたい」
「ジョウ……」
「ヨウ……」
ジョウが手を止めて、俺を抱きしめてくれる。
ふわり――
薄暗い小屋の中に、満ちていく月のような、爽快な香りが充満した。
「良い香りだな」
「丁子と橙皮と薄荷を使っている」
「何に効く?」
「ヨウのための薬だ。気分がすっきりするように」
「確かに……胃がムカムカしていたが、収まってきた」
「私たちはいつの世も一緒だ。私が常にヨウの盾になるから、ヨウは思いっきり矢を放て―― これはヨウを目覚めさせる香りだ」
「意味深なことを」
……
そこで目覚めた。
カーテンのない寝室の窓から、竹林をすり抜けてきた朝日が届く。
眩しくて手の甲で目を覆い、愛しい男の名を呼ぶ。
「ジョウ……どこだ?」
返事の代わりにシャワールームから水音がしたので、ガウンを羽織りシャワールームへ向かった。
扉を開けると、蒸気と共にスパイシーな香りが溢れてきた。
これは……
「洋、起きたのか」
「ん……」
その香りは、丈の水滴を纏った身体から生まれていた。
「どうした?」
「ボディソープを変えたのか」
「あぁ、実は瑠衣さんとアーサーさんが『R-Gray』社の製品をサンプルで送ってくれたので、試してみた」
「この香り……いいな」
「私も好きだ。主成分はクローブ(丁子)とダイダイの果皮(橙皮)とミント(薄荷)だそうだ」
「なんだって?」
遠い昔、丈が俺のために調合してくれた香りじゃないか。
千年の時を超えて、俺を目覚めさせに来たのか。
これは満ちていく月の香り。
気持ちを切り替えたい時、好奇心のままに大胆に行動したい時、この香りが背中を押してくれる。
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