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17章
季節の番外編『中秋の名月』
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『幸せな存在』でお月見の話を書いたので、こちらでも書きたくなりました。秋庭準備で多忙につき短いSSになりますが、どうぞ。
お月見と言えば、お月見団子。
団子と言えば、やっぱり、この人ですね!
では、どうぞ!
****
今年も暑い夏が過ぎ、少しずつ涼しさを感じるようになりました。
秋は「お月見」が日本の風物詩として有名です。
なんとなんと、今日は『中秋の名月』ですよ。
お月見団子をいただく日ですよ。
次にめでたいことです。
お天気も良さそうですので、夜、お月様とお会いするのが楽しみです。
よーし、気合いを入れて雑巾がけをしますよ。
ビューン、ビューン
固く絞った雑巾で、月影寺の長い廊下を一気に磨き上げていきます!
そこに作務衣姿の流さんが、小さな箱を沢山抱えてドタバタと歩いてきました。
「お! 小森、今日は張り切ってんな」
「はい! 今日もとっても良い日ですから」
「ついでに月見台の掃除も頼む」
「それはどこのことですか」
「母屋のウッドデッキのテラスだ」
「なるほど」
月影寺の母屋には、中庭に面した場所にウッドデッキがあります。
確かに『月見台』と言った方が、風情がありますね。
このお寺は月とご縁があるお寺なので、よくお似合いです。
「ところで、流さんが手に持っていらっしゃるお荷物はなんですか」
「あ? これか、これはとってもいい店のものだ」
「秘密……むむむ、あ、分かりました!」
「なんだ? わかるのか」
「ズバリ、それは、大人のおもちゃさんのでしょう」
「お、おい、人聞きの悪い! っていうかお前、意味しってんのか」
「しってますよーだ」
「……あやしいもんだ」
流さんが笑いながら行ってしまいました。
ちゃーんと知ってますよーだ。
大人のおもちゃって、『大人のおもちや』の略語でしょう?
ほろ苦い味のきなこにお餅をまぶした『大人きなこ餅』が名物にちがいないですよね。
どこにあるのでしょうか。
お取り寄せできるのですね。
****
朝のお勤めを終えて母屋の庫裡に向かって歩くと、小森くんがせっせとウッドデッキを掃除しているのが見えた。
あそこは、母屋の中庭に面した場所に設けられた『月見台』だ。
『月見台』とは、その名前の通り月を見るための場所のこと。ここに立てば、夜空に浮かぶ美しい月や庭の池に映る水面の月をずっと眺めることが出来る。
以前、ここで丈と流と酒を交わし、僕は丈に、流と生きていくと宣言した。
あの夜の誓いは、今も生きている。
……
『僕は幸せな時も困難な時も、流と心をひとつにし、支えあい、乗り越えて……この先の未来、笑顔が溢れるあたたかい時間を築いていくことを誓います』
……
懐かしさを噛みしめながら庫裡に向かうと、流が白い団子を丸めていた。
「流、お月見団子を作っているんだね」
「今日はお月見の会をしようと思ってな」
「あれは届いた?」
「あぁ、勢揃いだ」
「ふふ、喜ぶかな」
「あぁ、狂喜乱舞するだろう。全国からお月見団子を取り寄せるとは粋なことを」
「小森くんの喜ぶ顔を見たくてね」
****
夜になると、まん丸なお月様が姿を現しました。
南無~
大勢の人があそこに還っていき、そしてやってきました。
合掌していると、お腹がぐーっとなりました。
「お月様を見ていたら、お腹が空きましたよ」
「おー 小森、こんな所にいたのか。こっちへ来い」
「流さん、何事ですか」
「お前のために宴を用意した」
「なんでしょう?」
月見台に到着すると、ご住職さまが微笑んでいました。
「小森くん、ほら、日本全国のお月見団子をお取り寄せしたよ」
「えぇ!」
「これは関東のお月見団子で、満月を見立てた丸い形のピラミッド型。これは関西のお月団子で、里芋に似た形で細長く、あんこを巻いて作っているんだよ。秋に収穫する里芋をお供えした古来の十五夜の名残りだそうで……」
すごいです。
ご住職さまは、もしや「あんこ博士」では!
「これはどこのですか」
「これは名古屋だよ。片側を細く絞ったしずく型の月見団子が主流らしいよ。白、茶色、ピンクと3色もあって、可愛いね」
「美味しそうです。では、これはどこのものですか」
「これは九州の串団子だよ」
「ではでは、師匠、こちらは?」
何を聞いても、ご住職さまは優しく答えて下さいます。
このお寺では誰も僕のことを馬鹿にしません。
どこまでも丁寧に優しく、大切にしてくださいます。
「ご住職さまぁ~ 大好きです」
「小森くんは可愛いね。今度は一緒に和菓子を買いに行こう」
「あ、それなら、僕、行ってみたいお店があります」
「ん? どこかな?」
「ズバリ! 大人のおもちやさんです。流さんは場所を知っているようです」
「えっ……大人のおもちゃって、流は何を教えたんだ」
何故かご住職さまの説教が始まりました。
流さん、尊いお説教ですので、笑ってはいけませんよ。
おしまい!
お月見と言えば、お月見団子。
団子と言えば、やっぱり、この人ですね!
では、どうぞ!
****
今年も暑い夏が過ぎ、少しずつ涼しさを感じるようになりました。
秋は「お月見」が日本の風物詩として有名です。
なんとなんと、今日は『中秋の名月』ですよ。
お月見団子をいただく日ですよ。
次にめでたいことです。
お天気も良さそうですので、夜、お月様とお会いするのが楽しみです。
よーし、気合いを入れて雑巾がけをしますよ。
ビューン、ビューン
固く絞った雑巾で、月影寺の長い廊下を一気に磨き上げていきます!
そこに作務衣姿の流さんが、小さな箱を沢山抱えてドタバタと歩いてきました。
「お! 小森、今日は張り切ってんな」
「はい! 今日もとっても良い日ですから」
「ついでに月見台の掃除も頼む」
「それはどこのことですか」
「母屋のウッドデッキのテラスだ」
「なるほど」
月影寺の母屋には、中庭に面した場所にウッドデッキがあります。
確かに『月見台』と言った方が、風情がありますね。
このお寺は月とご縁があるお寺なので、よくお似合いです。
「ところで、流さんが手に持っていらっしゃるお荷物はなんですか」
「あ? これか、これはとってもいい店のものだ」
「秘密……むむむ、あ、分かりました!」
「なんだ? わかるのか」
「ズバリ、それは、大人のおもちゃさんのでしょう」
「お、おい、人聞きの悪い! っていうかお前、意味しってんのか」
「しってますよーだ」
「……あやしいもんだ」
流さんが笑いながら行ってしまいました。
ちゃーんと知ってますよーだ。
大人のおもちゃって、『大人のおもちや』の略語でしょう?
ほろ苦い味のきなこにお餅をまぶした『大人きなこ餅』が名物にちがいないですよね。
どこにあるのでしょうか。
お取り寄せできるのですね。
****
朝のお勤めを終えて母屋の庫裡に向かって歩くと、小森くんがせっせとウッドデッキを掃除しているのが見えた。
あそこは、母屋の中庭に面した場所に設けられた『月見台』だ。
『月見台』とは、その名前の通り月を見るための場所のこと。ここに立てば、夜空に浮かぶ美しい月や庭の池に映る水面の月をずっと眺めることが出来る。
以前、ここで丈と流と酒を交わし、僕は丈に、流と生きていくと宣言した。
あの夜の誓いは、今も生きている。
……
『僕は幸せな時も困難な時も、流と心をひとつにし、支えあい、乗り越えて……この先の未来、笑顔が溢れるあたたかい時間を築いていくことを誓います』
……
懐かしさを噛みしめながら庫裡に向かうと、流が白い団子を丸めていた。
「流、お月見団子を作っているんだね」
「今日はお月見の会をしようと思ってな」
「あれは届いた?」
「あぁ、勢揃いだ」
「ふふ、喜ぶかな」
「あぁ、狂喜乱舞するだろう。全国からお月見団子を取り寄せるとは粋なことを」
「小森くんの喜ぶ顔を見たくてね」
****
夜になると、まん丸なお月様が姿を現しました。
南無~
大勢の人があそこに還っていき、そしてやってきました。
合掌していると、お腹がぐーっとなりました。
「お月様を見ていたら、お腹が空きましたよ」
「おー 小森、こんな所にいたのか。こっちへ来い」
「流さん、何事ですか」
「お前のために宴を用意した」
「なんでしょう?」
月見台に到着すると、ご住職さまが微笑んでいました。
「小森くん、ほら、日本全国のお月見団子をお取り寄せしたよ」
「えぇ!」
「これは関東のお月見団子で、満月を見立てた丸い形のピラミッド型。これは関西のお月団子で、里芋に似た形で細長く、あんこを巻いて作っているんだよ。秋に収穫する里芋をお供えした古来の十五夜の名残りだそうで……」
すごいです。
ご住職さまは、もしや「あんこ博士」では!
「これはどこのですか」
「これは名古屋だよ。片側を細く絞ったしずく型の月見団子が主流らしいよ。白、茶色、ピンクと3色もあって、可愛いね」
「美味しそうです。では、これはどこのものですか」
「これは九州の串団子だよ」
「ではでは、師匠、こちらは?」
何を聞いても、ご住職さまは優しく答えて下さいます。
このお寺では誰も僕のことを馬鹿にしません。
どこまでも丁寧に優しく、大切にしてくださいます。
「ご住職さまぁ~ 大好きです」
「小森くんは可愛いね。今度は一緒に和菓子を買いに行こう」
「あ、それなら、僕、行ってみたいお店があります」
「ん? どこかな?」
「ズバリ! 大人のおもちやさんです。流さんは場所を知っているようです」
「えっ……大人のおもちゃって、流は何を教えたんだ」
何故かご住職さまの説教が始まりました。
流さん、尊いお説教ですので、笑ってはいけませんよ。
おしまい!
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