重なる月

志生帆 海

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17章

月光の岬、光の矢 34

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 一つ一つの記憶が鮮明に蘇り、俺がこの世ですべきことがクリアになっていく。

 どうして俺だったのか。
 
 どうして俺は丈と出会ったのか。

 俺が出会った人との縁も絡んでくる。

 全ては繋がっていたのだ。

 俺はスクッと立ち上がり、外に駆け出した。

 眼前に広がる広い海に向かって大きく手を広げ、海風と共に己を抱きしめた。

 俺を解放できるのは、俺自信だったのだ。

 俺から行動を起こして、俺が叶えるはずだった夢を叶えていこう。

 そのまま隣りの洋館に向かった。

 呼び鈴を鳴らすと、すぐに瑠衣さんが出てきてくれた。

「あ……おはようございます」
「おはよう。洋くん。お待ちしていましたよ」

 瑠衣さんは黒い執事服を着用し、ビシッと決めていた。

 洗練されたノーブルな雰囲気の瑠衣さんに、一瞬蹴落とされそうになる。

 この人は……なんて美しい人間なんだ。

 これが正真正銘の執事なのか。

 まるでクラシカルな映画の世界のようだ。
 
 瑠衣さんを見ていると、実年齢など関係ないとしみじみと思う。

 その人の気構え、心構え次第なのだ。

 いくつになっても出来ることは出来る。
 
 そしてアーサーさんのお出ましだ。

 この人はまたなんて高貴な雰囲気を放っているのか。

 生まれながらの貴族。
 
 洗練された身のこなしに、またクラシカルな映画の世界に入り込んだような心地になり、思わず目を擦ってしまった。

「やぁ、待っていたよ。早速打ち合わせをしよう」
「はい、お願いします」


 隣の家はシックな英国製の家具や壁紙、カーテンでまとめられていた。
 

「どうぞ、ブレックファーストティーですよ。心を解してください」
「美味しいですね」
「ブレックファーストティーは、文字通り、朝食と共に楽しむ紅茶のことです。18世紀、イギリスのアン王女が始めた習慣で、イギリスの朝食はボリュームがあり、時間をかけて食べるのが一般的で、一晩の断食(ファスト)を破る(ブレイク)という意味があります」
「破る……」
 
 その言葉に、ハッとした。
 今の俺が求めていた言葉だ。
 自分の殻を破って、進みたい。
 そのために動いている。
 
 瑠衣さんと目が合うと、優しく微笑まれた。

「あの、僕がパーティードリンクの提案をしてもいいですか」
「何ですか」
「この茶葉のカクテルを出すのはいかがですか」
「あの、どうしてそう思われたのですか」
「洋くんに相応しいと思うので」
「その通りです。俺は今までの自分から脱出したいと……」
「……応援していますよ。あなたが綺麗に脱皮できることを」

 そうだ。

 俺は、長い年月をかけて自心に心に鎧を重ねてきた。

 丈、翠さん流さん……おばあさま、瑞樹くんたちと出逢いどんどん心が軽くなったが……まだどこか身体の一部が重たかった。

 錆びて外れなくなった鎧、壊してしまえばいい。

 生まれたての気持ちを取り戻すためには、それが必要だ。

 
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