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17章
月光の岬、光の矢 30
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丈と男同士の約束を交わした。
俺はもう守られるだけの男ではない。
丈と力を対等に合わせ、時には支えてやりたい。
そんな男として生きていこう。
意気揚々と丈を見つめると、少しだけ丈が複雑な顔をした。
「どうかしたか」
「もしかしたら……私はもう洋を抱けないのか」
おいおい、丈がそんな不安を抱くとは。
「まさか! 馬鹿だな」
己の身は、今すぐにでもお前に抱かれることを望んでいる。
身体の奥深い場所で、丈の脈動をしっかり感じたいと切望しているのに。
遠い昔から求め合った魂を融合させるのは、俺の切なる願いだ。
番を失ってから何度も夢見た逢瀬は、この世で何度でも叶えていこう。
「丈、俺は夢を見た数だけ、涙を流した量だけ、いやそれ以上、お前と深く結合したい。ただ長い期間ダメージを受け続けた弱々しい心が、丈によって満たされ完全に生き返ったというわけさ」
「なるほど、だからそんなに凜々しい表情をするようになったのだな」
「そう見えるか」
「あぁ、頼もしい男の顔だ」
丈が俺の頬に優しく手を添えて、熱心に見つめてくる。
「開院に間に合ったとな」
「あぁ」
本来の自分をまた一つ取り出せた夜だった。
月影寺に戻る道すがら、車の窓から海上に浮かぶ月を見つめ続けた。
月はいつも傍にいてくれる。
これからも俺たちは月と共にいる。
「俺も明日から忙しくなるな」
「あぁ、ラストスパートだ。一気に行くぞ」
「了解!」
車を停めて山門を潜ると、流さんと翠さんが立っていた。
「どうしたんです? 二人揃って」
「いや、その……月が綺麗だから散歩を……」
翠さんは少し決まり悪そうな表情を浮かべ、流さんは隣りで豪快に笑っていた。
「おいおい、翠は素直じゃねーな! お前達の帰りが遅いから、翠はやきもきしていたのさ」
「あ、遅くなってしまいました」
「いや……そうじゃないんだ。遅くなるのは構わない。ただ……その……ふたりは、これからも戻ってきてくれるだろうか……と……」
翠さんのいつになく自信なさげな様子に、俺と丈は顔を見合わせてしまった。
「洋、翠兄さんに宣言してくれないか」
丈が俺に任せてくれる。
昔はいつも丈が、口下手で弱々しい俺の盾となり傘になってくれたが、今は違う。
自分の想いを伝える力を得た。
「翠兄さん、ここが俺たちの終の棲家です。翠兄さんが張って下さった結界の中で羽を休めたいです。ずっと月影寺の一員でいたいです。これからは由比ヶ浜の診療所で精一杯働いて、ここに戻ってきます。そうしてもいいですか」
真っ直ぐに言葉を放つと、翠さんは瞳を潤ませた。
「あぁ、君は本当に僕が知る洋くんなのか。言葉に力が、言葉に光が……洋くん、お帰り。本来の君に会えて嬉しいよ」
流石翠さんだ。
俺が語るよりも察して、本当にすごい人だ。
「翠兄さん、流兄さん、私たちは七夕の夜に由比ヶ浜に診療所を開院します。その暁にはお披露目パーティーを開きますので、是非いらして下さい」
丈の言葉にも、力が漲っていた。
日程を決めてくれて、ありがとう。
着地点が決まれば、動きやすくなる!
「というわけなので、明日から俺は由比ヶ浜の診療所に通って、開院準備をします」
孤独で殻に閉じこもってばかりだった俺たちは、こんなにも強くなった。
しっかりとした意志を持てるようになった。
俺はもう守られるだけの男ではない。
丈と力を対等に合わせ、時には支えてやりたい。
そんな男として生きていこう。
意気揚々と丈を見つめると、少しだけ丈が複雑な顔をした。
「どうかしたか」
「もしかしたら……私はもう洋を抱けないのか」
おいおい、丈がそんな不安を抱くとは。
「まさか! 馬鹿だな」
己の身は、今すぐにでもお前に抱かれることを望んでいる。
身体の奥深い場所で、丈の脈動をしっかり感じたいと切望しているのに。
遠い昔から求め合った魂を融合させるのは、俺の切なる願いだ。
番を失ってから何度も夢見た逢瀬は、この世で何度でも叶えていこう。
「丈、俺は夢を見た数だけ、涙を流した量だけ、いやそれ以上、お前と深く結合したい。ただ長い期間ダメージを受け続けた弱々しい心が、丈によって満たされ完全に生き返ったというわけさ」
「なるほど、だからそんなに凜々しい表情をするようになったのだな」
「そう見えるか」
「あぁ、頼もしい男の顔だ」
丈が俺の頬に優しく手を添えて、熱心に見つめてくる。
「開院に間に合ったとな」
「あぁ」
本来の自分をまた一つ取り出せた夜だった。
月影寺に戻る道すがら、車の窓から海上に浮かぶ月を見つめ続けた。
月はいつも傍にいてくれる。
これからも俺たちは月と共にいる。
「俺も明日から忙しくなるな」
「あぁ、ラストスパートだ。一気に行くぞ」
「了解!」
車を停めて山門を潜ると、流さんと翠さんが立っていた。
「どうしたんです? 二人揃って」
「いや、その……月が綺麗だから散歩を……」
翠さんは少し決まり悪そうな表情を浮かべ、流さんは隣りで豪快に笑っていた。
「おいおい、翠は素直じゃねーな! お前達の帰りが遅いから、翠はやきもきしていたのさ」
「あ、遅くなってしまいました」
「いや……そうじゃないんだ。遅くなるのは構わない。ただ……その……ふたりは、これからも戻ってきてくれるだろうか……と……」
翠さんのいつになく自信なさげな様子に、俺と丈は顔を見合わせてしまった。
「洋、翠兄さんに宣言してくれないか」
丈が俺に任せてくれる。
昔はいつも丈が、口下手で弱々しい俺の盾となり傘になってくれたが、今は違う。
自分の想いを伝える力を得た。
「翠兄さん、ここが俺たちの終の棲家です。翠兄さんが張って下さった結界の中で羽を休めたいです。ずっと月影寺の一員でいたいです。これからは由比ヶ浜の診療所で精一杯働いて、ここに戻ってきます。そうしてもいいですか」
真っ直ぐに言葉を放つと、翠さんは瞳を潤ませた。
「あぁ、君は本当に僕が知る洋くんなのか。言葉に力が、言葉に光が……洋くん、お帰り。本来の君に会えて嬉しいよ」
流石翠さんだ。
俺が語るよりも察して、本当にすごい人だ。
「翠兄さん、流兄さん、私たちは七夕の夜に由比ヶ浜に診療所を開院します。その暁にはお披露目パーティーを開きますので、是非いらして下さい」
丈の言葉にも、力が漲っていた。
日程を決めてくれて、ありがとう。
着地点が決まれば、動きやすくなる!
「というわけなので、明日から俺は由比ヶ浜の診療所に通って、開院準備をします」
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しっかりとした意志を持てるようになった。
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