重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
1,616 / 1,657
17章

月光の岬、光の矢 30

しおりを挟む
 丈と男同士の約束を交わした。
 
 俺はもう守られるだけの男ではない。

 丈と力を対等に合わせ、時には支えてやりたい。

 そんな男として生きていこう。

 意気揚々と丈を見つめると、少しだけ丈が複雑な顔をした。

「どうかしたか」
「もしかしたら……私はもう洋を抱けないのか」

 おいおい、丈がそんな不安を抱くとは。

「まさか! 馬鹿だな」

 己の身は、今すぐにでもお前に抱かれることを望んでいる。

 身体の奥深い場所で、丈の脈動をしっかり感じたいと切望しているのに。

 遠い昔から求め合った魂を融合させるのは、俺の切なる願いだ。

 番を失ってから何度も夢見た逢瀬は、この世で何度でも叶えていこう。

「丈、俺は夢を見た数だけ、涙を流した量だけ、いやそれ以上、お前と深く結合したい。ただ長い期間ダメージを受け続けた弱々しい心が、丈によって満たされ完全に生き返ったというわけさ」
「なるほど、だからそんなに凜々しい表情をするようになったのだな」
「そう見えるか」
「あぁ、頼もしい男の顔だ」

 丈が俺の頬に優しく手を添えて、熱心に見つめてくる。

「開院に間に合ったとな」
「あぁ」

 本来の自分をまた一つ取り出せた夜だった。




 月影寺に戻る道すがら、車の窓から海上に浮かぶ月を見つめ続けた。

 月はいつも傍にいてくれる。

 これからも俺たちは月と共にいる。

「俺も明日から忙しくなるな」
「あぁ、ラストスパートだ。一気に行くぞ」
「了解!」



 車を停めて山門を潜ると、流さんと翠さんが立っていた。

「どうしたんです? 二人揃って」
「いや、その……月が綺麗だから散歩を……」

 翠さんは少し決まり悪そうな表情を浮かべ、流さんは隣りで豪快に笑っていた。

「おいおい、翠は素直じゃねーな! お前達の帰りが遅いから、翠はやきもきしていたのさ」
「あ、遅くなってしまいました」
「いや……そうじゃないんだ。遅くなるのは構わない。ただ……その……ふたりは、これからも戻ってきてくれるだろうか……と……」

 翠さんのいつになく自信なさげな様子に、俺と丈は顔を見合わせてしまった。

「洋、翠兄さんに宣言してくれないか」

 丈が俺に任せてくれる。

 昔はいつも丈が、口下手で弱々しい俺の盾となり傘になってくれたが、今は違う。

 自分の想いを伝える力を得た。

「翠兄さん、ここが俺たちの終の棲家です。翠兄さんが張って下さった結界の中で羽を休めたいです。ずっと月影寺の一員でいたいです。これからは由比ヶ浜の診療所で精一杯働いて、ここに戻ってきます。そうしてもいいですか」

 真っ直ぐに言葉を放つと、翠さんは瞳を潤ませた。

「あぁ、君は本当に僕が知る洋くんなのか。言葉に力が、言葉に光が……洋くん、お帰り。本来の君に会えて嬉しいよ」

 流石翠さんだ。

 俺が語るよりも察して、本当にすごい人だ。

「翠兄さん、流兄さん、私たちは七夕の夜に由比ヶ浜に診療所を開院します。その暁にはお披露目パーティーを開きますので、是非いらして下さい」

 丈の言葉にも、力が漲っていた。

 日程を決めてくれて、ありがとう。
 
 着地点が決まれば、動きやすくなる!

「というわけなので、明日から俺は由比ヶ浜の診療所に通って、開院準備をします」

 孤独で殻に閉じこもってばかりだった俺たちは、こんなにも強くなった。

 しっかりとした意志を持てるようになった。

しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

忘れ物

うりぼう
BL
記憶喪失もの 事故で記憶を失った真樹。 恋人である律は一番傍にいながらも自分が恋人だと言い出せない。 そんな中、真樹が昔から好きだった女性と付き合い始め…… というお話です。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

帰宅

pAp1Ko
BL
遊んでばかりいた養子の長男と実子の双子の次男たち。 双子を庇い、拐われた長男のその後のおはなし。 書きたいところだけ書いた。作者が読みたいだけです。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

処理中です...