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17章
月光の岬、光の矢 29
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瑠衣さんから語られた洋の母親のエピソードに心が揺さぶられたのは、洋だけじゃない。
私の心も高揚していた。
盛り上がっていた。
瑠衣さんの言葉に感動した。
……
「では、いつか海里が病院勤めをやめて開業したら、夕さんもお手伝いしてあげるといいですよ。海里と柊一さんは夕さんが大好きですから、大歓迎ですよ」
「まぁ、なんて素敵な夢なの。いつかきっと……」
……
洋の母親が密かに願ったのは、まさに今から洋が私の診療所でしようとしていることだ。
残念なことに、夕さんはその夢を叶える前に、駆け落ちという形で家を飛び出してしまった。だから海里先生が50代半ばで病院勤めを辞め、由比ヶ浜に診療所を開院した時には、姿も見えなかったのだ。
海里先生もきっといつまでも待っていただろう。
幼い時から可愛がっていた夕さんが診療所を手伝いたいと話していたのを、瑠衣さんから聞いて楽しみにしていたに違いない。
ならば、私が海里先生の夢を叶えよう。
私にも使命があったということか。
ますます洋と二人で診療所で過ごす日々がますます待ち遠しくなった。
「瑠衣さん、貴重な話をありがとうございます。俺……母を知らなすぎて……何も教えてもらえないまま天国へいってしまったので」
「洋くん、僕たちでよければいくらでも。但しそれが洋くんが前に進める糧になるのならば」
「はい、今の話で俺の迷いは吹っ切れました。母の夢を引き継げるなんて……母の夢を叶えるためにも、診療所の仕事に打ち込みたいです」
月光に照らされた洋の横顔は、ゾクッとする程美しかった。
最近強く思う。
意志を持った洋は、どこまでも凜々しいと。
ヨウ将軍のように、周りを惹きつけて、洋は大空に羽ばたいていく。
私も一緒に行こう。
「ヨウがいれば鉛のように重たかった身体が、軽々と動き出す」
侍医だったジョウの台詞も聞こえる。
寡黙な男も愛を知り、胸の鼓動が早くなったのか。
共に歩みたい人を得た人の心は鋼のように強い。
守り守られて高め合っていく二人のシルエットが砂浜に映っている。
そんな幻を見るようだった。
「洋くん、俺たちは暫くここに滞在することにしたよ」
「アーサー いいの? 英国にそろそろ戻らないと」
「大丈夫だ。何より、お隣さんの世話を焼きたいんだ」
「ふっ、君らしいね」
「瑠衣、俺たちに残された人生は俺たちのものだ。瑠衣がしたいことは、俺がしたいことだ。海里が見られなかった夢を、この目で見るまで帰国しないよ」
アーサーさんと瑠衣さんも、同じ夢を見ているのか。
ここはもう一気に、開業まで進めるべきだ。
もう立ち止まる理由はない。
この夏、私は由比ヶ浜に診療所を開院する。
それはきっと遠い昔から決まっていたこと。
私と洋だけの夢ではなく、おとぎ話の住民の夢でもあったのだ。
俄然やる気が増してきた。
まるで大手術前のモチベーションアップだ。
「洋、早速明日から瑠衣さんたちとパーティーの打ち合せをしよう。私は日中は仕事があるから、任せてもいいか」
洋の肩に手を置くと、洋が真っ直ぐに私を見つめた。
洋の視線は、まるで光の矢のように、私を貫いていく。
「あぁ、俺が動くから、任せろ」
いつか聞いたような懐かしくも新鮮な台詞だった。
そうか、これが新しい洋なのだ。
私の心も高揚していた。
盛り上がっていた。
瑠衣さんの言葉に感動した。
……
「では、いつか海里が病院勤めをやめて開業したら、夕さんもお手伝いしてあげるといいですよ。海里と柊一さんは夕さんが大好きですから、大歓迎ですよ」
「まぁ、なんて素敵な夢なの。いつかきっと……」
……
洋の母親が密かに願ったのは、まさに今から洋が私の診療所でしようとしていることだ。
残念なことに、夕さんはその夢を叶える前に、駆け落ちという形で家を飛び出してしまった。だから海里先生が50代半ばで病院勤めを辞め、由比ヶ浜に診療所を開院した時には、姿も見えなかったのだ。
海里先生もきっといつまでも待っていただろう。
幼い時から可愛がっていた夕さんが診療所を手伝いたいと話していたのを、瑠衣さんから聞いて楽しみにしていたに違いない。
ならば、私が海里先生の夢を叶えよう。
私にも使命があったということか。
ますます洋と二人で診療所で過ごす日々がますます待ち遠しくなった。
「瑠衣さん、貴重な話をありがとうございます。俺……母を知らなすぎて……何も教えてもらえないまま天国へいってしまったので」
「洋くん、僕たちでよければいくらでも。但しそれが洋くんが前に進める糧になるのならば」
「はい、今の話で俺の迷いは吹っ切れました。母の夢を引き継げるなんて……母の夢を叶えるためにも、診療所の仕事に打ち込みたいです」
月光に照らされた洋の横顔は、ゾクッとする程美しかった。
最近強く思う。
意志を持った洋は、どこまでも凜々しいと。
ヨウ将軍のように、周りを惹きつけて、洋は大空に羽ばたいていく。
私も一緒に行こう。
「ヨウがいれば鉛のように重たかった身体が、軽々と動き出す」
侍医だったジョウの台詞も聞こえる。
寡黙な男も愛を知り、胸の鼓動が早くなったのか。
共に歩みたい人を得た人の心は鋼のように強い。
守り守られて高め合っていく二人のシルエットが砂浜に映っている。
そんな幻を見るようだった。
「洋くん、俺たちは暫くここに滞在することにしたよ」
「アーサー いいの? 英国にそろそろ戻らないと」
「大丈夫だ。何より、お隣さんの世話を焼きたいんだ」
「ふっ、君らしいね」
「瑠衣、俺たちに残された人生は俺たちのものだ。瑠衣がしたいことは、俺がしたいことだ。海里が見られなかった夢を、この目で見るまで帰国しないよ」
アーサーさんと瑠衣さんも、同じ夢を見ているのか。
ここはもう一気に、開業まで進めるべきだ。
もう立ち止まる理由はない。
この夏、私は由比ヶ浜に診療所を開院する。
それはきっと遠い昔から決まっていたこと。
私と洋だけの夢ではなく、おとぎ話の住民の夢でもあったのだ。
俄然やる気が増してきた。
まるで大手術前のモチベーションアップだ。
「洋、早速明日から瑠衣さんたちとパーティーの打ち合せをしよう。私は日中は仕事があるから、任せてもいいか」
洋の肩に手を置くと、洋が真っ直ぐに私を見つめた。
洋の視線は、まるで光の矢のように、私を貫いていく。
「あぁ、俺が動くから、任せろ」
いつか聞いたような懐かしくも新鮮な台詞だった。
そうか、これが新しい洋なのだ。
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