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17章
月光の岬、光の矢 25
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「おばあ様、ありがとうございました」
「洋ちゃん、また来てね」
「はい、今度はおばあ様も遊びにいらして下さい」
そう伝えると、祖母は少女のように微笑んだ。
「洋ちゃんからのお誘い、嬉しいわ」
「白江さん……」
丈が祖母の手を握った。
「あら」
「素晴らしい刺繍をありがとうございました。洋とお揃いになって嬉しいです」
丈がこんな風に素直に感情を込めて祖母に礼を言うのは想定外で、驚いた。
俺も変わったが、丈も変わったのだな。
出会った当初は、どこか冷めた目で淡々と物事を処理していく姿が印象的だったが、今はもう違う。
俺たちは愛を知った。
そして、現在進行形で、心から人を愛することを学び合っている。
だから人に優しくなれる。
俺たちと交流してくれる人を、心から愛おしいと思い、大切にしたい。
「次回は、私の診療所の開院の暁ですね」
「えぇ、確か、お披露目会をして下さるのよね?」
「もちろんです。元々は白江さんの別荘だった場所です。それから白江さんと縁の深い海里先生の意志を継がせていただくのですから」
祖母の目がキラキラと輝いた。
何を言い出すのか。
祖母は茶目っ気のある人で、好奇心も旺盛だ。
「お披露目会って、もちろんパーティーのことでしょう? 華やかなパーティーになりそうね」
そう来るのか。
「あの……私はそんな華やかなパーティーを主催する柄ではありませんので……それは難しいです」
「まぁ、そんなことを心配なさっているの?」
「簡単に身内に診療所の中を見せる会でも設けられたらと思っていたので」
「まぁ、もったいないわ。海里先生が診療所を開院する時はとっても素敵なパーティーをしたのよ。あぁ、誤解しちゃったかしら? あのね、不特定多数の人を呼ぶ派手なものではなく、身内だけのこじんまりとしたアットホームだけど華やかなパーティーだったのよ」
「身内だけ……そういうことでしたら……」
俺たちはパーティーの主役になる柄ではないが、海里先生が開かれたパーティーには魅力を感じた。
俺の大事な人たちに集まってもらいたい。
アットホームだが、華やかなパーティーか。
流さんが張り切りそうだし、翠さんは喜んでくれそうだ。
こもりくんは場を盛り上げてくれるだろうし……
宗吾さんや瑞樹くん、芽生くんにも来てもらいたい。
それからこのお屋敷で、おばあさまを支えて下さる人たちも招待したい。
「丈、俺もしてみたい」
「そうだな、来て下さる人に楽しんでいただきたいな。よし、洋のおばあさまのお知恵を拝借しよう」
俺は祖母の手を取った。
「おばあ様」
「洋ちゃん、なぁに?」
「あの……パーティーの企画を一緒に考えて下さいますか。俺、そういうのには不慣れで……おばあ様の力が必要です」
「もちろんよ! 幸いなことにパーティー慣れしている英国貴族のアーサーたちが帰国中よ。私たちは、昔からパーティーが大好きなの。だから若い頃のようにワクワクしてきたわ」
祖母の笑顔が道標だ。
今の俺たちは、ただ俺たちだけが一緒にいればいいという閉鎖的な考えから離れ、周囲の人たちに目を配る余裕が生まれていた。
「ぜひ、お願いします。おばあ様と一緒に計画したいです。丈が診療所の準備をしている間、俺にも出来ることがあって嬉しい」
「洋ちゃんが行動を起こせば、世界は広がるのよ。最初の一歩は勇気がいるけれども、あなたはもう一人ではないから大丈夫よ」
祖母は前向きな人だから、俺はいつも元気をもらっている。
白金の館からの帰路、丈が口を開いた。
「洋、寄り道をしてもいいか」
「あぁ、俺もそのつもりだ」
俺たちは由比ヶ浜に向かった。
耐震工事が終わったばかりの洋館の様子を見に行こう。
灯りを灯す日が、ようやくやってきた。
「洋ちゃん、また来てね」
「はい、今度はおばあ様も遊びにいらして下さい」
そう伝えると、祖母は少女のように微笑んだ。
「洋ちゃんからのお誘い、嬉しいわ」
「白江さん……」
丈が祖母の手を握った。
「あら」
「素晴らしい刺繍をありがとうございました。洋とお揃いになって嬉しいです」
丈がこんな風に素直に感情を込めて祖母に礼を言うのは想定外で、驚いた。
俺も変わったが、丈も変わったのだな。
出会った当初は、どこか冷めた目で淡々と物事を処理していく姿が印象的だったが、今はもう違う。
俺たちは愛を知った。
そして、現在進行形で、心から人を愛することを学び合っている。
だから人に優しくなれる。
俺たちと交流してくれる人を、心から愛おしいと思い、大切にしたい。
「次回は、私の診療所の開院の暁ですね」
「えぇ、確か、お披露目会をして下さるのよね?」
「もちろんです。元々は白江さんの別荘だった場所です。それから白江さんと縁の深い海里先生の意志を継がせていただくのですから」
祖母の目がキラキラと輝いた。
何を言い出すのか。
祖母は茶目っ気のある人で、好奇心も旺盛だ。
「お披露目会って、もちろんパーティーのことでしょう? 華やかなパーティーになりそうね」
そう来るのか。
「あの……私はそんな華やかなパーティーを主催する柄ではありませんので……それは難しいです」
「まぁ、そんなことを心配なさっているの?」
「簡単に身内に診療所の中を見せる会でも設けられたらと思っていたので」
「まぁ、もったいないわ。海里先生が診療所を開院する時はとっても素敵なパーティーをしたのよ。あぁ、誤解しちゃったかしら? あのね、不特定多数の人を呼ぶ派手なものではなく、身内だけのこじんまりとしたアットホームだけど華やかなパーティーだったのよ」
「身内だけ……そういうことでしたら……」
俺たちはパーティーの主役になる柄ではないが、海里先生が開かれたパーティーには魅力を感じた。
俺の大事な人たちに集まってもらいたい。
アットホームだが、華やかなパーティーか。
流さんが張り切りそうだし、翠さんは喜んでくれそうだ。
こもりくんは場を盛り上げてくれるだろうし……
宗吾さんや瑞樹くん、芽生くんにも来てもらいたい。
それからこのお屋敷で、おばあさまを支えて下さる人たちも招待したい。
「丈、俺もしてみたい」
「そうだな、来て下さる人に楽しんでいただきたいな。よし、洋のおばあさまのお知恵を拝借しよう」
俺は祖母の手を取った。
「おばあ様」
「洋ちゃん、なぁに?」
「あの……パーティーの企画を一緒に考えて下さいますか。俺、そういうのには不慣れで……おばあ様の力が必要です」
「もちろんよ! 幸いなことにパーティー慣れしている英国貴族のアーサーたちが帰国中よ。私たちは、昔からパーティーが大好きなの。だから若い頃のようにワクワクしてきたわ」
祖母の笑顔が道標だ。
今の俺たちは、ただ俺たちだけが一緒にいればいいという閉鎖的な考えから離れ、周囲の人たちに目を配る余裕が生まれていた。
「ぜひ、お願いします。おばあ様と一緒に計画したいです。丈が診療所の準備をしている間、俺にも出来ることがあって嬉しい」
「洋ちゃんが行動を起こせば、世界は広がるのよ。最初の一歩は勇気がいるけれども、あなたはもう一人ではないから大丈夫よ」
祖母は前向きな人だから、俺はいつも元気をもらっている。
白金の館からの帰路、丈が口を開いた。
「洋、寄り道をしてもいいか」
「あぁ、俺もそのつもりだ」
俺たちは由比ヶ浜に向かった。
耐震工事が終わったばかりの洋館の様子を見に行こう。
灯りを灯す日が、ようやくやってきた。
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