重なる月

志生帆 海

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17章

月光の岬、光の矢 24

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 前置き

 本日は突然ですが、まるでおとぎ話&ランドマークとのクロスオーバーです。『花の蜜11』https://estar.jp/novels/25598236/viewer?page=145
 瑠衣とアーサー視点になります。

****

 由比ヶ浜、瑠衣の家。

「瑠衣、どうした、ずっと窓辺に佇んで」
「あ……今日は空気が澄んでいるから星が見えるかと思って」
「星か! よし外に出てみよう」
「いいの?」
「当たり前だ」

 アーサーと外に出ると、海の匂いを強く感じた。

 白亜の洋館の眼前は海なので当たり前だが、この匂いを嗅ぐと、どうしても思い出してしまう。

 僕の兄、海里。

 そして柊一さまのことを。

 二人を思い出すと、こみ上げてくるものがある。

 思慕の情が湧いてくる。

「アーサー、北極星が見えるよ」
「え? ここでは無理だろう?」
「ちゃんと見えるんだ。僕の心の中に」
 
 そう呟くと、アーサーが肩を抱いてくれた。

「そうか……今、海里を思い出しているんだな」
「うん……海里は柊一さまにとって北極星のような男だったね」
「北極星といえば、あの日の手紙を思い出すな」
「そうなんだ。今日は無性に読み帰したくて……」

 胸元に入れておいた柊一さまからの手紙を取り出した。

 遠い昔、英国に届いた、海里と柊一さまがお付き合いしている旨を知らせる大切な手紙だ。

……
 瑠衣……どうか驚かないで欲しい。
 僕だけの北極星ポラリス見つけたよ。
 希望という星だ。
 雪也も大きくなり、いつも僕と一緒にいる。
 今年の秋から冬にかけて、とうとう手術をするよ。
 雪也も僕もちゃんと生きている。
 だから瑠衣も……英国で元気に幸せに生きていて欲しい。
                         信愛なる瑠衣へ
                            柊一より
……
 
 あの日の衝撃と喜びを思い出すと、今度は胸が一杯になった。
 
 生まれながらの貴公子、柊一さまは、あまりに純粋過ぎて悪い人間に騙されそうで気がかりだった。それが海里と一緒にいると聞いて心底、安堵した。
 
 二人は仲睦まじく、ずっとお互いに想い合っていた。

 ずっとずっと傍にいた。

 晩年は四六時中離れることなく寄り添って、由比ヶ浜の診療所で暮らしていた。

 海里の診療所があった建物を見ると、ブルーシートと足場が外れていた。

「あ……やっと工事終わったのか」
「そうみたいだな。随分長いこと耐震工事をしていたな」
「そうだね……白江さんのお孫さんのパートナーがここで開院すると聞いているが……どうなったのだろう?」
「リフォームと並行して耐震工事をしたそうだから、いよいよだな」
「詳しいね」
「大工さんと懇意になって情報を仕入れたのさ」
「アーサーは流石だ」

 人懐っこいアーサーは、この歳になっても相変わらず好奇心旺盛だ。

「君のお役に立てたかな?」
「うん」
「その返事の仕方! 瑠衣はいつまでも可愛いよな」
「……こんな年齢になって言われる言葉じゃないよ」
「照れなくていい。俺たちの心の中はいつまでも青春を駆け巡っているのだから」
「……まぁ、そうだけど」
「何故だか分かるか」
「……」

 アーサーが耳打する。

『それは生涯恋をしているからさ』

 その言葉に頬が染まる。

 きっと死が二人を分かつ先も、恋してる。

 雲の上の世界にいっても、僕たちは一緒だ。

「あ、そういうことか」
「どうした?」
「海里と柊一さまも、このような気分だったのだろうね」
「……そうだな、あいつら雲の上でもイチャイチャしているだろうな。柊一が初心なのも変わらずだろうし」
「アーサー、なんて言い方」
「瑠衣、俺と後どれ位一緒にいられるかなど考えるな。俺たちはずっと一緒なのだから案ずるな」

 優しい抱擁と甘いキス。

 目を閉じれば、英国で出会い、恋を育んだ思い出が流れ星のように降ってくる。

 その瞬間パッと目映い光を感じ目を開けると、隣の洋館に明かりが灯っていた。

「眩しいね」
「誰かやって来たようだな」

 僕たちは海辺から、そっと洋館を見守った。

 暫くすると2階のバルコニーに出てきたのは……

 あぁ、彼らだ。

 海里の白衣を纏った丈さんと、白江さんの孫の洋くんだ。

 洋くんも白い看護師の服装で、二人はバルコニーで静かに抱き合っていた。

 彼らの愛が広がっていくようだ。

 眼前には海と月しかないから、そのまま迷いなく口づけをした。




 海里……

 そこからも見えているか。

 君が愛した診療所がいよいよ蘇る。
 
 海里と柊一さんが愛で満たした家が、再び愛で満ちていく。

 男同士の愛で満たされていく。

 
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