1,606 / 1,657
17章
月光の岬、光の矢 20
しおりを挟む
「洋、今宵も抱いていいか」
「あぁ、そうしてくれ」
俺はまるで息をするように、夜な夜な丈に身体を預けている。
夜毎に、俺たちの身体はひとつになる。
丈のものが俺の身体の中に入ると、とても落ち着く。
それが、俺たちの悲願だったからか。
だから何度身体を繋げても飽きることなく、その都度胸に迫るものがあるのさ。
「洋……」
丈が俺をベッドにそっと押し倒したので、自然と仰向けの体勢になった。
天井から星が降りてくる。
静かに、静かに、俺たちを包み込むように。
俺は目を細め、うっとりと星を見つめた。
目が慣れてくると、部屋全体も見渡した。
丈は性急に求めることなく、俺が部屋を隅々まで堪能するのに付き合ってくれた。
まるでクラシカルなホテルの客室のようだ。
大きな箪笥に洗面台、広いベッド。
二人掛けの革張りのソファ。
仕事をするための書斎机まで。
部屋に設えられたアンティーク家具の全てが調和し、居心地の良い雰囲気を醸し出していた。
「丈、ここは……祖母が用意してくれた俺の部屋だ」
「あぁ、その通りだ」
俺のために――
俺だけのために――
祖母から愛されているのが、この上なく嬉しい。
あぁ、また胸が熱くなる。
「居心地がいい部屋だな」
「俺もそう思うよ」
「どうやら、おばあ様は洋の好みをよく分かっているようだな」
「俺は夜空や深海、濃い青が好きだ」
「よく似合っている。洋の好きな色は私の好みでもある」
丈が枕に広がった俺の髪に指で梳き、そっとキスをした。
「青い世界に映える黒髪だ」
「丈の黒い瞳も、よく似合う」
それからお互いの服を脱がし合って、生まれたままの姿になった。
全裸で向き合えば、少しの羞恥心が芽生える。
いつまでも恥じらいを捨てきれないのは、何故なのか。
月夜の湖に沈んだあの儚げな洋月の記憶のせいかもな。
「丈、今日はほどほどにしろよ。ここは自宅ではないのだから」
「そうだな、明日、洋が淫らな顔にならない程度にしよう」
「おい、俺はいつもそんなに乱れてな……あっ……うっ」
巧みな丈の手の愛撫を受ければ、俺はすぐに溺れてしまう。
「くっ……ずるい……」
「何がだ?」
「丈の手……器用過ぎて……」
「感じるのか」
「あっ……うっ……」
部屋に甘美な百合の香りが満ちている。
おばあ様が用意してくださったアールグレイの紅茶の香りも……
紅茶と百合の芳しい香りの中、俺の素肌はうっすらと汗をかき、丈の上で跳ねた。
見上げれば――
天井だけでなく、壁にも星が瞬いていた。
まるで宇宙だ。
俺たちが彷徨い、巡り巡って辿り着いたのが、この地上。
****
「白江さん、おはようございます」
「おはよう、春馬さん」
「今日は一段と早いお出ましですね」
「ふふっ、待ち人がいるのよ」
カフェ月湖でモーニングティーを飲みながら、私はそわそわしていた。
こんな風に誰かを待つのは久しぶりね。
愛する娘たちが相次いで家を出て、夫を早くに亡くした私は長い間一人だった。
でも今日は違うわ。
可愛い孫が泊まっているのよ。
一緒に朝食を取ってくれるの。
「お孫さんとデートですね」
「あら、なんで分かるの」
「顔に書いてあります。少し寝不足ですか」
「刺繍を夢中でしていたのよ」
「なるほど、あっ、お孫さんのお出ましですよ」
階段から洋ちゃんが降りてきたわ。
少し眠そうな顔で、恥ずかしそうに。
想定内だから大丈夫よ。
私はウインクして、可愛い孫を出迎えた。
「あぁ、そうしてくれ」
俺はまるで息をするように、夜な夜な丈に身体を預けている。
夜毎に、俺たちの身体はひとつになる。
丈のものが俺の身体の中に入ると、とても落ち着く。
それが、俺たちの悲願だったからか。
だから何度身体を繋げても飽きることなく、その都度胸に迫るものがあるのさ。
「洋……」
丈が俺をベッドにそっと押し倒したので、自然と仰向けの体勢になった。
天井から星が降りてくる。
静かに、静かに、俺たちを包み込むように。
俺は目を細め、うっとりと星を見つめた。
目が慣れてくると、部屋全体も見渡した。
丈は性急に求めることなく、俺が部屋を隅々まで堪能するのに付き合ってくれた。
まるでクラシカルなホテルの客室のようだ。
大きな箪笥に洗面台、広いベッド。
二人掛けの革張りのソファ。
仕事をするための書斎机まで。
部屋に設えられたアンティーク家具の全てが調和し、居心地の良い雰囲気を醸し出していた。
「丈、ここは……祖母が用意してくれた俺の部屋だ」
「あぁ、その通りだ」
俺のために――
俺だけのために――
祖母から愛されているのが、この上なく嬉しい。
あぁ、また胸が熱くなる。
「居心地がいい部屋だな」
「俺もそう思うよ」
「どうやら、おばあ様は洋の好みをよく分かっているようだな」
「俺は夜空や深海、濃い青が好きだ」
「よく似合っている。洋の好きな色は私の好みでもある」
丈が枕に広がった俺の髪に指で梳き、そっとキスをした。
「青い世界に映える黒髪だ」
「丈の黒い瞳も、よく似合う」
それからお互いの服を脱がし合って、生まれたままの姿になった。
全裸で向き合えば、少しの羞恥心が芽生える。
いつまでも恥じらいを捨てきれないのは、何故なのか。
月夜の湖に沈んだあの儚げな洋月の記憶のせいかもな。
「丈、今日はほどほどにしろよ。ここは自宅ではないのだから」
「そうだな、明日、洋が淫らな顔にならない程度にしよう」
「おい、俺はいつもそんなに乱れてな……あっ……うっ」
巧みな丈の手の愛撫を受ければ、俺はすぐに溺れてしまう。
「くっ……ずるい……」
「何がだ?」
「丈の手……器用過ぎて……」
「感じるのか」
「あっ……うっ……」
部屋に甘美な百合の香りが満ちている。
おばあ様が用意してくださったアールグレイの紅茶の香りも……
紅茶と百合の芳しい香りの中、俺の素肌はうっすらと汗をかき、丈の上で跳ねた。
見上げれば――
天井だけでなく、壁にも星が瞬いていた。
まるで宇宙だ。
俺たちが彷徨い、巡り巡って辿り着いたのが、この地上。
****
「白江さん、おはようございます」
「おはよう、春馬さん」
「今日は一段と早いお出ましですね」
「ふふっ、待ち人がいるのよ」
カフェ月湖でモーニングティーを飲みながら、私はそわそわしていた。
こんな風に誰かを待つのは久しぶりね。
愛する娘たちが相次いで家を出て、夫を早くに亡くした私は長い間一人だった。
でも今日は違うわ。
可愛い孫が泊まっているのよ。
一緒に朝食を取ってくれるの。
「お孫さんとデートですね」
「あら、なんで分かるの」
「顔に書いてあります。少し寝不足ですか」
「刺繍を夢中でしていたのよ」
「なるほど、あっ、お孫さんのお出ましですよ」
階段から洋ちゃんが降りてきたわ。
少し眠そうな顔で、恥ずかしそうに。
想定内だから大丈夫よ。
私はウインクして、可愛い孫を出迎えた。
21
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる