重なる月

志生帆 海

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17章

月光の岬、光の矢 20

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「洋、今宵も抱いていいか」
「あぁ、そうしてくれ」

 俺はまるで息をするように、夜な夜な丈に身体を預けている。
 
 夜毎に、俺たちの身体はひとつになる。

 丈のものが俺の身体の中に入ると、とても落ち着く。

 それが、俺たちの悲願だったからか。

 だから何度身体を繋げても飽きることなく、その都度胸に迫るものがあるのさ。

「洋……」

 丈が俺をベッドにそっと押し倒したので、自然と仰向けの体勢になった。

 天井から星が降りてくる。
 
 静かに、静かに、俺たちを包み込むように。

 俺は目を細め、うっとりと星を見つめた。

 目が慣れてくると、部屋全体も見渡した。

 丈は性急に求めることなく、俺が部屋を隅々まで堪能するのに付き合ってくれた。

 まるでクラシカルなホテルの客室のようだ。

 大きな箪笥に洗面台、広いベッド。

 二人掛けの革張りのソファ。
 
 仕事をするための書斎机まで。

 部屋に設えられたアンティーク家具の全てが調和し、居心地の良い雰囲気を醸し出していた。

「丈、ここは……祖母が用意してくれた俺の部屋だ」
「あぁ、その通りだ」

 俺のために――

 俺だけのために――

 祖母から愛されているのが、この上なく嬉しい。

 あぁ、また胸が熱くなる。




「居心地がいい部屋だな」
「俺もそう思うよ」
「どうやら、おばあ様は洋の好みをよく分かっているようだな」
「俺は夜空や深海、濃い青が好きだ」
「よく似合っている。洋の好きな色は私の好みでもある」

 丈が枕に広がった俺の髪に指で梳き、そっとキスをした。

「青い世界に映える黒髪だ」
「丈の黒い瞳も、よく似合う」

 それからお互いの服を脱がし合って、生まれたままの姿になった。

 全裸で向き合えば、少しの羞恥心が芽生える。

 いつまでも恥じらいを捨てきれないのは、何故なのか。

 月夜の湖に沈んだあの儚げな洋月の記憶のせいかもな。

「丈、今日はほどほどにしろよ。ここは自宅ではないのだから」
「そうだな、明日、洋が淫らな顔にならない程度にしよう」
「おい、俺はいつもそんなに乱れてな……あっ……うっ」

 巧みな丈の手の愛撫を受ければ、俺はすぐに溺れてしまう。

「くっ……ずるい……」
「何がだ?」
「丈の手……器用過ぎて……」
「感じるのか」
「あっ……うっ……」

 部屋に甘美な百合の香りが満ちている。

 おばあ様が用意してくださったアールグレイの紅茶の香りも……

 紅茶と百合の芳しい香りの中、俺の素肌はうっすらと汗をかき、丈の上で跳ねた。

 見上げれば――

 天井だけでなく、壁にも星が瞬いていた。

 まるで宇宙だ。

 俺たちが彷徨い、巡り巡って辿り着いたのが、この地上。









****

「白江さん、おはようございます」
「おはよう、春馬さん」
「今日は一段と早いお出ましですね」
「ふふっ、待ち人がいるのよ」

 カフェ月湖でモーニングティーを飲みながら、私はそわそわしていた。

 こんな風に誰かを待つのは久しぶりね。

 愛する娘たちが相次いで家を出て、夫を早くに亡くした私は長い間一人だった。
 
 でも今日は違うわ。

 可愛い孫が泊まっているのよ。

 一緒に朝食を取ってくれるの。

「お孫さんとデートですね」
「あら、なんで分かるの」
「顔に書いてあります。少し寝不足ですか」
「刺繍を夢中でしていたのよ」
「なるほど、あっ、お孫さんのお出ましですよ」

 階段から洋ちゃんが降りてきたわ。

 少し眠そうな顔で、恥ずかしそうに。

 想定内だから大丈夫よ。

 私はウインクして、可愛い孫を出迎えた。






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