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17章
月光の岬、光の矢 17
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「おばあ様!」
俺が歩み寄ると、おばあ様も歩み寄って下さり、俺の身体を背伸びして抱きしめてくれた。
「あ、あのっ」
「洋ちゃん、いらっしゃい。ずっと楽しみにしていたわ。とても待ち遠しかったわ」
手放しで喜ばれると、しどろもどろになって、たじたじしてしまう。
いつもの悪い癖だ。
喉がつっかえて、言葉が出てこなくなる。
そうだ。
こんな時は、流さんとの会話を思い出そう。
……
「ほれほれ、洋はもっと素直になれよ。いいか、心の中に芽生えた気持ちを、素直に外に出せばいいんだ。ほらほら、俺がこじ開けてやる~」
「りゅ、流さん! ちょっと何するんですか」
「流、またそれ?」
「ちょ! 兄さん、何をするんですか!」
……
わざと俺のシャツを覗き込む流さんに、翠さんは苦笑し、丈はムスッとする。
そんな賑やかな情景が浮かび、ふっと肩の力が抜けた。
俺の方から祖母の身体を優しく抱きしめた。
「おばあ様、俺も会いたかったです」
「まぁ、洋ちゃんってば騎士さんみたいよ」
頬を染める祖母の様子はまるで少女のようだ。
高齢なのに、どこまでも愛らしく感じた。
すぐ横に立っていた雪也さんも、祖母の可憐な様子に目を細めた。
「そろそろカフェ『月湖』に移動しましょうか。丈さんもご一緒に」
流石雪也さんだ。
丈の存在にいち早く気づき、誘導して下さる。
「丈さん、まぁ、ますます凜々しくなられたわね」
「ありがとうございます、ご無沙汰して申し訳ありません」
「いいのよ。お医者さまがお忙しいのは重々承知しているわ。海里先生も病院にお勤めの時はいつも帰りが遅くて、大変だったわ」
「全くもってその通りです。だから……私はもうそろそろ……」
「待って! その先の台詞は私が」
「お分かりになるのですか」
おばあ様の表情、くるくる変わって、キラキラ眩しい。
いくつになっても好奇心を持っている人の顔だ。
「ふふっ、だって、海里先生も同じことを言っていったから」
「なるほど、すっかりバレているようですね」
「えぇ、答えはこうでしょう? もうそろそろ、愛する人と過ごす時間を大切にしたい」
おばあ様には全てお見通しのようで、頬が火照ってしまうよ。
「ね、洋ちゃん。良かったわね。あなたが大好きな丈さんとずっと一緒にいられて。柊一さんも嬉しそうに由比ヶ浜の診療所のお手伝いをしていたのよ」
「お……おばあ様の仰る通りです」
もう、あのように恐ろしいことは起きない。
何も起きないことが、俺にとって一番だ。
だからこれ以上の幸せは望んではいけないと思っていた。
多くは望むまいと、ずっと月影寺の居心地の良さに甘えて、外に出ることをやめて過ごしていた。
だが、次第に欲が出てきてしまった。
愛する人と離れたくない。
一緒にいたい。
愛する人の役に立ちたい。
その欲を、月影寺の人たちも、祖母も後押ししてくれる。
それが伝わってきて、胸が熱くなった。
テラス席に着席すると、雪也さんが籐のバスケットを持って来た。
受け取ったおばあ様は満面の笑みで、俺たちに向けて手を差し出した。
「洋ちゃん、おばあちゃまにお願い事があるのでしょう? さぁどうぞ。私の手は空いているわ」
皺のある高齢の女性の手だが、とてもとても慈愛に満ちた手だった。
俺が歩み寄ると、おばあ様も歩み寄って下さり、俺の身体を背伸びして抱きしめてくれた。
「あ、あのっ」
「洋ちゃん、いらっしゃい。ずっと楽しみにしていたわ。とても待ち遠しかったわ」
手放しで喜ばれると、しどろもどろになって、たじたじしてしまう。
いつもの悪い癖だ。
喉がつっかえて、言葉が出てこなくなる。
そうだ。
こんな時は、流さんとの会話を思い出そう。
……
「ほれほれ、洋はもっと素直になれよ。いいか、心の中に芽生えた気持ちを、素直に外に出せばいいんだ。ほらほら、俺がこじ開けてやる~」
「りゅ、流さん! ちょっと何するんですか」
「流、またそれ?」
「ちょ! 兄さん、何をするんですか!」
……
わざと俺のシャツを覗き込む流さんに、翠さんは苦笑し、丈はムスッとする。
そんな賑やかな情景が浮かび、ふっと肩の力が抜けた。
俺の方から祖母の身体を優しく抱きしめた。
「おばあ様、俺も会いたかったです」
「まぁ、洋ちゃんってば騎士さんみたいよ」
頬を染める祖母の様子はまるで少女のようだ。
高齢なのに、どこまでも愛らしく感じた。
すぐ横に立っていた雪也さんも、祖母の可憐な様子に目を細めた。
「そろそろカフェ『月湖』に移動しましょうか。丈さんもご一緒に」
流石雪也さんだ。
丈の存在にいち早く気づき、誘導して下さる。
「丈さん、まぁ、ますます凜々しくなられたわね」
「ありがとうございます、ご無沙汰して申し訳ありません」
「いいのよ。お医者さまがお忙しいのは重々承知しているわ。海里先生も病院にお勤めの時はいつも帰りが遅くて、大変だったわ」
「全くもってその通りです。だから……私はもうそろそろ……」
「待って! その先の台詞は私が」
「お分かりになるのですか」
おばあ様の表情、くるくる変わって、キラキラ眩しい。
いくつになっても好奇心を持っている人の顔だ。
「ふふっ、だって、海里先生も同じことを言っていったから」
「なるほど、すっかりバレているようですね」
「えぇ、答えはこうでしょう? もうそろそろ、愛する人と過ごす時間を大切にしたい」
おばあ様には全てお見通しのようで、頬が火照ってしまうよ。
「ね、洋ちゃん。良かったわね。あなたが大好きな丈さんとずっと一緒にいられて。柊一さんも嬉しそうに由比ヶ浜の診療所のお手伝いをしていたのよ」
「お……おばあ様の仰る通りです」
もう、あのように恐ろしいことは起きない。
何も起きないことが、俺にとって一番だ。
だからこれ以上の幸せは望んではいけないと思っていた。
多くは望むまいと、ずっと月影寺の居心地の良さに甘えて、外に出ることをやめて過ごしていた。
だが、次第に欲が出てきてしまった。
愛する人と離れたくない。
一緒にいたい。
愛する人の役に立ちたい。
その欲を、月影寺の人たちも、祖母も後押ししてくれる。
それが伝わってきて、胸が熱くなった。
テラス席に着席すると、雪也さんが籐のバスケットを持って来た。
受け取ったおばあ様は満面の笑みで、俺たちに向けて手を差し出した。
「洋ちゃん、おばあちゃまにお願い事があるのでしょう? さぁどうぞ。私の手は空いているわ」
皺のある高齢の女性の手だが、とてもとても慈愛に満ちた手だった。
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