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17章
月光の岬、光の矢 4
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「おらおら、洗濯するから、こっちに来い」
「えー 嫌だよ!」
「いーや、駄目だ」
松葉杖でじたばたする薙くんを、流さんが追いかける。
薙くんがますます暴れるので、流さんがガシッと押さえ込む。
ふっ、まるで幼稚園児との格闘シーンだ。
「ふむ、薙はやんちゃ坊主だな」
「流さんに似たんだよぉ」
「そうか、そうか、じゃあ尚更、こうしないと」
「わぁー だ、か、らー それ、はずいって」
流さんが薙くんを軽々と肩に担いだ。
「あーあ、ギブスまで汚したな」
流さんの豪快さと明るさが眩しくて、目を細めて賑やかな光景を見つめていると、突然、俺も流さんの腕の中に巻き込まれた。
「ええっ?」
「おい、洋は何を澄ましてんだ? 洋も泥だらけだ。いや、薙より酷いな。一体どうしたらそんなに汚れるんだ? さぁ、行くぞ」
「お、俺は大丈夫です」
「駄目だ」
さぁ、今度は俺はじたばたする番だ。
こんな風に、じゃれ合ってスキンシップするのは不慣れだが、薙くんがまるでお手本のように暴れてくれるので、俺も一緒になって暴れてみた。
「おい、こら、洋まで暴れんな。俺まで泥だらけになる。この泥んこ兄弟め!」
「ははっ、泥んこ兄弟っておもろい。確かに洋さんがオレの兄さんだったら楽しいな」
「だろ? さぁ行くぞ」
「へい!」
薙くんはノリがいいな。
流さんと薙くんは、太陽のように燦々と輝いている。
母屋の脱衣場に連れて行かれ、そこで服を脱ぐように言われた。
「分かったよ~ 雨上がりの庭がまさかあんなに泥濘んでるなんて知らなかったんだ。ねっ、洋さん」
薙くんが可愛い顔で同意を求めてくる。
弟がいるってこういう気分なのか。
「あぁ、水たまりが思ったより深くて驚いたよ」
「だよな、あんなに大きな水たまり、今時ないって! とにかく、洋さんが付き合ってくれて嬉しかったよ」
薙くんの言葉が素直に嬉しかった。
俺でも役に立っているのか。
ずっと人に迷惑を掛けて生きてきたと思っていたので、本当に嬉しい言葉だった。
流さんは薙くんのギブスに防水カバーを手早くして、風呂場に連れて行った。
薙くんは片足でふらついていたので、手助けが必要そうだ。
「洋も手伝ってくれるか」
「あ、はい」
「よしー どうせ俺も濡れるんだ。一緒に風呂に入るぞ」
「ですね」
「だな」
この二人とは、既に裸の付き合いをしているので、俺も迷いなく服を脱いで、風呂に入った。
薙くんを両方から支えて。
丈、不思議だな。
俺がこんなことを出来るようになるなんて、まだ信じられないよ。
誰かに肌を見せるのが、ずっと怖かった。
ほんの数年前までは……
丈以外の人前で裸になるなんて、死んでも考えられなかった。
俺が味わった苦痛を考えれば到底無理な話だったが、月影寺にやってきて、流れが変わった。
この人たちは、家族だ。
ここは俺の家で、ここにいる人は俺に愛情を注いでくれる家族なのだ。
そう思うと、こんなことも自然に出来る。
すごいことだ。
丈、お前の家族は本当にすごいパワーがあるよ。
こんな瞬間にもお前に会いたくなる。
早く一緒に働きたい。
最近、この願いが強くなっている。
月が満ちていくように、その日は間も無くやってくるのだろう。
待ち遠しいよ。
「えー 嫌だよ!」
「いーや、駄目だ」
松葉杖でじたばたする薙くんを、流さんが追いかける。
薙くんがますます暴れるので、流さんがガシッと押さえ込む。
ふっ、まるで幼稚園児との格闘シーンだ。
「ふむ、薙はやんちゃ坊主だな」
「流さんに似たんだよぉ」
「そうか、そうか、じゃあ尚更、こうしないと」
「わぁー だ、か、らー それ、はずいって」
流さんが薙くんを軽々と肩に担いだ。
「あーあ、ギブスまで汚したな」
流さんの豪快さと明るさが眩しくて、目を細めて賑やかな光景を見つめていると、突然、俺も流さんの腕の中に巻き込まれた。
「ええっ?」
「おい、洋は何を澄ましてんだ? 洋も泥だらけだ。いや、薙より酷いな。一体どうしたらそんなに汚れるんだ? さぁ、行くぞ」
「お、俺は大丈夫です」
「駄目だ」
さぁ、今度は俺はじたばたする番だ。
こんな風に、じゃれ合ってスキンシップするのは不慣れだが、薙くんがまるでお手本のように暴れてくれるので、俺も一緒になって暴れてみた。
「おい、こら、洋まで暴れんな。俺まで泥だらけになる。この泥んこ兄弟め!」
「ははっ、泥んこ兄弟っておもろい。確かに洋さんがオレの兄さんだったら楽しいな」
「だろ? さぁ行くぞ」
「へい!」
薙くんはノリがいいな。
流さんと薙くんは、太陽のように燦々と輝いている。
母屋の脱衣場に連れて行かれ、そこで服を脱ぐように言われた。
「分かったよ~ 雨上がりの庭がまさかあんなに泥濘んでるなんて知らなかったんだ。ねっ、洋さん」
薙くんが可愛い顔で同意を求めてくる。
弟がいるってこういう気分なのか。
「あぁ、水たまりが思ったより深くて驚いたよ」
「だよな、あんなに大きな水たまり、今時ないって! とにかく、洋さんが付き合ってくれて嬉しかったよ」
薙くんの言葉が素直に嬉しかった。
俺でも役に立っているのか。
ずっと人に迷惑を掛けて生きてきたと思っていたので、本当に嬉しい言葉だった。
流さんは薙くんのギブスに防水カバーを手早くして、風呂場に連れて行った。
薙くんは片足でふらついていたので、手助けが必要そうだ。
「洋も手伝ってくれるか」
「あ、はい」
「よしー どうせ俺も濡れるんだ。一緒に風呂に入るぞ」
「ですね」
「だな」
この二人とは、既に裸の付き合いをしているので、俺も迷いなく服を脱いで、風呂に入った。
薙くんを両方から支えて。
丈、不思議だな。
俺がこんなことを出来るようになるなんて、まだ信じられないよ。
誰かに肌を見せるのが、ずっと怖かった。
ほんの数年前までは……
丈以外の人前で裸になるなんて、死んでも考えられなかった。
俺が味わった苦痛を考えれば到底無理な話だったが、月影寺にやってきて、流れが変わった。
この人たちは、家族だ。
ここは俺の家で、ここにいる人は俺に愛情を注いでくれる家族なのだ。
そう思うと、こんなことも自然に出来る。
すごいことだ。
丈、お前の家族は本当にすごいパワーがあるよ。
こんな瞬間にもお前に会いたくなる。
早く一緒に働きたい。
最近、この願いが強くなっている。
月が満ちていくように、その日は間も無くやってくるのだろう。
待ち遠しいよ。
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