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17章
七夕番外編『ミルキーウェイ』
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前置き
今日は七夕ですね。季節にちなんだ話を書きたくなりましたので、今日は番外編になります。
翠と流の甘い夜を、そっと覗いてみませんか。
今年の七夕は珍しく晴れているので、明るい甘いSSですので、息抜きにどうぞ!
****
夜になって、俺は離れの茶室へ、そっと向かった。
茶室を覗くと、浴衣姿の翠が困惑した顔を浮かべていた。
「翠、待たせたな。どうした?」
「うん……それがね、日中、東京の宗吾さんから、こんなものが届いて」
翠が差し出したのは、赤と白い柄のチューブだった。
「なんだ、練乳じゃないか」
「それが……『七夕の贈り物』と熨斗がついていたが、何故練乳なのか、僕にはさっぱり意味が分からなくて……」
ははん、宗吾の奴、そう来たか。
相変わらず面白いな。しかもこれを翠に投げかけるとは。
「翠、今日は七夕だろう?」
「うん、そうだね」
「七夕といえば、天の川だ」
「その通りだけど、北鎌倉からは見えないよ」
「だからこその贈りものなんだ。翠は『天の川』を英語で何と言うか知っているか」
「『ミルキーウェイ』?」
「正解。じゃあその由来も知っているか」
「うーん、中国の天の川伝説は知っているが……」
日本では中国から伝わった話から「天の川」と言うが、英語では「ミルキーウェイ」だ。
ミルキーウェイとは、つまり『乳の道』。
うは、日本語にするとエロいな。
「ギリシャ神話に由来するのさ」
「流石、流だね。物知りだ。僕は神話には疎いから、聞かせておくれよ」
翠が、俺だけの翠の顔をして甘えてくる。
こんな風に夜になると素直になってくれるのが、嬉しくてたまらない。
「ギリシャ神話では大神ゼウスが浮気相手との間にヘラクレスという赤子を授かるんだ。それに怒った大神ゼウスの正妻の女神ヘラは、ヘラクレスに乳をあげなかったのさ。そこで大神ゼウスは女神ヘラを薬で眠らせて、ヘラクレスに乳を吸わせると、ヘラクレスの吸引力が強くて女神ヘラは目覚めてしまい、乳が流れ出てさ、だからミルキーウェイと呼ばれるってさ」
ギリシャ神話って、ある意味すごいよな。浮気相手との子供とか、そういうのは置いておいて、俺は「吸引力が強い」と「乳が流れ出て」というワードの虜になっていた。
「なるほど、それで乳の道なんだね。ふむ……」
翠はさして気にしていないようで、澄ました顔で感心していた。
「なぁ翠、俺も『乳の道』を見てみたい」
「え? どういう意味?」
「だからさ、翠の胸を借りてもいいか」
「ええっ」
「なぁ、駄目か」
「流、それは僕の……」
「翠、今宵は七夕だ。儀式なようなものさ」
かなり無理なこじつけで、翠ににじり寄った。
「も、もう、流は……はぁ、分かったよ。僕の胸でよければ貸してあげるから……何故か手元に練乳もあるし」
「だな、だな!」
翠は宗吾が練乳を送ってきた真意に気付かず、白い胸を曝け出してくれた。
もうあの醜い傷痕は消え、滑らかな象牙のような肌になっていた。
「すべすべだ」
「ふっ、くすぐったいよ」
「綺麗だ」
「ありがとう」
「ここに乳の道を作ってもいいか」
「ん……いいよ。流になら何をされてもいい」
「寛大過ぎるぞ」
俺は平らな胸の赤い粒に、練乳をとろりと垂らした。
そして小さな粒をおもいっきり吸い上げた。
「あっ……」
翠が熱に冒されたように潤んだ瞳で見上げてくる。
「怖くはないか」
「流だから、怖くなんてない。今日も一緒にいられて嬉しいんだ」
「あぁ、その通りだ。七夕じゃなくても俺たちは会える。毎日一緒にいる」
「湖翠さんは……流水さんに……七夕の日にも……会えなかったのだろうか」
翠が切なげに問いかけてくる。
「そうかもしれないが、過去は過去だ」
「そうだね。今を見つめていこう」
「そうだ」
俺たちの夜に、ミルキーウェイが降りてくる。
翠の胸元に流れる川。
それは俺たちを隔てる川ではなく、俺たちを結ぶ川だ。
流という名を授かった意味を知る。
どんな川でも流れていく。
流れれば、状況は変わっていく。
翠を受け止める場所まで流れ着いたから、今こうして腕の中に翠を抱けるのだ。
七夕の夜。
翠の甘い吐息と共に、甘い蜜で満たされていこう。
流れて流れて、ようやく辿り着いた場所で――
了
今日は七夕ですね。季節にちなんだ話を書きたくなりましたので、今日は番外編になります。
翠と流の甘い夜を、そっと覗いてみませんか。
今年の七夕は珍しく晴れているので、明るい甘いSSですので、息抜きにどうぞ!
****
夜になって、俺は離れの茶室へ、そっと向かった。
茶室を覗くと、浴衣姿の翠が困惑した顔を浮かべていた。
「翠、待たせたな。どうした?」
「うん……それがね、日中、東京の宗吾さんから、こんなものが届いて」
翠が差し出したのは、赤と白い柄のチューブだった。
「なんだ、練乳じゃないか」
「それが……『七夕の贈り物』と熨斗がついていたが、何故練乳なのか、僕にはさっぱり意味が分からなくて……」
ははん、宗吾の奴、そう来たか。
相変わらず面白いな。しかもこれを翠に投げかけるとは。
「翠、今日は七夕だろう?」
「うん、そうだね」
「七夕といえば、天の川だ」
「その通りだけど、北鎌倉からは見えないよ」
「だからこその贈りものなんだ。翠は『天の川』を英語で何と言うか知っているか」
「『ミルキーウェイ』?」
「正解。じゃあその由来も知っているか」
「うーん、中国の天の川伝説は知っているが……」
日本では中国から伝わった話から「天の川」と言うが、英語では「ミルキーウェイ」だ。
ミルキーウェイとは、つまり『乳の道』。
うは、日本語にするとエロいな。
「ギリシャ神話に由来するのさ」
「流石、流だね。物知りだ。僕は神話には疎いから、聞かせておくれよ」
翠が、俺だけの翠の顔をして甘えてくる。
こんな風に夜になると素直になってくれるのが、嬉しくてたまらない。
「ギリシャ神話では大神ゼウスが浮気相手との間にヘラクレスという赤子を授かるんだ。それに怒った大神ゼウスの正妻の女神ヘラは、ヘラクレスに乳をあげなかったのさ。そこで大神ゼウスは女神ヘラを薬で眠らせて、ヘラクレスに乳を吸わせると、ヘラクレスの吸引力が強くて女神ヘラは目覚めてしまい、乳が流れ出てさ、だからミルキーウェイと呼ばれるってさ」
ギリシャ神話って、ある意味すごいよな。浮気相手との子供とか、そういうのは置いておいて、俺は「吸引力が強い」と「乳が流れ出て」というワードの虜になっていた。
「なるほど、それで乳の道なんだね。ふむ……」
翠はさして気にしていないようで、澄ました顔で感心していた。
「なぁ翠、俺も『乳の道』を見てみたい」
「え? どういう意味?」
「だからさ、翠の胸を借りてもいいか」
「ええっ」
「なぁ、駄目か」
「流、それは僕の……」
「翠、今宵は七夕だ。儀式なようなものさ」
かなり無理なこじつけで、翠ににじり寄った。
「も、もう、流は……はぁ、分かったよ。僕の胸でよければ貸してあげるから……何故か手元に練乳もあるし」
「だな、だな!」
翠は宗吾が練乳を送ってきた真意に気付かず、白い胸を曝け出してくれた。
もうあの醜い傷痕は消え、滑らかな象牙のような肌になっていた。
「すべすべだ」
「ふっ、くすぐったいよ」
「綺麗だ」
「ありがとう」
「ここに乳の道を作ってもいいか」
「ん……いいよ。流になら何をされてもいい」
「寛大過ぎるぞ」
俺は平らな胸の赤い粒に、練乳をとろりと垂らした。
そして小さな粒をおもいっきり吸い上げた。
「あっ……」
翠が熱に冒されたように潤んだ瞳で見上げてくる。
「怖くはないか」
「流だから、怖くなんてない。今日も一緒にいられて嬉しいんだ」
「あぁ、その通りだ。七夕じゃなくても俺たちは会える。毎日一緒にいる」
「湖翠さんは……流水さんに……七夕の日にも……会えなかったのだろうか」
翠が切なげに問いかけてくる。
「そうかもしれないが、過去は過去だ」
「そうだね。今を見つめていこう」
「そうだ」
俺たちの夜に、ミルキーウェイが降りてくる。
翠の胸元に流れる川。
それは俺たちを隔てる川ではなく、俺たちを結ぶ川だ。
流という名を授かった意味を知る。
どんな川でも流れていく。
流れれば、状況は変わっていく。
翠を受け止める場所まで流れ着いたから、今こうして腕の中に翠を抱けるのだ。
七夕の夜。
翠の甘い吐息と共に、甘い蜜で満たされていこう。
流れて流れて、ようやく辿り着いた場所で――
了
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