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16章
2024年新春番外編 『辰年』1
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前置き
志生帆 海です。
月影寺にも新しい年がやってきました。
こちらは全く更新出来ていなかったのですが、ようやく『幸せな存在』5周年記念の同人誌作業も落ち着き、少し時間が出来たので、お正月らしいSSを書きたくなりました。
今年も『重なる月』に登場する月影寺men'sを、どうぞ宜しくお願いします。
***
除夜の鐘と共に、無事に新年を迎えた。
いよいよ2024年の幕開けだ。
北鎌倉駅から延々と坂を上り詰めた場所にある山奥の寺にも関わらず、月影寺には今年も大勢の人が参拝に訪れていた。
きっと皆の目当ては、流が自ら麹から作った甘酒だろう。
僕が住職になってから、除夜会、除夜の鐘の催しの後、お参りの人に振舞うために用意しているものだ。
やはり、今年もあっという間に長蛇の列になってしまったな。
全員に行き渡ると良いのだが……
「あけましておめでとうございます!」
「甘酒をご希望の方は、こちらにお並び下さい!」
「はい、どうぞ!」
流が陣頭指揮を取り、薙が甘酒を威勢良く振る舞っている。
くすっ、薙はまるで文化祭の模擬店で働いているノリだね。
なかなか社交的でいいよ。
それにしても薙の溌剌とした表情は、流に似ているな。
薙は僕に似た顔立ちなのに、性格や表情が驚くほど流に似ている。
甘酒を振る舞う活気ある二人の様子を、僕はしばらくの間、目を細めて眺めていた。
「兄さん、私たちも手伝います」
呼ばれて振り返ると、白衣に袴という出立ちの丈と洋が立っていた。
我が弟ながら、なんと美丈夫なのだろう。
丈の強靱な凜々しさ、洋の匂い立つような美しさ。
ふたりが並ぶと、空気が月光のように冴え渡っていく。
「いいのか」
「当たり前です。私たちも月影寺の一員ですから」
「ありがとう。御守りの授物所が小森くんだけで手薄なんだ」
「了解しました。私たちに任せて下さい。翠兄さんは少し休んで下さい。朝から働き通しで疲れたでしょう」
「ありがとう」
年越しの行事をやり遂げ、実はヘトヘトになっていた。
母屋に戻り少しお腹が空いたので庫裡を覗くと、流の書き置きがあった。
……
翠、頑張ったな。
甘いものを用意してあるから、一休みしてくれ。
翠のこと、今年も愛してる!
一年中愛し抜くから覚悟してくれ。
……
書き置きを読むと、顔から火が出そうになった。
馬鹿っ、こんなにストレートに書くなんて、誰かが見たらどうするんだ?
書き置きを四つ折りにして、慌てて袂にしまった。
心臓がどんどん高鳴っていく。
僕は流から注がれる言葉だけで、火がつく身体になってしまった
深呼吸して必死に心を整える羽目になった。
流がおやつに用意してくれたのは、白玉あんみつだった。
「ふっ、僕の好物を……わざわざ、ありがとう」
僕は流の手から生み出される全てが好きだ。
食べる物、着る物を作ってくれる手。
僕を夜な夜な愛してくれる手……
正月が明けたら……僕たちはまた抱き合うだろう。
あぁ駄目だ。
三が日の間は忙しいのに、煩悩に引きずられそうになった自分を戒めた。
ここに、あまり長居は出来ないな。
今は住職としているのが賢明だ。
あんみつを食べ終え、すぐに外に出た。
ところが……
集まった人々が参詣する様子を見守っていると、あちこちから「流」を呼ぶ声がする。
「あっ、流だ」
「流さーん」
「やっぱり、流はかっこいいね」
「今年は流の年だね」
一体何事だ?
老若男女、皆が流を絶賛している。
僕の流なのに、どうして?
甘酒ではなく……流自身が目当てだったのか!
慌てて僕も本堂に入ると……
そこには……
「あっ! すごい」
大きな『昇り竜』の絵が、賽銭箱の横にどんと掲げられていた。
天に向かい上昇する竜の姿は、勇壮果敢で勢いがある事や強さの象徴だ。
一体、いつの間に……
この竜は、流が描いたものだ。
なんだ、先ほどから飛び交っていた『りゅう』とは、この絵のことだったのか。
良かった。
僕の流は、僕だけの流だ。
今年は辰年、りゅうの年だ。
そう思うと一層、流への愛が増していく。
豪快なタッチの竜を見上げていると、僕の心も上昇していくよ。
流の手は天高く舞い上がる竜の如く僕の身体を隈なく駆け巡り、僕を昇天させる。
うーん、まずいな。
また変なスイッチが入ってしまう。
どうやら、僕はまだまだ修行が足りないようだ。
よし、明日の朝は滝行をしよう。
新年の事始めにふさわしいだろう。
志生帆 海です。
月影寺にも新しい年がやってきました。
こちらは全く更新出来ていなかったのですが、ようやく『幸せな存在』5周年記念の同人誌作業も落ち着き、少し時間が出来たので、お正月らしいSSを書きたくなりました。
今年も『重なる月』に登場する月影寺men'sを、どうぞ宜しくお願いします。
***
除夜の鐘と共に、無事に新年を迎えた。
いよいよ2024年の幕開けだ。
北鎌倉駅から延々と坂を上り詰めた場所にある山奥の寺にも関わらず、月影寺には今年も大勢の人が参拝に訪れていた。
きっと皆の目当ては、流が自ら麹から作った甘酒だろう。
僕が住職になってから、除夜会、除夜の鐘の催しの後、お参りの人に振舞うために用意しているものだ。
やはり、今年もあっという間に長蛇の列になってしまったな。
全員に行き渡ると良いのだが……
「あけましておめでとうございます!」
「甘酒をご希望の方は、こちらにお並び下さい!」
「はい、どうぞ!」
流が陣頭指揮を取り、薙が甘酒を威勢良く振る舞っている。
くすっ、薙はまるで文化祭の模擬店で働いているノリだね。
なかなか社交的でいいよ。
それにしても薙の溌剌とした表情は、流に似ているな。
薙は僕に似た顔立ちなのに、性格や表情が驚くほど流に似ている。
甘酒を振る舞う活気ある二人の様子を、僕はしばらくの間、目を細めて眺めていた。
「兄さん、私たちも手伝います」
呼ばれて振り返ると、白衣に袴という出立ちの丈と洋が立っていた。
我が弟ながら、なんと美丈夫なのだろう。
丈の強靱な凜々しさ、洋の匂い立つような美しさ。
ふたりが並ぶと、空気が月光のように冴え渡っていく。
「いいのか」
「当たり前です。私たちも月影寺の一員ですから」
「ありがとう。御守りの授物所が小森くんだけで手薄なんだ」
「了解しました。私たちに任せて下さい。翠兄さんは少し休んで下さい。朝から働き通しで疲れたでしょう」
「ありがとう」
年越しの行事をやり遂げ、実はヘトヘトになっていた。
母屋に戻り少しお腹が空いたので庫裡を覗くと、流の書き置きがあった。
……
翠、頑張ったな。
甘いものを用意してあるから、一休みしてくれ。
翠のこと、今年も愛してる!
一年中愛し抜くから覚悟してくれ。
……
書き置きを読むと、顔から火が出そうになった。
馬鹿っ、こんなにストレートに書くなんて、誰かが見たらどうするんだ?
書き置きを四つ折りにして、慌てて袂にしまった。
心臓がどんどん高鳴っていく。
僕は流から注がれる言葉だけで、火がつく身体になってしまった
深呼吸して必死に心を整える羽目になった。
流がおやつに用意してくれたのは、白玉あんみつだった。
「ふっ、僕の好物を……わざわざ、ありがとう」
僕は流の手から生み出される全てが好きだ。
食べる物、着る物を作ってくれる手。
僕を夜な夜な愛してくれる手……
正月が明けたら……僕たちはまた抱き合うだろう。
あぁ駄目だ。
三が日の間は忙しいのに、煩悩に引きずられそうになった自分を戒めた。
ここに、あまり長居は出来ないな。
今は住職としているのが賢明だ。
あんみつを食べ終え、すぐに外に出た。
ところが……
集まった人々が参詣する様子を見守っていると、あちこちから「流」を呼ぶ声がする。
「あっ、流だ」
「流さーん」
「やっぱり、流はかっこいいね」
「今年は流の年だね」
一体何事だ?
老若男女、皆が流を絶賛している。
僕の流なのに、どうして?
甘酒ではなく……流自身が目当てだったのか!
慌てて僕も本堂に入ると……
そこには……
「あっ! すごい」
大きな『昇り竜』の絵が、賽銭箱の横にどんと掲げられていた。
天に向かい上昇する竜の姿は、勇壮果敢で勢いがある事や強さの象徴だ。
一体、いつの間に……
この竜は、流が描いたものだ。
なんだ、先ほどから飛び交っていた『りゅう』とは、この絵のことだったのか。
良かった。
僕の流は、僕だけの流だ。
今年は辰年、りゅうの年だ。
そう思うと一層、流への愛が増していく。
豪快なタッチの竜を見上げていると、僕の心も上昇していくよ。
流の手は天高く舞い上がる竜の如く僕の身体を隈なく駆け巡り、僕を昇天させる。
うーん、まずいな。
また変なスイッチが入ってしまう。
どうやら、僕はまだまだ修行が足りないようだ。
よし、明日の朝は滝行をしよう。
新年の事始めにふさわしいだろう。
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