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16章
天つ風 28
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洋くんが見上げた空は、どこまでも青く澄んでいた。
君が遠い過去から必死に願ってきたことは、この世でようやく叶った。
そう思うと、この末の弟を優しく抱き締めてあげたくなった。
僕と洋くんは、どことなく顔立ちが似ている。
だからなのか……流と丈とはまた別の愛おしさを感じている。
大切にしてあげたい可愛い弟なんだよ、君は――
だからもっと、もっと、自分に自信を持って欲しい。
「洋くん、今日は来てくれてありがとう」
「兄さん……あの時はせっかく誘ってもらったのに素直になれなくて、すみません」
兄さんか。
いいね、僕をそう呼んでくれることも、最近増えてきた。
それがまた嬉しい。
「いいんだよ。こうやって今、並んで立っているのだから。薙は僕たちにとって大切な存在だから一緒に観たかった」
「僕たち?」
「君と薙も深い縁で繋がっている。そもそも今の君は、大家族に身を置いているのだよ」
「あ、はい! 皆さん……俺の家族です」
洋くんは美しい顔をほんのり赤く染めて、僕を見つめた。
相変わらず、誰もが振り向く程の類い希な美貌の持ち主だ。
だがそのせいで苦しんだ辛い過去がある。よからぬ輩の身勝手な欲望を引き寄せてしまい、僕以上に苦しんだ人生だったが、これからは顔を上げて生きて欲しい。
僕もそうするから。
年齢を重ねるにつれ深い趣が加味された美貌を放つ洋くんが、僕は愛おしい。
「君は月光のような人だから、月影寺に相応しいよ」
「相応しいでしょうか」
「そうだよ、最後はここに辿り着く運命だったんだ。さぁ一緒に観戦しよう。あ、その前に、喉が渇かない? 暑くなってきたから、こまめに水分を取らないと駄目だよ」
つい長男気質が出て、あれこれと末っ子の世話を焼きたくなった。
すると流に手招きされた。
「おーい、お二人さん、こっちこっち」
「流、どこに行っていた?」
「いいから、こっちで休憩しようぜ」
流の後をついていくと何故か体育館の裏庭に『ござ』が敷かれていた。座布団まで並べて……いつの間に持って来たんだ?
「二人の美貌が眩しすぎるから、父兄席を離れ、ここで寛ごうぜ。これは全部用務員室から借りてきた。まだ知り合いがいたから助かったよ」
「そ、そうなのか」
なるほど、これは確かに『伝説』にもなるはずだ。
流は高校時代、きっと校内を我が物顔で渡り歩いたに違いない。
「ささ、どうぞ」
正座すると、さっと冷茶を差し出された。
切り子のグラスの中で、カランコロンと氷が音を奏で、涼しげだ。
「風流だね。それにしても流石だね、ちょうど喉が渇いて……」
「そうだと思ったぜ! 翠から滴る水分量は、俺がしっかり把握しているからな」
「りゅ、流……それ、なんだか意味深だよ」
もう、何を言い出すんだか。
流は意気揚々と洋くんの肩を抱く。
「さぁ洋もしっかり飲んでおけ。洋も毎晩汗をかかされて大変だな」
「え!」
洋くんはポーカーフェイスを装っていたが、耳朶を染めた。
流は相変わらず、やんちゃだな。
「でもやっぱり俺が一番水分不足だろう。いつもカピカピのカピカピだ」
「りゅ、流、こらっ、はしたないよ」
すると洋くんが、ぼそっと呟く。
「一番水分不足なのは……丈だと思いますよ。アイツはガビガビに、くっ、ははっ!」
「ガビガビだと!?」
流が対抗心を剥き出しにする。
「くそぅ、負けてられないな」
「ははっ、俺、口が滑りました。くくっ……」
洋くんが快活に笑う。
楽しそうに肩を揺らす。
洋くんの身体が揺れると、グラスの中の氷がまたいい音色を奏でる。
悪くないね。
こんな風に弟達と輪になって、和やかな時を過ごしたかった。
僕はずっと、ずっと、こうありたかった。
それが叶っていく――
君が遠い過去から必死に願ってきたことは、この世でようやく叶った。
そう思うと、この末の弟を優しく抱き締めてあげたくなった。
僕と洋くんは、どことなく顔立ちが似ている。
だからなのか……流と丈とはまた別の愛おしさを感じている。
大切にしてあげたい可愛い弟なんだよ、君は――
だからもっと、もっと、自分に自信を持って欲しい。
「洋くん、今日は来てくれてありがとう」
「兄さん……あの時はせっかく誘ってもらったのに素直になれなくて、すみません」
兄さんか。
いいね、僕をそう呼んでくれることも、最近増えてきた。
それがまた嬉しい。
「いいんだよ。こうやって今、並んで立っているのだから。薙は僕たちにとって大切な存在だから一緒に観たかった」
「僕たち?」
「君と薙も深い縁で繋がっている。そもそも今の君は、大家族に身を置いているのだよ」
「あ、はい! 皆さん……俺の家族です」
洋くんは美しい顔をほんのり赤く染めて、僕を見つめた。
相変わらず、誰もが振り向く程の類い希な美貌の持ち主だ。
だがそのせいで苦しんだ辛い過去がある。よからぬ輩の身勝手な欲望を引き寄せてしまい、僕以上に苦しんだ人生だったが、これからは顔を上げて生きて欲しい。
僕もそうするから。
年齢を重ねるにつれ深い趣が加味された美貌を放つ洋くんが、僕は愛おしい。
「君は月光のような人だから、月影寺に相応しいよ」
「相応しいでしょうか」
「そうだよ、最後はここに辿り着く運命だったんだ。さぁ一緒に観戦しよう。あ、その前に、喉が渇かない? 暑くなってきたから、こまめに水分を取らないと駄目だよ」
つい長男気質が出て、あれこれと末っ子の世話を焼きたくなった。
すると流に手招きされた。
「おーい、お二人さん、こっちこっち」
「流、どこに行っていた?」
「いいから、こっちで休憩しようぜ」
流の後をついていくと何故か体育館の裏庭に『ござ』が敷かれていた。座布団まで並べて……いつの間に持って来たんだ?
「二人の美貌が眩しすぎるから、父兄席を離れ、ここで寛ごうぜ。これは全部用務員室から借りてきた。まだ知り合いがいたから助かったよ」
「そ、そうなのか」
なるほど、これは確かに『伝説』にもなるはずだ。
流は高校時代、きっと校内を我が物顔で渡り歩いたに違いない。
「ささ、どうぞ」
正座すると、さっと冷茶を差し出された。
切り子のグラスの中で、カランコロンと氷が音を奏で、涼しげだ。
「風流だね。それにしても流石だね、ちょうど喉が渇いて……」
「そうだと思ったぜ! 翠から滴る水分量は、俺がしっかり把握しているからな」
「りゅ、流……それ、なんだか意味深だよ」
もう、何を言い出すんだか。
流は意気揚々と洋くんの肩を抱く。
「さぁ洋もしっかり飲んでおけ。洋も毎晩汗をかかされて大変だな」
「え!」
洋くんはポーカーフェイスを装っていたが、耳朶を染めた。
流は相変わらず、やんちゃだな。
「でもやっぱり俺が一番水分不足だろう。いつもカピカピのカピカピだ」
「りゅ、流、こらっ、はしたないよ」
すると洋くんが、ぼそっと呟く。
「一番水分不足なのは……丈だと思いますよ。アイツはガビガビに、くっ、ははっ!」
「ガビガビだと!?」
流が対抗心を剥き出しにする。
「くそぅ、負けてられないな」
「ははっ、俺、口が滑りました。くくっ……」
洋くんが快活に笑う。
楽しそうに肩を揺らす。
洋くんの身体が揺れると、グラスの中の氷がまたいい音色を奏でる。
悪くないね。
こんな風に弟達と輪になって、和やかな時を過ごしたかった。
僕はずっと、ずっと、こうありたかった。
それが叶っていく――
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