重なる月

志生帆 海

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16章

天つ風 11

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「うっ、う、あぁっ」
「どうだ? いいか」
「ん……いい……もっと……もっと奥へ来いよ」

 洋が目を細めて、私を誘う。

 もっともっと深い所へと来いと。

「あぁ」

 今一度洋の腰を抱えなおして、腰をグッと深める。

 熱い襞が私を呑み込んでいく。

「洋の中は相変わらず熱いな」
「丈のは……大きい、すごい圧迫感だ」
「苦しいか」
「いや……満ち足りているよ」
「そうか。受け入れてくれてありがとう」

 洋と知り合って10年近く経つ。

 初めて抱いてから、今日まで、そして、この先も止むことのない欲情。

 そのまま腰を打ち付けると、洋が悶える。

 背中と胸板にうっすら汗をかいて、シーツで波を打つ。

「丈……俺っ……毎晩のように……丈が欲しくて溜らない。こんなの……節操ないか、変か」
「いや、私もだ。止まない雨はないというが、洋への欲情だけは止まない」
「ふっ、一緒だな」
「だから安心して抱かれろ」
「あぁ」

 男の平らな胸なのに、私には禁断の果実のように感じる。そこを舌で蹂躙し、もう片方の手で眺めの黒髪をかき分けて、綺麗な形の額に口づけをしてやる。

 愛おしさが増していく。

 そのまま手を頬から首筋、胸、腰のラインを辿って窄まりへと這わす。

「あ……そこ、いやだ」
「どこが」
「変になるよ」

 今一度、胸の粒を舌で転がせば固い芯を持ち、吸い付けば赤く充血する。

「気持ち良さそうだ」

 洋のものも勃ち上がっていたので、扱いてやる。

「あ、あぁ……駄目だ。また出るっ――」

 何度目かの吐精をした後、洋は意識を飛ばすように眠ってしまった。

 私は洋の寝顔を暫く眺めて、満足した。

 それからおしぼりで身体を拭き、私が身体の中に吐き出したものも掻き出してやる。

 洋はそれでも起きない。

 よほど疲労困憊なのだろう。

 抱かれる方の負担は重いのを知っているので、精一杯労ってやりたい。

「洋、今宵もありがとう」

 ベッドから降りると、グゥーと腹が盛大に鳴った。

 やれやれ、子供みたいだな。

 性欲が満たされた途端、これか。

 私は洋の剥き出しの肩に布団をかけてやり、そっとその場を離れた。

 そのままサッとシャワーを浴びて、流兄さんが持たせてくれたおにぎりを頬張った。

「流石、上手いな」

 夜食用に作った質素な塩むすびだったが、塩分が汗をかいた身体には最高だ。

 やれやれ、節操ないのは私の方だな。洋を抱く前に腹ごしらえをするつもりだったのに、私を想い自慰に耽る洋を目の当たりにして、理性がぶっ飛んでしまった。



 窓の外には大きな月が浮かんでいる。

 月影寺は月の寺。

 古から月に守られている。

 今頃、あの二人も同じように抱き合っているのだろうか。

 私と血を分けた兄たちが一つに繋がることにより、月影寺の結界が一層強くなる気がする。

 秘めたる想いは、秘めたる場所を生む。


****

「あ……流、もうそれ以上は……だめだ」
「どうして? このままなだれ込んでもいいんじゃないか」
「離れに、おにぎりを持って行こう」
「え? どうして?」
「流のエンジンが途中で切れたら嫌だからだよ」

 はぁ?

 またまた、この兄は可愛いことを。

 だが、一理ある。

 俺は皆に食べさせるのに夢中で腹が減っている。

 途中でエンジンが切れるのはかっこ悪いな。

「じゃあ、速攻握ってくるよ」
「待って、流、僕も一緒に作ってみたいんだ。ほら、薙の体育祭にはお弁当がいるだろう。お父さんのおにぎりってどうかな? 練習してみたい」

 ひぇー

 小首を傾げて微笑む翠め!

 そんなことしたら、夜が明けちまう!

「あ……あぁぁ、そうだなぁ……うーん」
「流、なぁ駄目か。兄さんも作ってみたい」
「あぁ……チェッ、分かったよ」
「やった!」

 子供のように無邪気に喜ぶ翠は可愛かった。

「流、あとでご褒美があるから」

 今は兄さんモードなんだなと思うと、やっぱり憎めない。

 俺は翠に甘すぎる!

 だが翠の笑顔が一番だから、それでいい。

 翠の笑顔を守るのが、俺の使命だからさ!


 
 


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