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16章
雲外蒼天 19
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由比ヶ浜の海。
打ち寄せる白い波を、俺たちはずっと眺めていた。
「こんな風に孫と肩を並べて、由比ヶ浜の海を見る日が来るなんて嬉しいわ。洋ちゃん、涼ちゃん、あなたたちはどうか幸せになって。型にはまらなくていいの。あなたたちが幸せだと思える場所、相手と生きて行くのよ」
おばあさまが俺たちの肩を抱き寄せてくれる。
苦労は人の心をしなやかにする。
ポキッと折れてしまう強さではなく、どんな困難も乗り越えるしなやかさを与えてくれたようだ。
「僕……今日、おばあさまと会えてよかった。進む道がようやく見えてきました」
「涼ちゃん、あなたはまだ若い……とても若いわ。険しい道になるかもしれない。でもあなたには味方がいるわ。私も洋ちゃんも、丈さんも月影寺の皆さんもいる。そして……あなたのパートナーもいる。一人で悩まないで。一人で苦しまないで。もう誰ひとり……そんな目に遭わせたくないの」
おばあさまは今……きっと……ひとりで悩み苦しみ抜いた母を想っているのだろう。
今となってはどちらが悪いのではなく、お互い意地を張りすぎた結果だ。
そう、今の俺は考えている。
「おばあさま、俺もそう思います。涼は俺にとって実の弟のような存在です。俺によく似た顔をした従兄弟の存在は、俺の生き甲斐です」
「それを言うなら、洋ちゃんは私の生き甲斐だわ。もう絶対ひとりにさせないわ。おばあちゃまがいますからね」
「はい、心強いです。おばあさまの血が、俺にも涼にも繋がっているのですね」
こんなにも広い心を持てるのは、勇大な海を前にしているからだろうか。
俺の名は「洋」
太平洋のように広い心と視野を持てと願ってつけてもらった名前だ。
由比ヶ浜は神奈川県鎌倉市南部の相模湾に面した海岸、相模湾は太平洋に向けて開けた湾のことだ。
だからなのか、ここに立つと力が湧いてくる。
揺るがない灯台のように。
オレンジ色の光りに包まれて、俺はスカートをはためかせ、真っ直ぐに海を見つめ続けた。
夕陽が沈んでも、闇が訪れても、もう寂しくはない、怖くもない。
「夕陽が綺麗だったわね。そろそろ帰りましょう。月影寺まで二人を送っていくわ」
「あの、おばあさま、お疲れではありませんか。今日は月影寺にお泊りになったら?」
「まぁ、洋ちゃんは優しいのね。そうね、それも悪くないかも、でもお邪魔のような気もするし、ふふっ」
おばあさまは明確な返事はせずに、楽しそうに微笑んでいた。
駐車場に向かうと、黒塗りの車の運転手がドアを開けて待っていてくれた。
「あの……大丈夫ですか」
「もちろんです。私は若い頃、年老いた海里先生と柊一さまのお抱え運転手で、何度も白金から由比ヶ浜まで車を走らせたものです。おふたりはもういませんが、私はまだ現役です」
「そうだったのですね」
「洋ちゃん、彼に気兼ねしなくていいわ。彼は深い愛に性別など関係ないことをちゃんと知っているの」
「はい」
そうか、海里先生と柊一さんの愛を見守った人なら安心だ。
さぁ帰ろう。
俺たちが愛を育む家は待っている。
丈が待っている。
何故だか、今日は丈が先に戻って、俺の帰りを待っているような気がした。
不思議だな。
待ってくれている人がいると思うと、早く帰りたくなる。
そこは幸せな場所だから。
打ち寄せる白い波を、俺たちはずっと眺めていた。
「こんな風に孫と肩を並べて、由比ヶ浜の海を見る日が来るなんて嬉しいわ。洋ちゃん、涼ちゃん、あなたたちはどうか幸せになって。型にはまらなくていいの。あなたたちが幸せだと思える場所、相手と生きて行くのよ」
おばあさまが俺たちの肩を抱き寄せてくれる。
苦労は人の心をしなやかにする。
ポキッと折れてしまう強さではなく、どんな困難も乗り越えるしなやかさを与えてくれたようだ。
「僕……今日、おばあさまと会えてよかった。進む道がようやく見えてきました」
「涼ちゃん、あなたはまだ若い……とても若いわ。険しい道になるかもしれない。でもあなたには味方がいるわ。私も洋ちゃんも、丈さんも月影寺の皆さんもいる。そして……あなたのパートナーもいる。一人で悩まないで。一人で苦しまないで。もう誰ひとり……そんな目に遭わせたくないの」
おばあさまは今……きっと……ひとりで悩み苦しみ抜いた母を想っているのだろう。
今となってはどちらが悪いのではなく、お互い意地を張りすぎた結果だ。
そう、今の俺は考えている。
「おばあさま、俺もそう思います。涼は俺にとって実の弟のような存在です。俺によく似た顔をした従兄弟の存在は、俺の生き甲斐です」
「それを言うなら、洋ちゃんは私の生き甲斐だわ。もう絶対ひとりにさせないわ。おばあちゃまがいますからね」
「はい、心強いです。おばあさまの血が、俺にも涼にも繋がっているのですね」
こんなにも広い心を持てるのは、勇大な海を前にしているからだろうか。
俺の名は「洋」
太平洋のように広い心と視野を持てと願ってつけてもらった名前だ。
由比ヶ浜は神奈川県鎌倉市南部の相模湾に面した海岸、相模湾は太平洋に向けて開けた湾のことだ。
だからなのか、ここに立つと力が湧いてくる。
揺るがない灯台のように。
オレンジ色の光りに包まれて、俺はスカートをはためかせ、真っ直ぐに海を見つめ続けた。
夕陽が沈んでも、闇が訪れても、もう寂しくはない、怖くもない。
「夕陽が綺麗だったわね。そろそろ帰りましょう。月影寺まで二人を送っていくわ」
「あの、おばあさま、お疲れではありませんか。今日は月影寺にお泊りになったら?」
「まぁ、洋ちゃんは優しいのね。そうね、それも悪くないかも、でもお邪魔のような気もするし、ふふっ」
おばあさまは明確な返事はせずに、楽しそうに微笑んでいた。
駐車場に向かうと、黒塗りの車の運転手がドアを開けて待っていてくれた。
「あの……大丈夫ですか」
「もちろんです。私は若い頃、年老いた海里先生と柊一さまのお抱え運転手で、何度も白金から由比ヶ浜まで車を走らせたものです。おふたりはもういませんが、私はまだ現役です」
「そうだったのですね」
「洋ちゃん、彼に気兼ねしなくていいわ。彼は深い愛に性別など関係ないことをちゃんと知っているの」
「はい」
そうか、海里先生と柊一さんの愛を見守った人なら安心だ。
さぁ帰ろう。
俺たちが愛を育む家は待っている。
丈が待っている。
何故だか、今日は丈が先に戻って、俺の帰りを待っているような気がした。
不思議だな。
待ってくれている人がいると思うと、早く帰りたくなる。
そこは幸せな場所だから。
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