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16章
雲外蒼天 13
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おばあさまと手を繋いで、海に向かってゆっくり歩き出した。
明るい日差しが砂浜に影を作る。
まるで俺たちは鳥のよう、天使のよう。
おばあさまの羽になっていた。
おばあさまは母さんを産んでくれた人。
母の母なんだ。
おばあさまがいなかったら、俺もこの地上にいなかった。
だから俺の源だ。
涼と俺でおばあさまを支えるように波打ち際に立っていると、目の前を高齢の男性が通りかかった。
上品なシルバーグレイの男性は、犬の散歩の途中のようだ。
ふと立ち止まって、俺たちを眩しそうに見つめて話しかけてきた。
「ほぅ、これはこれは美しい三姉妹のようですな」
おばあさまがすぐに訂正する。
「まぁ、この子達は私の孫ですよ」
「そうでしたか。お幸せそうに光り輝いていたので、お母さんかと」
「ありがとうございます」
「よかったら三人の写真を撮りましょうか」
「まぁ、宜しいの? 洋ちゃん、カメラ持ってる?」
俺が無言でスマホを渡すと、上品な男性がにっこり微笑んで俺たちを撮ってくれた。
白い洋館を背景に立つ三人を。
かつて母と伯母のように――
笑って――
海を眺めた洋館の中に入った。
丈の診療所にするために内装工事が始まろうとしていたが、耐震問題で中断してしまったので、まだ海里先生がいらした当時のままだ。
「わぁ、すごいね、ここは病院だったの?」
「そうよ。私の幼なじみの柊一さんとそのパートナーが過ごした場所よ。パートナーはお医者さまで、ここで開業していたの」
「そうなんだ……おばあさまの時代にも、僕たちみたいに男性を愛する男性がいたんだね」
涼の言葉に、おばあさまが微笑む。
「彼等は男同士で深く強く結ばれていたの。私から見て、二人が一緒にいるのはとても自然だったから、そんな風に意識したことはなかったわ。幼なじみの柊一さんが苦しんでいる時、私は何もしてあげられなくて……冬郷家がどんどん落ちぶれていくのを見ていることしかできなかったの。そんな柊一さんの全てをサポートしてくれる海里先生が彗星の如く現れて、本当に嬉しかったわ。どんな時も寄り添う二人の姿忘れられない」
涼が凜とした表情を浮かべる。
「どんな時も寄り添うか……そんなに強い愛だったのですね」
「えぇ、まだまだ理解ある世の中ではなかったから、表には出せなかったけれども、彼等はとても幸せだったのよ。なのに我が家が傾いた時、柊一さんからの援助は主人が断ってしまい、我が家は進んではいけない道を選んでしまったの。朝にも夕にも申し訳ないことを……全部、私が招いた災いよ」
おばあさまの瞳に、また後悔の色が滲み出す。
でも涼の言葉が希望の色を注ぐ。
「僕には……今のおばあさまの言葉、今のおばあさまの存在が支えになります。僕……ずっと自分の居場所を探していました。真実の僕を隠さないといけないことにジレンマも感じていました。でも今日おばあさまと会って、柊一さんの話を聞いて覚悟が決まりました。僕が一番守りたいものは安志さんです。僕は安志さんとの愛を貫きたいんです」
幼かった涼の覚悟。
「……洋ちゃん……由比ヶ浜はやっぱり誓いの海なのね」
「そのようですね」
俺と丈が誓ったように、涼も安志との道を貫く覚悟だ。
俺は応援するよ。
俺に何が出来るか分からないが、ずっと涼の傍にいる。安志の傍にいる。
「お話していたら、あなたたちの大事な人に会いたくなってしまったわ」
「おばあさまに会わせたいな。安志さんってね、すごくかっこいいんだ。ボディガードの仕事をしていて、僕を守ってくれたこともあって」
「まぁ素敵。それで、それで?」
涼とおばあさまの会話は、まるでおとぎ話。
俺と丈の話も、ある意味おとぎ話だ。
窓の外の海を眺めて、ふっと肩の力を抜いた。
丈と生きていく。
丈を愛していく。
幾千年の時を超えて、この地上に生を受けた意味をもう一度!
明るい日差しが砂浜に影を作る。
まるで俺たちは鳥のよう、天使のよう。
おばあさまの羽になっていた。
おばあさまは母さんを産んでくれた人。
母の母なんだ。
おばあさまがいなかったら、俺もこの地上にいなかった。
だから俺の源だ。
涼と俺でおばあさまを支えるように波打ち際に立っていると、目の前を高齢の男性が通りかかった。
上品なシルバーグレイの男性は、犬の散歩の途中のようだ。
ふと立ち止まって、俺たちを眩しそうに見つめて話しかけてきた。
「ほぅ、これはこれは美しい三姉妹のようですな」
おばあさまがすぐに訂正する。
「まぁ、この子達は私の孫ですよ」
「そうでしたか。お幸せそうに光り輝いていたので、お母さんかと」
「ありがとうございます」
「よかったら三人の写真を撮りましょうか」
「まぁ、宜しいの? 洋ちゃん、カメラ持ってる?」
俺が無言でスマホを渡すと、上品な男性がにっこり微笑んで俺たちを撮ってくれた。
白い洋館を背景に立つ三人を。
かつて母と伯母のように――
笑って――
海を眺めた洋館の中に入った。
丈の診療所にするために内装工事が始まろうとしていたが、耐震問題で中断してしまったので、まだ海里先生がいらした当時のままだ。
「わぁ、すごいね、ここは病院だったの?」
「そうよ。私の幼なじみの柊一さんとそのパートナーが過ごした場所よ。パートナーはお医者さまで、ここで開業していたの」
「そうなんだ……おばあさまの時代にも、僕たちみたいに男性を愛する男性がいたんだね」
涼の言葉に、おばあさまが微笑む。
「彼等は男同士で深く強く結ばれていたの。私から見て、二人が一緒にいるのはとても自然だったから、そんな風に意識したことはなかったわ。幼なじみの柊一さんが苦しんでいる時、私は何もしてあげられなくて……冬郷家がどんどん落ちぶれていくのを見ていることしかできなかったの。そんな柊一さんの全てをサポートしてくれる海里先生が彗星の如く現れて、本当に嬉しかったわ。どんな時も寄り添う二人の姿忘れられない」
涼が凜とした表情を浮かべる。
「どんな時も寄り添うか……そんなに強い愛だったのですね」
「えぇ、まだまだ理解ある世の中ではなかったから、表には出せなかったけれども、彼等はとても幸せだったのよ。なのに我が家が傾いた時、柊一さんからの援助は主人が断ってしまい、我が家は進んではいけない道を選んでしまったの。朝にも夕にも申し訳ないことを……全部、私が招いた災いよ」
おばあさまの瞳に、また後悔の色が滲み出す。
でも涼の言葉が希望の色を注ぐ。
「僕には……今のおばあさまの言葉、今のおばあさまの存在が支えになります。僕……ずっと自分の居場所を探していました。真実の僕を隠さないといけないことにジレンマも感じていました。でも今日おばあさまと会って、柊一さんの話を聞いて覚悟が決まりました。僕が一番守りたいものは安志さんです。僕は安志さんとの愛を貫きたいんです」
幼かった涼の覚悟。
「……洋ちゃん……由比ヶ浜はやっぱり誓いの海なのね」
「そのようですね」
俺と丈が誓ったように、涼も安志との道を貫く覚悟だ。
俺は応援するよ。
俺に何が出来るか分からないが、ずっと涼の傍にいる。安志の傍にいる。
「お話していたら、あなたたちの大事な人に会いたくなってしまったわ」
「おばあさまに会わせたいな。安志さんってね、すごくかっこいいんだ。ボディガードの仕事をしていて、僕を守ってくれたこともあって」
「まぁ素敵。それで、それで?」
涼とおばあさまの会話は、まるでおとぎ話。
俺と丈の話も、ある意味おとぎ話だ。
窓の外の海を眺めて、ふっと肩の力を抜いた。
丈と生きていく。
丈を愛していく。
幾千年の時を超えて、この地上に生を受けた意味をもう一度!
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