重なる月

志生帆 海

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16章

雲外蒼天 9

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「兄さん、どうかな?」
「あっ、出来たの?」

 涼自身のメイクも、最高だった。

 抜け感が、涼のお洒落な雰囲気と相まって、グッときた。

 男でも女でもない中性的なイメージで、まるでfairlyだ。

 朝の光のようなワンピースがよく似合っていた。

「涼、素敵過ぎる」
「ありがと! ん? 今、兄さん、自撮りしていた? もしかして丈さんに送った?」

 丈に自撮りした写真を送りつけたのがバレて、照れ臭くなった。

「い、いや、その……」
「見ーせて!」
「駄目だ。恥ずかしい」
「いいじゃん! そうだ! 僕も安志さんに送ろうかな?」
「え?」

 丈は写真を受け取ってもお得意のポーカーフェイスで切り抜けるだろうが、安志の場合は……きっと駄目だろう。

 可憐なfairlyのような涼の写真を見た時の反応を想像すると、楽しい気分になった。

 まず破顔するよな。

 その後隠しきれない程のデレ顔。

 もしかして……鼻血を出したりして!
 
 くくっ、安志は自分の感情にストレートだから、あれこれ想像すると楽しいな。

 まさかとは思うが……仕事中に股間を昂ぶらせたりはしないよな。

「よし、完璧! これ、安志さんに送ろうっと」
「涼、仕事の邪魔にならない?」
「ん? 大丈夫だよ。僕の彼氏は仕事中はすごく格好いいんだ。ボディガードをキリッ、ビシッとこなしているから、これ位じゃビクともしないよ」
「ふーん、俺の彼氏もビクともしないよ。クールな外科医だからね」

 おばあさまがいらっしゃることを忘れて、つい張り合ってしまった。

 涼も俺も、まったく意識していなかった。

 おばあさまが口を開く……

「もしかして……涼ちゃんも男の方と付き合っているの?」
「あっ!」

 涼は安志と付き合っていることを、まだ家族には話していない。安志も同じく、涼と付き合っていることは秘密にしている。

 涼が安志と付き合っているのを知っているのは、月影寺メンバーと、瑞樹くんたち、あとはKaiと優也さん。

 限られた人達だけだ。

 涼は必死に言葉を選んでいるようだった。

「あの……実は……そうなんです。僕……いろいろあって……洋兄さんの幼なじみと付き合っているんです。幸せが何かを彼に教えてもらっています。あの……このことは母さんには……まだ言わないで下さい」

 いつも溌剌としている涼が迷い子のようになる。

 すると、おばあさまは俺と涼を暫く見つめて、優しく手招きしてくれた。

「涼ちゃん、大丈夫よ。えっと……洋ちゃんの幼なじみなのね。洋ちゃん、良い方なの?」
「それは自信を持って。俺……涼の彼……安志には何度助けられたことか。安志が俺を救ってくれたんです。安志がいなかったら、今の俺はいません」
「まぁ、洋ちゃんの命の恩人なのね」
「はい。そう言い切れます」

 安志には、どんなに感謝しても足りない程だ。
 
 義父から逃れ、ソウルへ逃避行するのを手伝ってくれた恩人だ。

「涼ちゃん、震えないで……怯えないでいいのよ。私の周りにも沢山の男同士のカップルがいたの。海里先生と柊一さんだけでなく、アーサーさんと瑠衣さん、テツさんと桂人さん……みんな幸せなのをこの目で長年見守ってきたの。だから私は涼ちゃんのことも見守るわ」

 涼は、まだ白金のおとぎ話を知らない。だから少しキョトンとしていたが、それでもおばあさまが見守って下さるという言葉が嬉しかったようで、胸を撫で下ろしていた。

「おばあさま……ありがとう。おばあさまという味方が出来て心強いよ」
「そうよ。おばあちゃまは朝と夕の子供が、私の孫達が幸せにくれしてくれるのが一番なのよ」

『孫の幸せ』が一番と言い切ってくれる祖母が誇らしい。

「あ、あの……俺、おばあさまの孫になれて……本当に良かったです」
「まぁ、嬉しいわ」

 恥ずかしくて、まともにおばあさまの顔を見られない。

 心を見せるのは苦手だから……

 それでも

 伝えたい。俺の心を――

「洋ちゃんはいい子ね。恥ずかしくても、ちゃんと言葉に出して伝えてくれてありがとう」

 
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