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16章
雲外蒼天 4
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「じゃあ、洋ちゃん、涼ちゃん、行きましょう」
「あ、待って下さい! ルナを預けてきます。ルナは怖がりで月影寺から出たがらないので」
「分かったわ。でも、誰に預けるの?」
「それは、翠兄さんです」
「まぁ、翠さん! ご住職さまにご挨拶しなくちゃ。あのお方は相変わらず凜として素敵でしょうね」
おばあさまってば、目はハートになっていますよ。
と、突っ込みたくなった。
翠さんは、やはり人気者だ。
檀家さんが住職目当てで、こぞって押し寄せてくるのも納得だ。
おばあさまも、漏れなく翠さんの虜になっている。
「じゃあ、一緒に挨拶に行きましょう」
「あ、洋兄さん、僕は出掛ける支度をしてくるよ」
「了解、15分後にここにおいで」
「わかった!」
浮き足立つおばあさまを連れて寺庭を歩くと、御朱印所に小森くんの姿が見えた。
「あら、あそこに、ひもじそうな小坊主さんがいるわ。これをお供えしないと」
おばさまが手提げから月下庵茶屋のお饅頭を取り出し、小森くんの前に置いた。こもりくんの目が途端に輝き、耳がピョンと立つ。
まるで……あんこのあやかしのようだ。
「え? これって、これって」
「あなたがお寺の小坊主くんね。洋ちゃんがいつもお世話になっています。これをどうぞ」
「わぁ~ ありがとうございます! 仏様のご加護がありますように」
小森くんが真顔で合掌すれば、おばあさまが少女のように微笑む。
「なんてかわゆいのかしら。桜色のおべべが似合っているわ。あなたイカしているわ」
「なんと! これは僕の一張羅なので嬉しいですよー」
小森くんは頬を染め、ぺこりとお辞儀をする。
おばあさま……『いかす』って?
ふふっ、おばあさまって気が若いんだな。
「チーン」と澄んだ音色が響いた。
おりんを鳴らしながら、楚々とした面持ちの翠さんがやってきた。
おりんという仏具が響かせる音は空間を清めて邪気を払うとされているので、その場が清められていくようだった。
「こんにちは。白江さんではないですか」
「翠さん! お会いしたかったです」
おばあさまってば映画のヒロインみたいな声を出して!
こ、これは流さんには見せられないな。
「ほぉ~ 洋のばーちゃん、もしかして翠にぞっこんか」
うわ! そこにヌッと現れたのはいつものように作務衣姿の流さんだった。
噂をすればっていうヤツだ。
「ぞっこん?」
「もう死語か」
「たぶん……でもおばあさまは知っていると思います」
「心底からほれ込んでいるさまだよ。翠はひとたらしだからな」
「それはよく分かります」
「それより何か用事か」
「あぁそうだ。今からおばあさまと涼と由比ヶ浜に行って来ます。それでルナを預かってもらえませんか」
流さんはギョッとする。
「出た! 天敵!」
「酷いですね。ルナは可愛い子猫ですよ」
「あぁ悪いな。こいつが来ると翠が溺愛して仕事にならんし、挙げ句に別れ際は泣きそうな顔をするから大変なんだぞ」
「そんなに可愛がってもらっているなんて、ルナよかったな。そうだ、流さんも翠さんに猫を贈ったらどうですか」
「ん? そう来るか」
「翠さんの輝く笑顔が拝めますよ」
「なるほど~ 洋も言うようになったな」
涼とおばあさまと由比ヶ浜に出掛ける旨を話すと、翠さんが眉をひそめた。
「心配だな。涼くん、人目に触れても大丈夫だろうか」
「……あ、そうですね。今はまだその時では」
誘ってしまった手前、断るのも可愛そうだし……どうしたものか。
「よく理由は分からないけど、涼ちゃんは身を隠したいのね。じゃあ、こんな時はあれよ、あれ!」
「なんですか」
「あなたのお家には良いものがあるじゃない。ほらハロウィンの時みたいに」
「えっ!」
まさか、また……女装を?
「ふふ、二人がワンピースを着て並んだ所も見て見たいわ。ようちゃん、ね、駄目かしら?」
「そ、それは……」
おばあさまの「駄目かしら?」は、翠さんの「駄目か」に匹敵する。
その様子を見ていた翠さんは苦笑し、流さんは豪快に笑った。
「洋くん、母のコレクションはいつでも着ていいと伝言があったよ。だからルナの面倒は僕に任せて着替えておいでよ。南無~」
翠さんはおりんをチーンチーンと2回鳴らし、流さんに「流,これは持っていて」と渡した。
それから満面の笑みでルナを抱き上げて、いそいそと去って行った。
「えええ……」
そこに支度を調えた涼が、満面の笑みでやってきた。
「洋兄さん~ ごめん! この服ちょとキツいから違うのを貸してくれない? 何かいい服持ってる?」
「ええっと……」
「あ、待って下さい! ルナを預けてきます。ルナは怖がりで月影寺から出たがらないので」
「分かったわ。でも、誰に預けるの?」
「それは、翠兄さんです」
「まぁ、翠さん! ご住職さまにご挨拶しなくちゃ。あのお方は相変わらず凜として素敵でしょうね」
おばあさまってば、目はハートになっていますよ。
と、突っ込みたくなった。
翠さんは、やはり人気者だ。
檀家さんが住職目当てで、こぞって押し寄せてくるのも納得だ。
おばあさまも、漏れなく翠さんの虜になっている。
「じゃあ、一緒に挨拶に行きましょう」
「あ、洋兄さん、僕は出掛ける支度をしてくるよ」
「了解、15分後にここにおいで」
「わかった!」
浮き足立つおばあさまを連れて寺庭を歩くと、御朱印所に小森くんの姿が見えた。
「あら、あそこに、ひもじそうな小坊主さんがいるわ。これをお供えしないと」
おばさまが手提げから月下庵茶屋のお饅頭を取り出し、小森くんの前に置いた。こもりくんの目が途端に輝き、耳がピョンと立つ。
まるで……あんこのあやかしのようだ。
「え? これって、これって」
「あなたがお寺の小坊主くんね。洋ちゃんがいつもお世話になっています。これをどうぞ」
「わぁ~ ありがとうございます! 仏様のご加護がありますように」
小森くんが真顔で合掌すれば、おばあさまが少女のように微笑む。
「なんてかわゆいのかしら。桜色のおべべが似合っているわ。あなたイカしているわ」
「なんと! これは僕の一張羅なので嬉しいですよー」
小森くんは頬を染め、ぺこりとお辞儀をする。
おばあさま……『いかす』って?
ふふっ、おばあさまって気が若いんだな。
「チーン」と澄んだ音色が響いた。
おりんを鳴らしながら、楚々とした面持ちの翠さんがやってきた。
おりんという仏具が響かせる音は空間を清めて邪気を払うとされているので、その場が清められていくようだった。
「こんにちは。白江さんではないですか」
「翠さん! お会いしたかったです」
おばあさまってば映画のヒロインみたいな声を出して!
こ、これは流さんには見せられないな。
「ほぉ~ 洋のばーちゃん、もしかして翠にぞっこんか」
うわ! そこにヌッと現れたのはいつものように作務衣姿の流さんだった。
噂をすればっていうヤツだ。
「ぞっこん?」
「もう死語か」
「たぶん……でもおばあさまは知っていると思います」
「心底からほれ込んでいるさまだよ。翠はひとたらしだからな」
「それはよく分かります」
「それより何か用事か」
「あぁそうだ。今からおばあさまと涼と由比ヶ浜に行って来ます。それでルナを預かってもらえませんか」
流さんはギョッとする。
「出た! 天敵!」
「酷いですね。ルナは可愛い子猫ですよ」
「あぁ悪いな。こいつが来ると翠が溺愛して仕事にならんし、挙げ句に別れ際は泣きそうな顔をするから大変なんだぞ」
「そんなに可愛がってもらっているなんて、ルナよかったな。そうだ、流さんも翠さんに猫を贈ったらどうですか」
「ん? そう来るか」
「翠さんの輝く笑顔が拝めますよ」
「なるほど~ 洋も言うようになったな」
涼とおばあさまと由比ヶ浜に出掛ける旨を話すと、翠さんが眉をひそめた。
「心配だな。涼くん、人目に触れても大丈夫だろうか」
「……あ、そうですね。今はまだその時では」
誘ってしまった手前、断るのも可愛そうだし……どうしたものか。
「よく理由は分からないけど、涼ちゃんは身を隠したいのね。じゃあ、こんな時はあれよ、あれ!」
「なんですか」
「あなたのお家には良いものがあるじゃない。ほらハロウィンの時みたいに」
「えっ!」
まさか、また……女装を?
「ふふ、二人がワンピースを着て並んだ所も見て見たいわ。ようちゃん、ね、駄目かしら?」
「そ、それは……」
おばあさまの「駄目かしら?」は、翠さんの「駄目か」に匹敵する。
その様子を見ていた翠さんは苦笑し、流さんは豪快に笑った。
「洋くん、母のコレクションはいつでも着ていいと伝言があったよ。だからルナの面倒は僕に任せて着替えておいでよ。南無~」
翠さんはおりんをチーンチーンと2回鳴らし、流さんに「流,これは持っていて」と渡した。
それから満面の笑みでルナを抱き上げて、いそいそと去って行った。
「えええ……」
そこに支度を調えた涼が、満面の笑みでやってきた。
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「ええっと……」
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