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16章
雲外蒼天 3
しおりを挟む【補足】
洋が猫を飼う話は、エブリスタというサイトの2スター特典『月影寺のクリスマス』で書いています。可愛らしい話なのでよかったら、どうぞ。 https://estar.jp/extra_novels/25758103
****
丈を見送り部屋に戻ると、白猫が足下に擦り寄ってきた。
恥ずかしがり屋なのか、丈がいる時は姿を消していて、俺が一人になるといつもこんな風に自分の存在をアピールしてくる。
「なんだ、そこにいたのか」
「ニャア~」
丈がクリスマスに贈ってくれた白猫は、月光のように白い毛並みだったので、月からの贈り物だと思った。
月だけが俺たちの輪廻転生の全てを知っている。
だから子猫にも月の名を与えたかった。
この子猫は、俺たちの子供のような存在だからね。
丈にラテン系の言葉で月は『ルーナ』や『ルナ』だと教えてもらったので、音の響きから『ルナ』と名付けた。
「ん? ルナ、どうした?」
「ニャア、ニャア……」
ルナが玄関の扉を爪でカリカリと引っ掻いている。
どうやら外に遊びに行きたいようだ。
「よしよし、分かった。おいで!」
俺はルナを胸に抱いて、庭に出た。
月影寺にはとっておきの場所がある。竹藪の茂みに覆われた芝生の広場は、俺とルナの格好の秘密の遊び場になっていた。
「よーし、ルナ、自由にしていいぞ」
「ニャア!」
誰もいないのをいいことに、俺はここで連日思いっきり猫と戯れている。ルナのお腹に顔を近づけて、すんと息を吸うのも大好きだ。
「お前のここ……懐かしく感じる。あったかくて、いい匂いだな」
これは猫吸い呼ばれる、飼い主が猫の体に顔を埋めて息を吸う行為で、飼い主と猫との信頼関係があって初めて出来るものだ。
つまり俺とルナがそこまで仲良くなった証なのさ!
「かわいいルナ、大好きだ」
「にゃああん」
……こんな場面、丈が見たら妬くかもな。(絶対妬く!)
芝生まみれになって気ままに遊んでいると、突然、涼とおばあさまがやってきたので驚いた。
昔の俺だったら逃げ出すシーンだ。
人にありのままの感情を見せるのには、人一倍警戒していたから。
でもこの二人は別だ。
俺の大好きなおばあさまと、弟のような従兄弟の涼。
二人になら、むしろ……ここまで明るくなれた俺の姿を見て貰いたい。
ありのままを曝け出して、安心して欲しい。
俺がここまで立ち直っていることを伝えたい。
だから、二人を呼んだ。
「おばあさま、こちらにいらして下さい。涼もおいで!」
そのまま二人と一緒に猫と戯れていたが、ふと疑問が沸いた。
「ところで、おばあさま、急にどうしたのですか。何か用事があったのでは?」
「あ、いけない! 車を待たせたままだったわ。洋ちゃん、一緒に来て」
「どこへ行くのです?」
「由比ヶ浜の別荘よ。そうだわ、涼ちゃんも一緒に行きましょうよ」
「え? 由比ヶ浜って何?」
涼はキョトンとしていた。
そうだ、涼にはまだ話せていなかったな。
ならば、これは絶好の機会だ。
由比ヶ浜は俺と涼の母の生誕の地で、幼い姉妹が何度も遊びに行った場所だと聞いている。
「涼、今から行こう! 涼にも縁がある場所なんだ」
双子のような涼と由比ヶ浜に行こう!
かつての双子の姉妹のように。
時代を駆け抜けて――
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