重なる月

志生帆 海

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16章

翠雨の後 43

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 カーテンのない窓の向こうから、自然のアラームが鳴る。

 竹藪を掻き分けて届く朝日に、今日も起こされる。

 極上の目覚めだ。

「ん……」

 私はゆっくり目を見開き、腕の中で眠る洋の寝顔を見つめた。

 昨夜も、洋の身体の奥深い場所で繋がった。

 その余韻を揺りかごに眠りに落ちたので、二人とも生まれたままの姿だった。

 真珠のようにしっとり輝く洋の素肌をそっと撫でると、くすぐったそうに身動ぎをした。

 そらから整った美しい顔を少し歪めて、布団の中に潜っていく。

「やれやれ、相変わらずだな」

 低血圧な君の寝起きが悪い事は知り尽くしているので、私は裸のままシャワールームに向かった。

 熱いシャワーを浴びると、水滴が肌に弾け飛び散った。

 鏡に映る私は、洋と出逢った頃とたいして変わっていない。

 いつもの流れで、ボディソープを泡立てたスポンジで、身体をゴシゴシと洗い出す。

 その隙に自分の筋肉にそっと触れて、筋肉の付き具合を確かめる始末だ。

 まだまだ余裕だ。

 体力の有り余る肉体に、ほくそ笑む。

 すると、向き会っている鏡に人影が映った。

「ははっ、丈はナルシストなのか」
「洋! 珍しいな、ひとりで起きられたのか」
「俺は子供じゃないよ」
「だが、私の洋だ」
「ふっ、涼が来ているから寝坊するわけにはいかないよ。なぁ丈、俺もシャワーを浴びたい。そっちにいってもいいか」
「もちろん」

 広いタイル張りのバスルームだ。

 何の問題もない。

 洋もまだ一糸まとわぬ姿だった。

「来い」
「あっ」

 抱き寄せた身体に、私の身体についた泡を擦り付けるように密着させた。

「わ!」

 二人の男の子裸体が、シャワーの下で絡み合う。

「あ……おい、もう駄目だ」
「分かっている。綺麗に洗ってやるからじっとしていろ」
「全く! 丈は俺の世話を焼くのが好きだな」
「流兄さんに負けられないからな」
「いい勝負だよ」

 洋の太腿に手を這わせ、そのまま股間部分も丁寧に洗ってやる。

「あ……あっ……」

 何度抱いてもそこを弄られる時の羞恥心は消えないようで、洋は頬を染め上げ、目を瞑ってじっとしていた。

「大きくなってきたな」
「馬鹿、お前が触るからだ」
「昨日、出し足りなかったのでは? すっかり後ろだけでいけるようになったから」
「よせ、言うな」

 洋は身を捩りつつも、股間を高まらせていく。

 可愛い洋。

 淫らで可愛い姿も、気高い姿も全部見せて欲しい。

「あ……あっ、あぁ」

 洋はあっけなく精を放ってしまった。

 私の右手に溢れた白濁の液体をペロッと舐めると、洋が真っ赤になった。

「丈!」
「ちゃんと出せて偉かったな」
「馬鹿! 朝から体力を使わせて」
「悪かった。今日の予定は?」
「ずっとここにいる。涼もいるし、寂しくはない」
「もう少しだ。今、由比ヶ浜の耐震測定をしてもらっているが、少し大がかりな工事が必要になるかもしれない」
「やっぱりそうか、古い建物だもな」

 脱衣場で洋の身体をバスタオルに包んでやる。

「洋と早く一緒に仕事をしたいのに、焦ったいな」
「丈、焦るな。基礎をしっかりしておかないと長持ちしないぞ。俺たちの城になるのだろう? 由比ヶ浜の洋館は」
「洋の言葉は心強いな」
「お互いの目指す未来が、今は同じ場所にあるからさ」

 バスローブをふわっと羽織る洋の背中には、天使の羽が生えているように見えた。

 まるで初めて出逢ったあの日のように。

 思わず目を擦ると、洋がふっと魅惑的に微笑んで振り返った。

「丈! 今度の休みには由比ヶ浜に行かないか。洋館の様子を見たいし、久しぶりに春の海に行きたい」
「約束しよう」
「ありがとう」

 そしてまた私たちの一日が始まる。

 うららかな春の日が。
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