重なる月

志生帆 海

文字の大きさ
上 下
1,493 / 1,657
16章

翠雨の後 26

しおりを挟む
「あ……」
「どうした?」
「月が雲に……」

 夕食後、月見窓から空をゆったりと見上げていた翠が呟いた。

 俺も背後から近づいて一緒に夜空を見上げると、月が雲隠れしていた。

 翠が納得した様子で、ふっと表情を緩める。

「あぁ、そうか……今宵は離れに恥ずかしがり屋さんがお泊まりだからか」

 可愛いことを言うので、俺は月見窓の傍らで翠の顎に手をかけて、上を向かせた。

「どんな明るさでも、俺には翠が見えるぞ」
「流……それは……僕も同じだよ」

 翠が月影寺を出て行ってしまった時、俺は人知れず翠を思った。

 わざと冷たくして突き放しても、離れがたい兄だった。

 夜な夜な夢想しては、夢の中で翠を乱し、感極まった顔に見入っていた。

 とは言えないが……

「流……あのね、僕は……目が見えなくなっても、流の顔だけは忘れないように……毎晩……その……」

 翠も同じだったのか。

 当時はお互い素直になれずに言えなかったが……

 今は……俺が翠の頬に手を添えれば、翠も躊躇いもなく添えてくれる。

「今は俺の翠か」
「うん」

 住職の顔、兄の顔、父の顔と忙しい1日だった。

 ようやく夜の帳が下りたのか。

「明日は入学式だから、今宵は口づけだけでいい」
「……ならば、流……僕から与えたい」

 翠が俺の唇を積極的に吸ってくれる。

 更に優しく舌を忍ばせて……
 
 翠の愛情で、俺を優しく満たしてくれる。

 深く交わるだけではない。

 ほんの少し触れるだけで胸が高鳴っていた初心を思い出せる口づけだった。

****

「涼っ」
「わ!」

 安志さんにガバッと抱きしめられ下半身を擦りつけるように揺さぶられると、あっという間に高まってしまった。

「あっ! 駄目」
「駄目なのか」
「……ううん、いい」
「だろ?」
「もうっ」

 安志さんと触れ合うのは、いつぶりだろう?
 
 大学の進級がかかっていたし撮影も重なって、ずっと会えなかった。

「涼……やっと捕まえた!」
「安志さん」
「なぁ、あんなニュース、もう気にすんなよ。俺がちゃんと分かっているんだから大丈夫だ。それにあのニュースのお陰でさ、俺たちこんなこと出来てるんだし」

 僕の胴体に跨がる安志さんがニカッと笑うので、なんだか拍子抜けしてしまった。

 僕、一人で悩んで……思い詰め過ぎていた。

「あ……確かに」

 安志さんは悪いことを、良いことに変えてくれる人。

「涼、抱くぞ」
 
 お互いに協力して、あっという間に一糸纏わぬ姿になった。

「俺、ちょっと、がっついているか」
「僕もだから気にしなくていいよ」
「よかった。あのさ、今日は涼の顔をじっくり見ながらしたい」
「えっ」 

 そのまま仰向けに押し倒され、顎をクイッと掴まれ上を向かされたと思ったら、深く口づけされた。

 舌を絡め取られ口腔内をまさぐられるのって……気持ちいい。

 するとそのまま、いつかのように手首を掴まれて顔に頭上で一纏めにされてしまった。

「あ……それはっ」
「いやか」
「……あの時、すごくドキドキしたよ」
「可愛いことを……今日も恥ずかしい顔見せてくれよ。最高に可愛いから」
「あ……んっ、んっ」

 

 うん……僕も……見せたいよ。

 夢中にさせて欲しい。
 
 安志さんに溺れさせてよ。

 何もかも忘れる程、強く深く……僕を抱いて!

 安志さんに首筋から胸元を辿るように舐められると、僕の身体はビクビクと驚くほど過敏に反応した。




 
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ

紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか? 何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。 12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...