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16章
翠雨の後 25
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「涼……」
「安志さん」
屋外だが、ここでは月しか俺たちを見ることは出来ない。
誰にも侵されない場所にいる。
だからお互いなんの戸惑いもなく、吸い寄せられるように唇を重ねた。
「んっ」
「涼……」
春の宵。
桜の花びらがひらひらと舞う中で、何度も何度もお互いの唇を求め貪り合った。
温もりを分かち合えば、不安、怒り、悲しみは自然と消えて行く。
これが俺たちの恋の方程式。
涼と出会ったのは遠いアメリカ、ニューヨークだった。
最初は機内で洋かと思って驚き、次はスリに遭った所を助けてもらった。
……
「Hey you! wait!」
俺の横をすり抜けた影は更に速度を上げて、財布を持って逃げた男の所にすぐに追いついた。そしてあっという間に後ろ手にねじりあげて財布を地面へ落とさせた。足が速く所作も俊敏で綺麗で……若い男なのに、はっとするほど凛とした雰囲気だった。
……
あの日が、涼との運命の出逢いだった。
「安志さん……どうしたの?」
「いや、さっき一緒に走って、あの日を思い出したんだ」
「あ! あのスリにあった日?」
「へへ、格好悪いな。俺、ボディガードなのに」
「そんな安志さんだから好きになったんだ。そういえば……今回の仕事は終わったの?」
「いや、一旦休憩で、朝にはまた行くよ」
夜になって警備が増員され、急遽2交替制になった。
「鷹野は朝まで休め」と指示が入り、一旦帰宅を促された。
ここ数日、警護室で仮眠しか取れなかったので、これは天の助けだ。
「ありがとうございます。では明日の朝、8時に出社で宜しいですか」
「あぁ、それでいい」
俺は家とは逆方向の電車に飛び乗った。
そして北鎌倉に着くと、一目散に駆け出した!
ただ涼に会いたくて――
「安志さん、お仕事の合間にここまで来てくれるなんて……疲れさせてごめんなさい」
育ちの良い涼は、ここでいつも謝ってしまう。
違うそうじゃない!
「謝るなよ。俺が心から安らげる場所に来たんだから、ほらっ元気一杯さ!」
細身の身体を抱きしめ腰を密着させると、涼はすぐに頬を染めた。
「あっ、もう?」
「あ……はは、身体は正直だな。涼と久しぶりに会えたからさ」
「ん……僕も同じ……どうしよう」
確かに涼の方も、すでに反応していた。
「どうして欲しい?」
「それは……その……ここじゃ……まずいよね」
すると、背後の茂みがガサッと揺れた。
「涼、そろそろ戻らないと。夜風は体に良くないって、丈が」
洋の登場だ。
月光を浴びた洋は、相変わらずぞくっとするほど綺麗だった。
「やっぱり……来ていたのか」
「よう!」
明るく振り向くと、洋が怪訝な目つきをした。
コイツ! いつもこういうタイミングで現れるよな~
目が合うと、洋はすぐに視線を外し、そのまま俺の下半身へ。
ははは、ズボン越しの昂ぶりを見つかっちまった!
「洋、そんなにジドッと見るなって」
「まったくお前はいつも元気だね。部屋を用意するよ」
洋は俺たちを、宿坊の一番奥の部屋に案内してくれた。
「朝まで、ごゆっくり。涼も安志も疲れているんだから、早く寝るんだぞ」
「う、うん……洋兄さん、ありがとう」
涼が洋に抱きつくと、洋は蕩けそうに頬を染めた。
涼にはとことん甘い顔をする。
「……涼の相手が安志で良かったよ。知らないヤツだったら気が気じゃない」
お! いいこと言ってくれるんだな。
「安志、くれぐれも、ほどほどにだぞ」
シツコク念を押されて苦笑した。
「洋、恩に着るよ」
「それは、その……俺、安志には助けられてばかりだったから」
ぶっきら棒に答える洋だが、中身は情が深いことをよく知っている。
洋はそのままそそくさと消えていった。
6畳の和室には俺の来訪を予想していたのか、すでに布団が二組ぴったりくっついて並んでいた。
「安志さん……」
「涼、今日……抱いてもいいのか」
「うん、僕はそのつもりだよ」
「じゃあ風呂に入ってくるよ。1日中仕事してたから汗まみれだ」
すると涼に背後から抱きつかれた。
「そのままでいい。後で一緒に入ろう」
「くぅ~ 可愛いことを」
俄然やる気になった!
まだ年若い涼のメンタルは、俺ほど強くない。
両親の愛情を一身に受けて素直に明るく育ってきた涼は、誹謗中傷に慣れていない。
だから今回のスクープは、相当きつかったはずだ。
素直に人を信じる分、傷つきやすいのも知っている。
だがそれが涼の良い所だ。
太陽のように周りを照らす涼。
落ち込んでいるのなら、慰めてやりたい。
悲しいのなら、励ましてやりたい。
俺がいつでも寄り添って、暖めてやりたい。
「安志さん……あたためて。心が辛いんだ」
「あぁ、待ってろ」
一途に俺を求めてくれる涼を、俺は生涯をかけて守る覚悟だ。
「安志さん」
屋外だが、ここでは月しか俺たちを見ることは出来ない。
誰にも侵されない場所にいる。
だからお互いなんの戸惑いもなく、吸い寄せられるように唇を重ねた。
「んっ」
「涼……」
春の宵。
桜の花びらがひらひらと舞う中で、何度も何度もお互いの唇を求め貪り合った。
温もりを分かち合えば、不安、怒り、悲しみは自然と消えて行く。
これが俺たちの恋の方程式。
涼と出会ったのは遠いアメリカ、ニューヨークだった。
最初は機内で洋かと思って驚き、次はスリに遭った所を助けてもらった。
……
「Hey you! wait!」
俺の横をすり抜けた影は更に速度を上げて、財布を持って逃げた男の所にすぐに追いついた。そしてあっという間に後ろ手にねじりあげて財布を地面へ落とさせた。足が速く所作も俊敏で綺麗で……若い男なのに、はっとするほど凛とした雰囲気だった。
……
あの日が、涼との運命の出逢いだった。
「安志さん……どうしたの?」
「いや、さっき一緒に走って、あの日を思い出したんだ」
「あ! あのスリにあった日?」
「へへ、格好悪いな。俺、ボディガードなのに」
「そんな安志さんだから好きになったんだ。そういえば……今回の仕事は終わったの?」
「いや、一旦休憩で、朝にはまた行くよ」
夜になって警備が増員され、急遽2交替制になった。
「鷹野は朝まで休め」と指示が入り、一旦帰宅を促された。
ここ数日、警護室で仮眠しか取れなかったので、これは天の助けだ。
「ありがとうございます。では明日の朝、8時に出社で宜しいですか」
「あぁ、それでいい」
俺は家とは逆方向の電車に飛び乗った。
そして北鎌倉に着くと、一目散に駆け出した!
ただ涼に会いたくて――
「安志さん、お仕事の合間にここまで来てくれるなんて……疲れさせてごめんなさい」
育ちの良い涼は、ここでいつも謝ってしまう。
違うそうじゃない!
「謝るなよ。俺が心から安らげる場所に来たんだから、ほらっ元気一杯さ!」
細身の身体を抱きしめ腰を密着させると、涼はすぐに頬を染めた。
「あっ、もう?」
「あ……はは、身体は正直だな。涼と久しぶりに会えたからさ」
「ん……僕も同じ……どうしよう」
確かに涼の方も、すでに反応していた。
「どうして欲しい?」
「それは……その……ここじゃ……まずいよね」
すると、背後の茂みがガサッと揺れた。
「涼、そろそろ戻らないと。夜風は体に良くないって、丈が」
洋の登場だ。
月光を浴びた洋は、相変わらずぞくっとするほど綺麗だった。
「やっぱり……来ていたのか」
「よう!」
明るく振り向くと、洋が怪訝な目つきをした。
コイツ! いつもこういうタイミングで現れるよな~
目が合うと、洋はすぐに視線を外し、そのまま俺の下半身へ。
ははは、ズボン越しの昂ぶりを見つかっちまった!
「洋、そんなにジドッと見るなって」
「まったくお前はいつも元気だね。部屋を用意するよ」
洋は俺たちを、宿坊の一番奥の部屋に案内してくれた。
「朝まで、ごゆっくり。涼も安志も疲れているんだから、早く寝るんだぞ」
「う、うん……洋兄さん、ありがとう」
涼が洋に抱きつくと、洋は蕩けそうに頬を染めた。
涼にはとことん甘い顔をする。
「……涼の相手が安志で良かったよ。知らないヤツだったら気が気じゃない」
お! いいこと言ってくれるんだな。
「安志、くれぐれも、ほどほどにだぞ」
シツコク念を押されて苦笑した。
「洋、恩に着るよ」
「それは、その……俺、安志には助けられてばかりだったから」
ぶっきら棒に答える洋だが、中身は情が深いことをよく知っている。
洋はそのままそそくさと消えていった。
6畳の和室には俺の来訪を予想していたのか、すでに布団が二組ぴったりくっついて並んでいた。
「安志さん……」
「涼、今日……抱いてもいいのか」
「うん、僕はそのつもりだよ」
「じゃあ風呂に入ってくるよ。1日中仕事してたから汗まみれだ」
すると涼に背後から抱きつかれた。
「そのままでいい。後で一緒に入ろう」
「くぅ~ 可愛いことを」
俄然やる気になった!
まだ年若い涼のメンタルは、俺ほど強くない。
両親の愛情を一身に受けて素直に明るく育ってきた涼は、誹謗中傷に慣れていない。
だから今回のスクープは、相当きつかったはずだ。
素直に人を信じる分、傷つきやすいのも知っている。
だがそれが涼の良い所だ。
太陽のように周りを照らす涼。
落ち込んでいるのなら、慰めてやりたい。
悲しいのなら、励ましてやりたい。
俺がいつでも寄り添って、暖めてやりたい。
「安志さん……あたためて。心が辛いんだ」
「あぁ、待ってろ」
一途に俺を求めてくれる涼を、俺は生涯をかけて守る覚悟だ。
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