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16章
翠雨の後 17
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月影寺のご住職の言葉は、糧となる。
『俺はいい子で、達哉さん……お父さんに可愛がってもらっている』
翠さんの言葉を、自分の言葉で復唱してみた。
どこまでも慈愛に満ちていれ、しみじみと嬉しくなった。
翠さん、ありがとうございます。
Uターンして建海寺に戻ると、達哉さんが血相を変えてすっ飛んで来た。
「どうした? 遊びに行くんじゃなかったのか、何かあったか」
まるで小さな子供のように心配されて、照れ臭い。
でも、温かい。
「忘れものを取りに来ただけだよ」
「ん?」
「寄せ木細工の栞、あと、それから……着替えていくよ」
「何に?」
「……制服を着て月影寺に行ってもいいかな、お父さん」
お父さんには、包み隠さず話したかった。
俺のこと、もっともっと分かって欲しくて。
「あぁ、制服姿を見せて来い。お父さんは明日ゆっくり見られるから」
「えっ、入学式に一緒に行ってくれるの? 」
「おいおい当たり前だろう。大事な一人息子の入学式なんだ」
大事な一人息子。
そんなにまで、大切に思ってくれているなんて
「拓人、さぁ行って来い。会いたい人に会って来いよ」
「うん!」
お父さんの言葉が矢のように放たれる。
俺、お父さんが好きだ。
俺を生んでくれたお母さんはもういないし、実のお父さんもとっくにいないが、こんなにまで俺を慈しんでくれる人と出逢えるなんて――
今生で、俺が父と呼ぶのは達哉さんだけだ。
「お父さん、本当にありがとう」
「ははっ、照れるぜ。そうだ、また父子旅行に行こう! 息子っていいんもんだ。いつまでも一緒に温泉にも入れるしな。今度は滝行もしようぜ」
「うん、また行きたい。すごく楽しかったから」
もう一歩、もう一歩、俺からも歩み寄って甘えてみよう。
俺がそうすると、お父さんとの関係がもっと上手く行く気がする。
****
「拓人の学ラン姿、男らしくてすげー似合っている」
「そういう薙だって、ネクタイなんて締めてオトナっぽいぞ」
「サンキュ! なぁ、俺の部屋でゲームしようぜ」
「いいな!」
拓人とはあんなことがあったが、それはもう過去のことで、オレは今の拓人が好きだ。
オレは昔から嫌な事はさっさと忘れてしまいたいタイプだ。
「拓人、オレたち、明日から高校生だ。気持ちを切り替えて行こうぜ」
「薙、俺もそう思ってた。本当は薙と同じ高校に行きたくて未練があるが、もう吹っ切っていくしかないよな。立ち止まってあれこれ悩んでも解決しないなら、動いてみようかな」
「ポジティブな行動ってヤツだな」
「そうだ。薙はどう思う?」
ストイックで真面目なとこ。
少し不器用なところ。
拓人って本当にいい奴だ。
「聞くまでもないさ! オレも同感!」
明るい笑顔を向ければ、拓人も笑ってくれた。
そのままオレの部屋でゲームをしたり、映画を観たりして、高校入学前日を謳歌した。
「日が暮れてきたな。そろそろ帰るよ。お父さんが待ってる」
「そうだな。オレさ、拓人の高校生活も知りたい。だから定期的に会おうな」
「あぁ! よろしくな」
ハイタッチ!
そしてバイバイ。
また明日とは言えないが、いつでも会えるが合言葉!
『俺はいい子で、達哉さん……お父さんに可愛がってもらっている』
翠さんの言葉を、自分の言葉で復唱してみた。
どこまでも慈愛に満ちていれ、しみじみと嬉しくなった。
翠さん、ありがとうございます。
Uターンして建海寺に戻ると、達哉さんが血相を変えてすっ飛んで来た。
「どうした? 遊びに行くんじゃなかったのか、何かあったか」
まるで小さな子供のように心配されて、照れ臭い。
でも、温かい。
「忘れものを取りに来ただけだよ」
「ん?」
「寄せ木細工の栞、あと、それから……着替えていくよ」
「何に?」
「……制服を着て月影寺に行ってもいいかな、お父さん」
お父さんには、包み隠さず話したかった。
俺のこと、もっともっと分かって欲しくて。
「あぁ、制服姿を見せて来い。お父さんは明日ゆっくり見られるから」
「えっ、入学式に一緒に行ってくれるの? 」
「おいおい当たり前だろう。大事な一人息子の入学式なんだ」
大事な一人息子。
そんなにまで、大切に思ってくれているなんて
「拓人、さぁ行って来い。会いたい人に会って来いよ」
「うん!」
お父さんの言葉が矢のように放たれる。
俺、お父さんが好きだ。
俺を生んでくれたお母さんはもういないし、実のお父さんもとっくにいないが、こんなにまで俺を慈しんでくれる人と出逢えるなんて――
今生で、俺が父と呼ぶのは達哉さんだけだ。
「お父さん、本当にありがとう」
「ははっ、照れるぜ。そうだ、また父子旅行に行こう! 息子っていいんもんだ。いつまでも一緒に温泉にも入れるしな。今度は滝行もしようぜ」
「うん、また行きたい。すごく楽しかったから」
もう一歩、もう一歩、俺からも歩み寄って甘えてみよう。
俺がそうすると、お父さんとの関係がもっと上手く行く気がする。
****
「拓人の学ラン姿、男らしくてすげー似合っている」
「そういう薙だって、ネクタイなんて締めてオトナっぽいぞ」
「サンキュ! なぁ、俺の部屋でゲームしようぜ」
「いいな!」
拓人とはあんなことがあったが、それはもう過去のことで、オレは今の拓人が好きだ。
オレは昔から嫌な事はさっさと忘れてしまいたいタイプだ。
「拓人、オレたち、明日から高校生だ。気持ちを切り替えて行こうぜ」
「薙、俺もそう思ってた。本当は薙と同じ高校に行きたくて未練があるが、もう吹っ切っていくしかないよな。立ち止まってあれこれ悩んでも解決しないなら、動いてみようかな」
「ポジティブな行動ってヤツだな」
「そうだ。薙はどう思う?」
ストイックで真面目なとこ。
少し不器用なところ。
拓人って本当にいい奴だ。
「聞くまでもないさ! オレも同感!」
明るい笑顔を向ければ、拓人も笑ってくれた。
そのままオレの部屋でゲームをしたり、映画を観たりして、高校入学前日を謳歌した。
「日が暮れてきたな。そろそろ帰るよ。お父さんが待ってる」
「そうだな。オレさ、拓人の高校生活も知りたい。だから定期的に会おうな」
「あぁ! よろしくな」
ハイタッチ!
そしてバイバイ。
また明日とは言えないが、いつでも会えるが合言葉!
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