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16章
翠雨の後 12
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前置きをさせて下さいね。
涼のゴシップネタの発端は 安志&涼編 『僕の決意』1からです。
かなり前に書いた部分なので、記憶が……だと思うので💦
****
「洋、今日、涼がそっちに向かっているはずだ。実は深い事情があって」
「涼が? あっもしかして、あのゴシップニュースのせいか」
「洋も見たのか。なら話が早いな」
安志の声は、意外なほど落ち着いていた。
「うん、ついさっきPCで。鮮明ではないが合成写真でもなさそうだ。きっと何か深い事情があったのだろう。もしかして、安志は相手を知って?」
「あの外人は涼の高校の同級生だよ。ビリーと言って以前、日本にやってきて涼の家に泊まったんだ。その翌朝の……別れ際の挨拶だ。しかし、どうして今更流出するのか。涼のプライベートを盗撮してマスコミに売るなんて悪意を感じるぜ」
安志の説明を聴いて、2つのパターンが浮かんだ。
確かに涼は海外生活が長い帰国子女で、感覚が向こうの若者と近い部分もある。だから別れ際に同性同士でハグや額や頬にキスも珍しいことではないのかもしれない。
だが……安志がいる今、日本で暮らす今、涼がそんなことを望むだろうか
そもそも涼はあのサマーキャンプ以来、当然なことだが安志や俺たち以外の……同性に対して警戒が強くなっている。
ゴシップ写真は、強引に抱きつかれキスされたような印象を受けた。
一方的な別れのキスだったのかもしれない。
相手の方に涼に対する淡い恋心があったから、友人同士の単なる挨拶に見えないのかもしれない。だからゴシップネタになってしまったのかも。
人の気持ちは複雑だ。
「涼はゴシップのせいで道端で記者に突撃されたり大学まで追い回されたりして心が疲弊している。それで事務所からの命令で少し雲隠れしろって言われて」
以前にも、こういうことがあった。
安志がボディガードで怪我をした事件。
あの時もやはり世間の目から隠れるために、月影寺にやってきたことがあった。
月影寺は大きな、大きな傘だ。
俺もこの寺にやってきてから、自分を取り戻せた。
だから、涼……心身が疲れたのなら、ここにおいで。
ここは安全だ。
俺が保証する。
「分かった。きっとそろそろ着く頃だ。迎えに行ってくるよ」
「洋、ありがとうな! 俺、こんな時に情けないよ。涼を守り切れなくて」
同性同士でつきあっていると、まだまだ胸を張っていえない世の中だ。
まして涼は芸能人だ。
安志の気持ちも痛い程分かる。
「安志、涼はきっと安志に会いたいと思っているよ」
「俺も今すぐ何もかも投げ出して行きたい」
「ままならないのか」
「くそっ……要人の警護中なんだ」
「安志が来るまで、涼は俺がしっかり預かるよ」
「今となっては丈さんの気持ちが痛い程分かる。俺は……あの時丈さんを責めたが、そうじゃないんだな」
「安志……元気出せ」
僕の片割れのような涼。
母親同士が双子の縁。
光のような涼の幸せは、影である俺の幸せでもあるんだ。
今回の件は一筋縄にはいかないかもしれない。
だが、どうか諦めないでくれ。
俺が言える筋合いではないが、最後の最後で諦めなかったから今がある。
さぁ、涼、おいで!
傷付いた心、疲れた身体、少し休めてくれ。
俺もついている。
涼はひとりじゃない。
そんな思いで、俺は山門を駆け下りた。
涼のゴシップネタの発端は 安志&涼編 『僕の決意』1からです。
かなり前に書いた部分なので、記憶が……だと思うので💦
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「洋、今日、涼がそっちに向かっているはずだ。実は深い事情があって」
「涼が? あっもしかして、あのゴシップニュースのせいか」
「洋も見たのか。なら話が早いな」
安志の声は、意外なほど落ち着いていた。
「うん、ついさっきPCで。鮮明ではないが合成写真でもなさそうだ。きっと何か深い事情があったのだろう。もしかして、安志は相手を知って?」
「あの外人は涼の高校の同級生だよ。ビリーと言って以前、日本にやってきて涼の家に泊まったんだ。その翌朝の……別れ際の挨拶だ。しかし、どうして今更流出するのか。涼のプライベートを盗撮してマスコミに売るなんて悪意を感じるぜ」
安志の説明を聴いて、2つのパターンが浮かんだ。
確かに涼は海外生活が長い帰国子女で、感覚が向こうの若者と近い部分もある。だから別れ際に同性同士でハグや額や頬にキスも珍しいことではないのかもしれない。
だが……安志がいる今、日本で暮らす今、涼がそんなことを望むだろうか
そもそも涼はあのサマーキャンプ以来、当然なことだが安志や俺たち以外の……同性に対して警戒が強くなっている。
ゴシップ写真は、強引に抱きつかれキスされたような印象を受けた。
一方的な別れのキスだったのかもしれない。
相手の方に涼に対する淡い恋心があったから、友人同士の単なる挨拶に見えないのかもしれない。だからゴシップネタになってしまったのかも。
人の気持ちは複雑だ。
「涼はゴシップのせいで道端で記者に突撃されたり大学まで追い回されたりして心が疲弊している。それで事務所からの命令で少し雲隠れしろって言われて」
以前にも、こういうことがあった。
安志がボディガードで怪我をした事件。
あの時もやはり世間の目から隠れるために、月影寺にやってきたことがあった。
月影寺は大きな、大きな傘だ。
俺もこの寺にやってきてから、自分を取り戻せた。
だから、涼……心身が疲れたのなら、ここにおいで。
ここは安全だ。
俺が保証する。
「分かった。きっとそろそろ着く頃だ。迎えに行ってくるよ」
「洋、ありがとうな! 俺、こんな時に情けないよ。涼を守り切れなくて」
同性同士でつきあっていると、まだまだ胸を張っていえない世の中だ。
まして涼は芸能人だ。
安志の気持ちも痛い程分かる。
「安志、涼はきっと安志に会いたいと思っているよ」
「俺も今すぐ何もかも投げ出して行きたい」
「ままならないのか」
「くそっ……要人の警護中なんだ」
「安志が来るまで、涼は俺がしっかり預かるよ」
「今となっては丈さんの気持ちが痛い程分かる。俺は……あの時丈さんを責めたが、そうじゃないんだな」
「安志……元気出せ」
僕の片割れのような涼。
母親同士が双子の縁。
光のような涼の幸せは、影である俺の幸せでもあるんだ。
今回の件は一筋縄にはいかないかもしれない。
だが、どうか諦めないでくれ。
俺が言える筋合いではないが、最後の最後で諦めなかったから今がある。
さぁ、涼、おいで!
傷付いた心、疲れた身体、少し休めてくれ。
俺もついている。
涼はひとりじゃない。
そんな思いで、俺は山門を駆け下りた。
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