重なる月

志生帆 海

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16章

16章 プロローグ

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 大変長らくお待たせしました。1年ぶりの定期更新になります。


 翠&流編では、薙の高校生編をメインに。
 丈&洋編では、丈の開業がメインです。
 安志&涼の番外編も久しぶりに書きたいです。

 いろいろ盛り沢山の16章になりそうです!

 春先から夏までの月影寺men'sの様子を書いていきます。

 時系列では、京都から帰京直後、秋冬の番外編の前になりますので、少し時間を遡って下さいね。

 今日はウォーミングアップで、中表紙とプロローグになります。








 プロローグ



 明け方自然に目覚めると、少しだけ景色が変わっていた。

「ん……?」

 目を擦りながら何が変わったのか探すと、壁のカレンダーが捲られていることに気付いた。これは僕より更に早く起きた流の仕業だね。

 カレンダーの風景は、吉野山の千本桜か。

 今年の開花は早く、もう関東も関西も葉桜になりつつあるが、この部屋にようやく春がやってきたようだ。
 
「いよいよ今日からだ」

 あの不思議な京都旅行から戻り、慌ただしく過ごしていたので、あっという間に四月がやってきた。

 春は曙――

 春は夜がほのぼのと明けようとする頃が良いと言うけど、本当だね。

 日が昇るにつれて、だんだんと世界が白んでいく様子が見事だ。

 起き上がり、障子の向こうをぼんやりと眺めていると、カタンと戸が開く音がした。

 振り返れば、朝からうっすら汗を浮かべた精悍な顔立ちの流が立っていた。

 夜明けの世界には、今は流と僕しかいない。

「翠、もう起きたのか」
「流、おはよう」
「いよいよ待ちに待った四月、新年度の始まりだな」
「うん、改めて宜しく頼むよ」
「新鮮な気分だな」

 自然と流に背後から抱かれる。

 そっと背中を預け、目を閉じて朝日を全身に浴びる。

「翠の身体が輝いているように見えるな」
「気が満ちていくようだ。新年度だからかな? 特別な朝だよ」
「俺たちの息子が生まれる朝だからな」
「うん」

 実は水面下で進めてきた薙の苗字の変更手続が、弁護士の手腕でなんとか片付いた。だから今日から薙は『森』の姓ではなく『張矢』の姓になる。

「はりや……なぎ」
「とても、いい名前だ」

 流を見上げれば、顎を掬われ、そっと口づけをされた。

 僕たちにとって、新しい朝が生まれた。






 
 




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