重なる月

志生帆 海

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第3部 15章

2022年 特別番外編『Happy Halloween 月影寺・朝』

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「もうすぐ10月も終わるね。あ……もしかして流、今年もやるの?」
「もちろんやるさ! 近所の評判にもなっているしな、お寺ハロウィンは最高だ」
「でも一昨年の衣装は破れて捨てたし、去年は流が鼻血で汚したし……」

 ぶつぶつ言っていると、流が快活に笑った。

「なあに心配するなって! 今年はすごいぞ。俺が皆のために衣装をデザインして、作ったんだから」
「え? まったく……夜な夜な何をしているのかと思ったら」
「翠? もしかして一人寝が寂しかったのか」
「さ……寂しくなんかないよ!」

 それは嘘だ。

 最近……朝夕、気温がぐっと下がり、人肌恋しかったんだ。

 流が来てくれいから、寒かったんだ。

「今夜は行くよ」
「よっ、呼んでない」
「翠、素直になれ」




 ハロウィン当日。

 寺の本堂に、一同が集められる。

「いいかい? 今日のイベントは寺の存命に関わる。皆、心して衣装を受け取り、なりきっておくれ」

 って……どうして僕がこんな台詞を?
 
 流がウキウキと一人一人に衣装を手渡す。

「きゃー! 僕はカボチャ饅頭のおばけですよ」

 まず喜ぶのは小森くん。

 は……鼻息が荒いね。

「住職さま~ 僕、もう二十歳です」
「うん?」
「その、菅野くんと出会い、ちょっと大人になりました」
「そうだね」
「だから今年の僕は、子供たちを泣かせますよ」
「はい?」
「かぼちゃのオバケは一番怖いんです!」

 フンと鼻を膨らませているが、あどけないだけだった。

 すると丈が隣で衣装を確認し、険しい声を出した。

「兄さん! これは、なんです?」
「流さん、ずいぶんひらひらしていますね」

 洋くんは冷ややかに笑っている。

「あー 丈と洋は織り姫と彦星な。お前達は七夕に結婚式をあげたから、今流行の中華BLの衣装からヒントを得て、アレンジしてみた」
「へぇ、成る程、俺もあのドラマは観ました。いいですね」

 洋くんは今度は感心した声を出した。
 
「私は……不安でしかないですよ」

 洋くんはまったく気にしていないようだが、丈は顔が引き攣っていた。

「流、ところで僕は何?」
「怖い怖い魔女はどうだ?」
「住職がそれはまずいんじゃないのか」
「そう言うと思った。じゃあ執事なんてどうだ?」
「なんだか投げやりだな。どうせ脱がせば同じだとか思ってないよね?」

 流がニヤリと笑う。

 はっ! 僕、今、何を言って……?

 は、恥ずかしい。

「そう怒るなって。翠は何を着ても可愛いよ。いや……着ていなくても最高だ」
「も、もう――そういう流は何を着るつもりだ?」
「翠と薙とお揃いで、メイド服にしようかと準備した」

 薙がワクワクした顔で近づいて来る。

「流さん、それイイネ! オレたちは今日は案内役だろ? 父さんも一緒に着ようぜ!」
「ははは、ノリがいいな」
「二人とも……全く」

 と言いつつ、流と薙と三人でお揃いの服を着るのは、嬉しかった。

 僕たちは親子だから……

 薙は、僕たちの子だから。

 さぁ、夕方には月影寺ハロウィンのスタートだ!



 

 夜に続く。




 
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