1,461 / 1,657
第3部 15章
花を咲かせる風 47
しおりを挟む
「翠、ちゃんと呼べたな」
「流……聞こえたのか」
「あぁ、翠のことは全部分かる。いつも五感を研ぎ澄ましているからな」
五感とは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のこと。
俺の五感は翠のためにあるといっても、過言ではない。
他の人には見えない程離れた場所にいる、翠の姿を捉えることが出来る。
他の人には聞こえない程の、翠の声が聞き取れる。
他の人が気付かないほど、微かな感覚まで分かる。翠とすれ違う時に触れ合う袖からも翠の温もりを感じられる。
他の人では分からない、翠の味を知っている。(っと……これは流石にちょっと変態か)
他の人では分からない、翠が放つ香りが分かる。
翠と結ばれる前も、結ばれた後も、鍛えに鍛え抜いて敏感になった五感を持っている。
「月影寺のご住職には、頼もしい弟さんがいるのですね」
「はい。流は僕にとって一心同体の存在です」
「それは羨ましいですね」
「ありがとうございます。月光寺のご住職には、頼もしい甥御さんがいらっしゃいますね」
「確かに……まだ出逢ったばかりだが、洋くんは頼もしい存在だ」
京都に来てからの翠と洋くんが体験した不思議な邂逅と出会いは、丈からざっと聞いていた。
洋くんと月影寺は、やはり縁が深いんだな。
遠い昔、夕顔さんは月影寺に匿われて難を逃れた。
夕凪も然り。
そして夕凪が愛情を注いだまこくんは、月光寺の先々代のご住職に救われた。
光と影は真逆のようで、いつだって一心同体なのだ。
「洋くん……今、幸せでいてくれて良かった」
「はい、皆に支えられて生きています」
「不甲斐ない伯父だが……また会えるか。会ってもらえるか」
「もちろんです。俺の連絡先を教えても?」
「いいのか」
「もちろんです。俺にとって父方の親戚は伯父さんだけです。ぜひ、これから交流して欲しいです」
洋くんが美しい顔を紅潮させて訴えると、月光寺のご住職も面映ゆい笑顔を浮かべていた。人徳と人望のある人なのが伝わり、安堵する。
「私も……結婚して子供でもいれば、もっと君と打ち解けられるのに……すまんなぁ」
「そんなこと……」
「信二は凜々しく聡い子だったよ。10歳も年下だったが、幼い頃はよく一緒に遊んだんだ。あの子のことを、また教えておくれ」
「はい……俺も……もっと父のことを思い出します」
洋くんは……思い出を辿る道すらも、孤独でなくなった。
そんな晴れやかな洋くんの笑顔を、皆で見守った。
「洋さん、じゃあこれにて一件落着?」
ずっと静かにしていた薙が、ワクワクした顔で聞いてくる。
ふっ、薙は黙っていれば翠にそっくりな思慮深い美少年なのに、喋ると、どうも俺を見ているような気分になるな。
「薙くん……あぁそうだよ。この旅はね、俺の父のルーツを求める旅だったんだ」
「制服のボタンから始まったんだね」
「うん……このボタンは、おじいさんのボタンだったんだ」
「そうだ、洋くん、よかったら信二のボタンを持って行くか」
「え……あるんですか」
「あるよ。まだ取ってある」
洋くんは父親の学ランの第二ボタンを嬉しそうに受け取った。
「母へのお土産が出来ました」
「よかったら父の墓参りを、最後にしてもらえないだろうか」
「もちろんです」
まこくんの墓は、寺の中庭に建てられたばかりだった。
木漏れ日の中に佇む墓には、幸せが満ちていた。
「おじいさんの……まこくんのボタンは……月影寺にある夕凪さんと信二郎さんの墓前に供えます」
「ありがとう。父は最後まで二人の子供になりたかったと望んでいたよ。きっと今頃、天国で仲良く手を繋いで歩いているのだろうね」
「はい」
ここにも竹林がある。
きっと月影寺と月光寺は、これから提携していくことになるだろう。
そんな予感がする。
****
「おかあちゃま、おてて、つないで下さい」
「まこくん、もちろんだよ」
「おとうちゃまも!」
「あぁ」
「もう……二人とも……この手を離さないでくださいね」
「まこくん、もう二度と離さない。君は俺と信二郎の可愛い子供なんだ」
「うれしいです。おかあちゃま、あの日行けなかった夜店にもつれていってくれますか」
「もちろんだよ」
「あの日出来なかった、影踏みも?」
「もちろんだよ……光と影はもうずっと一緒だよ」
辿り着いた天上の世界で、俺たちは新しい家族として生きていく。
あの日に戻って、始めよう。
もう永遠に離れないと、君の小さな指と約束をしよう。
「流……聞こえたのか」
「あぁ、翠のことは全部分かる。いつも五感を研ぎ澄ましているからな」
五感とは、視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚のこと。
俺の五感は翠のためにあるといっても、過言ではない。
他の人には見えない程離れた場所にいる、翠の姿を捉えることが出来る。
他の人には聞こえない程の、翠の声が聞き取れる。
他の人が気付かないほど、微かな感覚まで分かる。翠とすれ違う時に触れ合う袖からも翠の温もりを感じられる。
他の人では分からない、翠の味を知っている。(っと……これは流石にちょっと変態か)
他の人では分からない、翠が放つ香りが分かる。
翠と結ばれる前も、結ばれた後も、鍛えに鍛え抜いて敏感になった五感を持っている。
「月影寺のご住職には、頼もしい弟さんがいるのですね」
「はい。流は僕にとって一心同体の存在です」
「それは羨ましいですね」
「ありがとうございます。月光寺のご住職には、頼もしい甥御さんがいらっしゃいますね」
「確かに……まだ出逢ったばかりだが、洋くんは頼もしい存在だ」
京都に来てからの翠と洋くんが体験した不思議な邂逅と出会いは、丈からざっと聞いていた。
洋くんと月影寺は、やはり縁が深いんだな。
遠い昔、夕顔さんは月影寺に匿われて難を逃れた。
夕凪も然り。
そして夕凪が愛情を注いだまこくんは、月光寺の先々代のご住職に救われた。
光と影は真逆のようで、いつだって一心同体なのだ。
「洋くん……今、幸せでいてくれて良かった」
「はい、皆に支えられて生きています」
「不甲斐ない伯父だが……また会えるか。会ってもらえるか」
「もちろんです。俺の連絡先を教えても?」
「いいのか」
「もちろんです。俺にとって父方の親戚は伯父さんだけです。ぜひ、これから交流して欲しいです」
洋くんが美しい顔を紅潮させて訴えると、月光寺のご住職も面映ゆい笑顔を浮かべていた。人徳と人望のある人なのが伝わり、安堵する。
「私も……結婚して子供でもいれば、もっと君と打ち解けられるのに……すまんなぁ」
「そんなこと……」
「信二は凜々しく聡い子だったよ。10歳も年下だったが、幼い頃はよく一緒に遊んだんだ。あの子のことを、また教えておくれ」
「はい……俺も……もっと父のことを思い出します」
洋くんは……思い出を辿る道すらも、孤独でなくなった。
そんな晴れやかな洋くんの笑顔を、皆で見守った。
「洋さん、じゃあこれにて一件落着?」
ずっと静かにしていた薙が、ワクワクした顔で聞いてくる。
ふっ、薙は黙っていれば翠にそっくりな思慮深い美少年なのに、喋ると、どうも俺を見ているような気分になるな。
「薙くん……あぁそうだよ。この旅はね、俺の父のルーツを求める旅だったんだ」
「制服のボタンから始まったんだね」
「うん……このボタンは、おじいさんのボタンだったんだ」
「そうだ、洋くん、よかったら信二のボタンを持って行くか」
「え……あるんですか」
「あるよ。まだ取ってある」
洋くんは父親の学ランの第二ボタンを嬉しそうに受け取った。
「母へのお土産が出来ました」
「よかったら父の墓参りを、最後にしてもらえないだろうか」
「もちろんです」
まこくんの墓は、寺の中庭に建てられたばかりだった。
木漏れ日の中に佇む墓には、幸せが満ちていた。
「おじいさんの……まこくんのボタンは……月影寺にある夕凪さんと信二郎さんの墓前に供えます」
「ありがとう。父は最後まで二人の子供になりたかったと望んでいたよ。きっと今頃、天国で仲良く手を繋いで歩いているのだろうね」
「はい」
ここにも竹林がある。
きっと月影寺と月光寺は、これから提携していくことになるだろう。
そんな予感がする。
****
「おかあちゃま、おてて、つないで下さい」
「まこくん、もちろんだよ」
「おとうちゃまも!」
「あぁ」
「もう……二人とも……この手を離さないでくださいね」
「まこくん、もう二度と離さない。君は俺と信二郎の可愛い子供なんだ」
「うれしいです。おかあちゃま、あの日行けなかった夜店にもつれていってくれますか」
「もちろんだよ」
「あの日出来なかった、影踏みも?」
「もちろんだよ……光と影はもうずっと一緒だよ」
辿り着いた天上の世界で、俺たちは新しい家族として生きていく。
あの日に戻って、始めよう。
もう永遠に離れないと、君の小さな指と約束をしよう。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
番?呪いの別名でしょうか?私には不要ですわ
紅子
恋愛
私は充分に幸せだったの。私はあなたの幸せをずっと祈っていたのに、あなたは幸せではなかったというの?もしそうだとしても、あなたと私の縁は、あのとき終わっているのよ。あなたのエゴにいつまで私を縛り付けるつもりですか?
何の因果か私は10歳~のときを何度も何度も繰り返す。いつ終わるとも知れない死に戻りの中で、あなたへの想いは消えてなくなった。あなたとの出会いは最早恐怖でしかない。終わらない生に疲れ果てた私を救ってくれたのは、あの時、私を救ってくれたあの人だった。
12話完結済み。毎日00:00に更新予定です。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる