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第3部 15章
花を咲かせる風 35
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木の大門は俺の背丈の数倍もの高さがあり、その周りを竹林が囲んでいて、とても静かな雰囲気だった。
厳かな気持ちで門を潜ると、風情のある広大な庭が続いていた。
「父さん、すごい庭だね」
「あぁ……薙、すまないが先頭を切ってくれるか」
「うん、分かった」
苔生した大地に見渡す限りの竹林。その狭間に歴史を感じさせる佇まいの家屋が点々と見えた。
「うっ……」
ところが……薙くんと翠さんは生き生きしているのに、俺は歩けば歩くほど……胸が重く息苦しくなっていた。
(そうか、ここには……夕凪にとって、あまりよい思い出がない場所なのか)
「洋、大丈夫か。しっかりしろ。薙くんが道を作ってくれているので、なんとか歩けるが……それでも……ここは私達にとってあまり良い場所ではないようだな」
「丈もそう思うのか」
「私には、洋の心が映っているからな」
「そうか、頼もしいよ」
丈がさり気なく俺の背中を支えてくれると、薙くんが開いた道に清涼な風が吹き抜けて来た。
「涼しい……よかった。これなら息が出来る」
涼風を運んでくれるのは、翠さんだ。
夕凪にとっても……湖翠さんが同じような存在だったのだろう。
「驚いたな、前に京都に来た時はここまで感じなかったのに、今回は夕凪の思念が強い」
「おそらく前回は湖翠さんと流水さんの悲恋を解放するのを、優先させたのだろう」
「丈、ならば……今回は夕凪の想いを俺が継ぐ番ということか」
「おそらく」
参ったな、京都に来てからの丈は冴えすぎている。
俺の歩む道を、こうやってその都度教えてくれる。
丈がいなかったら、進めない道だ。
つまり……俺と一心同体の丈とだから、進める道なのだ。
翠さんが挨拶をし、大広間に通された。
いよいよ大鷹屋の現在の当主に挨拶をする時が来た。
そう思うと緊張が走り、変な汗が流れ落ちる。
客間に通され待っていると、一人の老人が現れた。
白髪に和装。杖をついてはいるが、しっかりとした雰囲気の品のよい男性だった。
俺はその面影の向こうに、親しい人の血筋を感じていた。
「鎌倉の翠さんでしたか……久しぶりですな」
「えぇ、その節はお世話になりました。あの後、無事に改装できました」
「うむ……で、今日は大勢で一体何事ですかな?」
「はい、今日は僕の弟たちと息子と参りました。折り入ってお伺いしたいことがありまして」
老人と俺は初対面なので、翠さんが始終相手をしてくれている。
頼もしい兄だ。
翠さんから内々に聞いた話だが……彼の父親の名は律矢さんと言い、おそらく夕凪を愛した男性だそうだ。つまり夕凪は、信二郎と律矢さんの二人に愛されたということになる。
「何かな? 宇治の山荘のことなら、墓を移した後は自由にしていいという遺言だったので、最近になって建て直す決心がつきましてな……それが何か不都合でも?」
「いえ、墓のことではなく人捜しをしています。あの『大鷹信《おおたかまこと》』という人物をご存じですか」
大鷹屋の現当主は膝に置いた手をビクッと震わせた。
「な……何故、その名を知って?」
「……それは……洋くん、あのボタンを見せてあげてくれないか」
「あ、はい」
俺が手にボタンをのせて見せると、老人は懐かしそうな表情を浮かべた。
「なんと……まさか……これは……ま…信《まこと》の物なのか」
「まこくんを知っているのですか?」
俺と翠さんは、前のめりになった!
厳かな気持ちで門を潜ると、風情のある広大な庭が続いていた。
「父さん、すごい庭だね」
「あぁ……薙、すまないが先頭を切ってくれるか」
「うん、分かった」
苔生した大地に見渡す限りの竹林。その狭間に歴史を感じさせる佇まいの家屋が点々と見えた。
「うっ……」
ところが……薙くんと翠さんは生き生きしているのに、俺は歩けば歩くほど……胸が重く息苦しくなっていた。
(そうか、ここには……夕凪にとって、あまりよい思い出がない場所なのか)
「洋、大丈夫か。しっかりしろ。薙くんが道を作ってくれているので、なんとか歩けるが……それでも……ここは私達にとってあまり良い場所ではないようだな」
「丈もそう思うのか」
「私には、洋の心が映っているからな」
「そうか、頼もしいよ」
丈がさり気なく俺の背中を支えてくれると、薙くんが開いた道に清涼な風が吹き抜けて来た。
「涼しい……よかった。これなら息が出来る」
涼風を運んでくれるのは、翠さんだ。
夕凪にとっても……湖翠さんが同じような存在だったのだろう。
「驚いたな、前に京都に来た時はここまで感じなかったのに、今回は夕凪の思念が強い」
「おそらく前回は湖翠さんと流水さんの悲恋を解放するのを、優先させたのだろう」
「丈、ならば……今回は夕凪の想いを俺が継ぐ番ということか」
「おそらく」
参ったな、京都に来てからの丈は冴えすぎている。
俺の歩む道を、こうやってその都度教えてくれる。
丈がいなかったら、進めない道だ。
つまり……俺と一心同体の丈とだから、進める道なのだ。
翠さんが挨拶をし、大広間に通された。
いよいよ大鷹屋の現在の当主に挨拶をする時が来た。
そう思うと緊張が走り、変な汗が流れ落ちる。
客間に通され待っていると、一人の老人が現れた。
白髪に和装。杖をついてはいるが、しっかりとした雰囲気の品のよい男性だった。
俺はその面影の向こうに、親しい人の血筋を感じていた。
「鎌倉の翠さんでしたか……久しぶりですな」
「えぇ、その節はお世話になりました。あの後、無事に改装できました」
「うむ……で、今日は大勢で一体何事ですかな?」
「はい、今日は僕の弟たちと息子と参りました。折り入ってお伺いしたいことがありまして」
老人と俺は初対面なので、翠さんが始終相手をしてくれている。
頼もしい兄だ。
翠さんから内々に聞いた話だが……彼の父親の名は律矢さんと言い、おそらく夕凪を愛した男性だそうだ。つまり夕凪は、信二郎と律矢さんの二人に愛されたということになる。
「何かな? 宇治の山荘のことなら、墓を移した後は自由にしていいという遺言だったので、最近になって建て直す決心がつきましてな……それが何か不都合でも?」
「いえ、墓のことではなく人捜しをしています。あの『大鷹信《おおたかまこと》』という人物をご存じですか」
大鷹屋の現当主は膝に置いた手をビクッと震わせた。
「な……何故、その名を知って?」
「……それは……洋くん、あのボタンを見せてあげてくれないか」
「あ、はい」
俺が手にボタンをのせて見せると、老人は懐かしそうな表情を浮かべた。
「なんと……まさか……これは……ま…信《まこと》の物なのか」
「まこくんを知っているのですか?」
俺と翠さんは、前のめりになった!
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