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第3部 15章
花を咲かせる風 34
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夕凪……柔らかい雰囲気だな。
幸せそうな夕凪を垣間見た。
幼子の手を引いて一緒にお風呂に入り、高く抱き上げて抱きしめて、 添い寝して、熱を出せば寝ずに看病し、一緒に街に買い物に行き……
走馬灯のように駆け巡るのは、夕凪がまこくんと触れ合った日溜まりのような日々だった。
「おかあちゃまぁ~」
「まこくん!」
両手を広げ、歩み寄る親子の溢れる笑顔。
夕凪が心の底から笑っている。
君の笑顔、君の幸せが、春風のように届くよ。
思わず俺もつられて微笑んだ。
夕凪……愛する人の子供を抱く心地はどうだった?
夢の中で問いかけると……
明かりが突然消え、慟哭が聞こえてきた。
「どうして? どうしてなんだ! どうして――」
「おかあちゃまー いや、いや! おかあちゃまと離れるなんていやぁぁぁー」
「まこくん! まこくん!」
えっ‼
一体何が起きたのだ。
俺は脂汗を浮かべて、パッと目を開けた。
「洋、大丈夫か! あぁ酷い寝汗だな」
丈が俺の額に浮かぶ玉のような汗に、ハンカチをそっとあててくれた。
「丈……大変だ。幸せな日々が一転して暗黒になってしまった」
「……夕凪の慟哭が、私にも聞こえた」
「丈にも……」
「あぁ……とても深い悲しみだった。愛しい者との別れの声は、私を揺さぶるからな」
「そうか」
丈が丈の中将だった頃、洋月の君を湖で見失った日のことを思い出しているような、虚ろな目をしていた。
「大丈夫か、俺はここにいるよ」
「そうだな。私達はここにいる。あ……そろそろ着くぞ」
哲学の道の一角に、大鷹屋の経営者の屋敷がある。
翠さんは一度訪れているので、話が早いかもしれない。京都の翠さんがいてくれて本当に良かった。
「ここで、まこくんの行方を聞こう」
「そうしよう」
「丈……頼りにしている」
そう告げると、丈が魅力的な笑みを浮かべた。
「ようやく私も最初から役に立てているな。洋には私がいる。だから安心しろ」
「あぁ」
タクシーを降りると、翠さんと薙くんが駆け寄ってきてくれた。翠さんの顔色が少し青ざめていた。
「洋くん、待っていたよ」
「翠さん、もしかして……また何か見たのですか」
翠さんは美しい顔を強張らせた。
「実は……まこくんがこの家から出て行く姿を見たんだ」
「え? 何歳くらいでした? 学生服を着ていましたか」
「いや……もう少し上だった……20代前半位かな?」
「とにかく中で話を聞けそうですか」
「あぁ、もう取り次いでもらっているよ」
隣りで薙くんが神妙な顔をしている。
「父さん……よく分からないけど……オレもついていくよ」
「薙……世の中には計り知れないことがあることを、受け入れてくれてありがとう」
「父さん、大丈夫だよ。なんだかスペクタルなドラマみたいだ。オレ、しっかり見守るよ!」
薙くんには不思議な力がある。
その時、ふと思った。
薙くんの周りには、まるで結界が出来たようだ。
何人にも邪魔されずに、この謎を解き明かせる。
そんな力を放つような力を感じる。
「薙ぎ払え……」
「え? 翠さん……?」
「薙が、この道を進みやすくしてくれているんだ。何故なら……僕がそう願い込めてつけた名前だからね」
――進め、突き止めよ――
過去からの声に背中を押されるように、俺たちは大鷹屋の屋敷に入った。
幸せそうな夕凪を垣間見た。
幼子の手を引いて一緒にお風呂に入り、高く抱き上げて抱きしめて、 添い寝して、熱を出せば寝ずに看病し、一緒に街に買い物に行き……
走馬灯のように駆け巡るのは、夕凪がまこくんと触れ合った日溜まりのような日々だった。
「おかあちゃまぁ~」
「まこくん!」
両手を広げ、歩み寄る親子の溢れる笑顔。
夕凪が心の底から笑っている。
君の笑顔、君の幸せが、春風のように届くよ。
思わず俺もつられて微笑んだ。
夕凪……愛する人の子供を抱く心地はどうだった?
夢の中で問いかけると……
明かりが突然消え、慟哭が聞こえてきた。
「どうして? どうしてなんだ! どうして――」
「おかあちゃまー いや、いや! おかあちゃまと離れるなんていやぁぁぁー」
「まこくん! まこくん!」
えっ‼
一体何が起きたのだ。
俺は脂汗を浮かべて、パッと目を開けた。
「洋、大丈夫か! あぁ酷い寝汗だな」
丈が俺の額に浮かぶ玉のような汗に、ハンカチをそっとあててくれた。
「丈……大変だ。幸せな日々が一転して暗黒になってしまった」
「……夕凪の慟哭が、私にも聞こえた」
「丈にも……」
「あぁ……とても深い悲しみだった。愛しい者との別れの声は、私を揺さぶるからな」
「そうか」
丈が丈の中将だった頃、洋月の君を湖で見失った日のことを思い出しているような、虚ろな目をしていた。
「大丈夫か、俺はここにいるよ」
「そうだな。私達はここにいる。あ……そろそろ着くぞ」
哲学の道の一角に、大鷹屋の経営者の屋敷がある。
翠さんは一度訪れているので、話が早いかもしれない。京都の翠さんがいてくれて本当に良かった。
「ここで、まこくんの行方を聞こう」
「そうしよう」
「丈……頼りにしている」
そう告げると、丈が魅力的な笑みを浮かべた。
「ようやく私も最初から役に立てているな。洋には私がいる。だから安心しろ」
「あぁ」
タクシーを降りると、翠さんと薙くんが駆け寄ってきてくれた。翠さんの顔色が少し青ざめていた。
「洋くん、待っていたよ」
「翠さん、もしかして……また何か見たのですか」
翠さんは美しい顔を強張らせた。
「実は……まこくんがこの家から出て行く姿を見たんだ」
「え? 何歳くらいでした? 学生服を着ていましたか」
「いや……もう少し上だった……20代前半位かな?」
「とにかく中で話を聞けそうですか」
「あぁ、もう取り次いでもらっているよ」
隣りで薙くんが神妙な顔をしている。
「父さん……よく分からないけど……オレもついていくよ」
「薙……世の中には計り知れないことがあることを、受け入れてくれてありがとう」
「父さん、大丈夫だよ。なんだかスペクタルなドラマみたいだ。オレ、しっかり見守るよ!」
薙くんには不思議な力がある。
その時、ふと思った。
薙くんの周りには、まるで結界が出来たようだ。
何人にも邪魔されずに、この謎を解き明かせる。
そんな力を放つような力を感じる。
「薙ぎ払え……」
「え? 翠さん……?」
「薙が、この道を進みやすくしてくれているんだ。何故なら……僕がそう願い込めてつけた名前だからね」
――進め、突き止めよ――
過去からの声に背中を押されるように、俺たちは大鷹屋の屋敷に入った。
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