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第3部 15章
花を咲かせる風 31
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「待たせたな」
「あの……どうでしたか」
道昭さんは、渋い表情で首を横に振った。
「悪いな、宗派が一緒なだけで……うちは学校とは何の縁もない小さな寺だからなぁ……やはり今時、人情報の取り扱いは厳しいようだ」
「いえ、ありがとうございます。手間をかけさせて申し訳ありません」
「いや、役に立てなくて悪かったな」
さて、どうしよう?
「洋、とにかく嵯峨野まで行ってみないか」
「そうだな」
自分の足で動いてみよう。
何か新しい道が見つかるかもしれない。
「今から、嵯峨野まで行ってきます」
「あぁ観光も楽しんでくるといい」
「はい」
嵐山へ向かう車中で、丈は真剣な様子でスマホを見つめていた。
「洋、これだ! 突破口を見つけたぞ」
「何?」
「学校の沿革をよく見てみろ。最近の話だが鎌倉の建海寺の経営する学園と提携したそうだ」
「えっ、建海寺と言えば、達哉さんの?」
「そうだ。頼んでみる価値はあるだろう」
「了解!駅に着いたら……翠さんに電話してみるよ」
「いや、流兄さんにしよう。流兄さんでもこの件は大丈夫だ」
「あ、そうだね。翠さんは薙くんと旅行中だったな」
つい自分のこと優先で、翠さんの立場を失念していた。
「いや……流兄さんも洋に頼ってもらえると、喜ぶと思っただけだ」
「丈……」
丈の優しさも、身に染みた。
「丈……広い心になったな」
「世界が広いことを、私は忘れていたようだ」
「俺もだ。何もかも抱え込まないよ。もう一人で勝手な行動はしない。頼れる人を頼って……前に進んでいくよ」
「……そうか、その方が私も安心だ」
****
「団子がひとつ、団子がふたつ……団子がみっつ」
朝から庫裡で団子を丸めていると、小森がきらんと目を輝かせた。
「わぁぁ~ 流さん、今日のおやつはお団子ですか」
「あぁ、お前の最近の好物だろ」
「え? ここ、好物? そ、そうかもしれません。いや大好物です!」
あーあ、また煩悩の世界に入り込んで。
頬をりんご飴みたいに染めて、可愛い奴!
「あ、電話ですよ」
「出てくれ」
「はい! あ……洋さんだぁ」
洋くん? まさか京都で何かあったのか。
心配をよそに、洋くんからの話の内容はそう難しいものではなかった。
建海寺の達哉さんに連絡を取り、提携校である京都の高校で卒業生のアルバムを遡らせて欲しいという趣旨だった。
それにしても……翠でなく、俺を頼ってくれたのか。
そんな些細なことが、今の俺には嬉しかった。
ひとり留守番の寂しさが癒えていく。
「すぐに連絡を取ってやるよ。洋くん、頑張っているな」
「流さん、俺だけの力だけでは及ばないことでも……周りの力が集まれば、変わっていくのですね」
「そうさ、月影寺の住人は力を合わせることで輝きを増すのさ」
「はい!」
ここにやってきた当初は、病的なほど青白い顔で心配した。
あの……孤独に慣れきった、他人に怯えていた青年はもういない。
のびやかな張りのある声、前向きな気持ち。
人に頼れるようになった心のゆとり。
「洋くん、君が変われば世界も変わる。頑張れよ!」
「はい。この先……何を見つけるか、何を知るか……まだ定かではないですが……どんな結果でも後悔はありません。それは俺には二人の心強い兄と丈がいるからです。他にもお父さんとお母さん……おばあ様……涼に安志……小森くんたちや瑞樹くんたち、もう俺は……あの頃のように、ひとりではありません」
一人一人の名を確認するように、洋くんが呟いた。
さぁ進め。
きっと見えてくるよ。
君が知りたいことに、きっともうすぐ近づける。
「あの……どうでしたか」
道昭さんは、渋い表情で首を横に振った。
「悪いな、宗派が一緒なだけで……うちは学校とは何の縁もない小さな寺だからなぁ……やはり今時、人情報の取り扱いは厳しいようだ」
「いえ、ありがとうございます。手間をかけさせて申し訳ありません」
「いや、役に立てなくて悪かったな」
さて、どうしよう?
「洋、とにかく嵯峨野まで行ってみないか」
「そうだな」
自分の足で動いてみよう。
何か新しい道が見つかるかもしれない。
「今から、嵯峨野まで行ってきます」
「あぁ観光も楽しんでくるといい」
「はい」
嵐山へ向かう車中で、丈は真剣な様子でスマホを見つめていた。
「洋、これだ! 突破口を見つけたぞ」
「何?」
「学校の沿革をよく見てみろ。最近の話だが鎌倉の建海寺の経営する学園と提携したそうだ」
「えっ、建海寺と言えば、達哉さんの?」
「そうだ。頼んでみる価値はあるだろう」
「了解!駅に着いたら……翠さんに電話してみるよ」
「いや、流兄さんにしよう。流兄さんでもこの件は大丈夫だ」
「あ、そうだね。翠さんは薙くんと旅行中だったな」
つい自分のこと優先で、翠さんの立場を失念していた。
「いや……流兄さんも洋に頼ってもらえると、喜ぶと思っただけだ」
「丈……」
丈の優しさも、身に染みた。
「丈……広い心になったな」
「世界が広いことを、私は忘れていたようだ」
「俺もだ。何もかも抱え込まないよ。もう一人で勝手な行動はしない。頼れる人を頼って……前に進んでいくよ」
「……そうか、その方が私も安心だ」
****
「団子がひとつ、団子がふたつ……団子がみっつ」
朝から庫裡で団子を丸めていると、小森がきらんと目を輝かせた。
「わぁぁ~ 流さん、今日のおやつはお団子ですか」
「あぁ、お前の最近の好物だろ」
「え? ここ、好物? そ、そうかもしれません。いや大好物です!」
あーあ、また煩悩の世界に入り込んで。
頬をりんご飴みたいに染めて、可愛い奴!
「あ、電話ですよ」
「出てくれ」
「はい! あ……洋さんだぁ」
洋くん? まさか京都で何かあったのか。
心配をよそに、洋くんからの話の内容はそう難しいものではなかった。
建海寺の達哉さんに連絡を取り、提携校である京都の高校で卒業生のアルバムを遡らせて欲しいという趣旨だった。
それにしても……翠でなく、俺を頼ってくれたのか。
そんな些細なことが、今の俺には嬉しかった。
ひとり留守番の寂しさが癒えていく。
「すぐに連絡を取ってやるよ。洋くん、頑張っているな」
「流さん、俺だけの力だけでは及ばないことでも……周りの力が集まれば、変わっていくのですね」
「そうさ、月影寺の住人は力を合わせることで輝きを増すのさ」
「はい!」
ここにやってきた当初は、病的なほど青白い顔で心配した。
あの……孤独に慣れきった、他人に怯えていた青年はもういない。
のびやかな張りのある声、前向きな気持ち。
人に頼れるようになった心のゆとり。
「洋くん、君が変われば世界も変わる。頑張れよ!」
「はい。この先……何を見つけるか、何を知るか……まだ定かではないですが……どんな結果でも後悔はありません。それは俺には二人の心強い兄と丈がいるからです。他にもお父さんとお母さん……おばあ様……涼に安志……小森くんたちや瑞樹くんたち、もう俺は……あの頃のように、ひとりではありません」
一人一人の名を確認するように、洋くんが呟いた。
さぁ進め。
きっと見えてくるよ。
君が知りたいことに、きっともうすぐ近づける。
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