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第3部 15章
花を咲かせる風 29
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「翠さん、どうしたんですか。そんなに慌てて」
「あぁ……ごめん。洋くんが探していた学ランのボタンのことで……あの校章は『月西館高等学校』のものだ」
「え? どうして……それが分かったのですか」
「それは、話すと長くなる。手短に言うと……どうやら京都に来てから、『まこくん』という男の子が過去と未来を繋いでいてくれるようなんだ。さっきも……」
「まこくん!」
その時になって昨夜、祇園白川で翠さんと交わした会話を思い出した。
……
「実はさっき夕凪と邂逅したんだ」
「え! 翠さんが」
「夕凪は今の洋くんと同じように女装をしていて艶めいて美しかったよ。そして幸せそうに小さな男の子を抱き上げていた。そこにもう一人男性が来て、子供を「まこくん」と呼んでいた」
「……まこくん?」
「心当たりはない? もしかしたら何かの役に立つかもしれないと思って」
……
先ほど見た宇治の山荘で邂逅した青年も、夕凪に「まこくん」と呼ばれていた。
「お……俺も会いました。夕凪に校章のボタンを渡していました。俺、そのボタンを現実に……宇治の廃屋で発見したところです」
「なんだって」
翠さんの声も上擦っていた。
「何か、そこに手がかりがあったのか」
「夕凪が大事にしていたと思われるがま口に……学生服のボタンと古びた鈴が入っていました。どうやら……まこくんという男の子は夕凪に幼少期、5年間、育てられたようで……その後養子に出されたようです」
「そうだったのか。探そう! 洋くんのお父さんのルーツは……きっと、まこくんを探すことによって見えてくるのでは」
翠さんがいてくれてよかった。
翠さんの存在は心強い。
かつて……湖翠さんも、夕凪をこんな風に支えたのかもしれない。
きっと、きっと……そんな記憶があるような。
「そうでしょうか」
「予感がするんだ。二つのボタンが、洋くんの手の平で重なった今……月西館高等学校に何かが繋がっていくと思う。そうだ……学校の卒業生の記録を見せてもらえれば、すべて解決するのでは?」
「でも、今は個人情報の扱いが厳しいので……」
「それもそうだね。洋くん、風空寺の道昭を頼ってみてくれ。今、薙が調べたら……月西館高等学校は、同じ宗派だから、もしかしたら……融通が利くかも」
「分かりました」
翠さん……すごく頼りになる。
電話を切ると、丈も全てを理解してくれていた。
「洋、動き出したな」
「あぁ、この流れに一気に乗ろう」
車窓から、そっと宇治の風景に別れを告げた。
もうあまり来ることはないだろう。
ふっと……先ほどのまこくんの泣き顔が電車の窓に浮かんだ。
そして……まこくんの濡れた心に、俺の心が同化していく。
どうして?
……
お母様……ようやく見つけたのに、拒絶されてしまった。
「それでもおれにとって……あなたはおれの育ての母だ」
幼い頃、実母が病死し……縁側で泣いていると、和装姿の父が迎えに来てくれた。
「俺と暮らそう」
手を引かれて連れて行かれたのは、宇治の里。
門にはとても美しいお兄さんが立っていて、おれをギュッと抱きしめてくれた。
「まこくん……まこくん……君を今日から俺の息子として育てるよ。だから……俺を頼って欲しい」
とてもいい匂いがする優しそうな人だった。
「いやだ……!」
「え?」
「じゃあ、おれのおかあちゃまになってよ」
「え……俺が……」
「きれいなおきもの、きてよ」
「……分かった。明日から俺がまこくんのお母さんになるよ」
「夕凪……そんなことをしたら……君が犠牲になってしまう」
「信二郎、そんなことない。まこくんは信二郎の実子だ。だから……この子の母親代わりをしてもいい……俺……それでも構わない!」
****
少年の隣に立っていた人が、ギョッとした。
その人は、まこくんのお父さんだ。
信二郎……?
その名を俺は知っている。
あのお墓に眠っていた……もう一人の人だ。
「洋、京都に着いたぞ。さぁ降りるぞ」
「あ……あぁ」
「眠っていたのか」
「……準備していた」
さぁ京都に戻ってきた。
この後、謎を一気に解明していこう。
過去が解いて欲しがっている謎を……
「あぁ……ごめん。洋くんが探していた学ランのボタンのことで……あの校章は『月西館高等学校』のものだ」
「え? どうして……それが分かったのですか」
「それは、話すと長くなる。手短に言うと……どうやら京都に来てから、『まこくん』という男の子が過去と未来を繋いでいてくれるようなんだ。さっきも……」
「まこくん!」
その時になって昨夜、祇園白川で翠さんと交わした会話を思い出した。
……
「実はさっき夕凪と邂逅したんだ」
「え! 翠さんが」
「夕凪は今の洋くんと同じように女装をしていて艶めいて美しかったよ。そして幸せそうに小さな男の子を抱き上げていた。そこにもう一人男性が来て、子供を「まこくん」と呼んでいた」
「……まこくん?」
「心当たりはない? もしかしたら何かの役に立つかもしれないと思って」
……
先ほど見た宇治の山荘で邂逅した青年も、夕凪に「まこくん」と呼ばれていた。
「お……俺も会いました。夕凪に校章のボタンを渡していました。俺、そのボタンを現実に……宇治の廃屋で発見したところです」
「なんだって」
翠さんの声も上擦っていた。
「何か、そこに手がかりがあったのか」
「夕凪が大事にしていたと思われるがま口に……学生服のボタンと古びた鈴が入っていました。どうやら……まこくんという男の子は夕凪に幼少期、5年間、育てられたようで……その後養子に出されたようです」
「そうだったのか。探そう! 洋くんのお父さんのルーツは……きっと、まこくんを探すことによって見えてくるのでは」
翠さんがいてくれてよかった。
翠さんの存在は心強い。
かつて……湖翠さんも、夕凪をこんな風に支えたのかもしれない。
きっと、きっと……そんな記憶があるような。
「そうでしょうか」
「予感がするんだ。二つのボタンが、洋くんの手の平で重なった今……月西館高等学校に何かが繋がっていくと思う。そうだ……学校の卒業生の記録を見せてもらえれば、すべて解決するのでは?」
「でも、今は個人情報の扱いが厳しいので……」
「それもそうだね。洋くん、風空寺の道昭を頼ってみてくれ。今、薙が調べたら……月西館高等学校は、同じ宗派だから、もしかしたら……融通が利くかも」
「分かりました」
翠さん……すごく頼りになる。
電話を切ると、丈も全てを理解してくれていた。
「洋、動き出したな」
「あぁ、この流れに一気に乗ろう」
車窓から、そっと宇治の風景に別れを告げた。
もうあまり来ることはないだろう。
ふっと……先ほどのまこくんの泣き顔が電車の窓に浮かんだ。
そして……まこくんの濡れた心に、俺の心が同化していく。
どうして?
……
お母様……ようやく見つけたのに、拒絶されてしまった。
「それでもおれにとって……あなたはおれの育ての母だ」
幼い頃、実母が病死し……縁側で泣いていると、和装姿の父が迎えに来てくれた。
「俺と暮らそう」
手を引かれて連れて行かれたのは、宇治の里。
門にはとても美しいお兄さんが立っていて、おれをギュッと抱きしめてくれた。
「まこくん……まこくん……君を今日から俺の息子として育てるよ。だから……俺を頼って欲しい」
とてもいい匂いがする優しそうな人だった。
「いやだ……!」
「え?」
「じゃあ、おれのおかあちゃまになってよ」
「え……俺が……」
「きれいなおきもの、きてよ」
「……分かった。明日から俺がまこくんのお母さんになるよ」
「夕凪……そんなことをしたら……君が犠牲になってしまう」
「信二郎、そんなことない。まこくんは信二郎の実子だ。だから……この子の母親代わりをしてもいい……俺……それでも構わない!」
****
少年の隣に立っていた人が、ギョッとした。
その人は、まこくんのお父さんだ。
信二郎……?
その名を俺は知っている。
あのお墓に眠っていた……もう一人の人だ。
「洋、京都に着いたぞ。さぁ降りるぞ」
「あ……あぁ」
「眠っていたのか」
「……準備していた」
さぁ京都に戻ってきた。
この後、謎を一気に解明していこう。
過去が解いて欲しがっている謎を……
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