重なる月

志生帆 海

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第3部 15章

花を咲かせる風 27

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「父さん、やっぱり金閣寺? それとも銀閣寺? どっちに行きたい?」
「そうだね。じゃあ銀閣寺かな」
「OK! 待ってね、今コースを調べるから」
「なーぎ、それは父さんの役目だよ」
「でも、父さん、スマホの操作下手すぎ!」

 ストレートに言われて、その通りなので照れ笑いをしてしまった。

「参ったな。バレていたの?」
「現役高校生には勝てないよ」
「もう高校生なの?」
「えっとまだ中学生だけど、4月1日からは高校生だよ」
「ふふっ、やっぱり、まだ中学生の息子だ」
「変なことに拘るんだね」

 いつまでも小さな子供ではないと分かっていても、幼さを追い求めてしまうのは、親の性《さが》なのかな。中学生の薙と旅行するのは、これが最初で最後となるだろう。だからこそ一瞬一瞬が愛おしい。

「薙……高校生になっても、父さんと旅行してくれる?」
「もちろん! あ……でも父さんは、まずはその寝ぐせ、直した方がいいよ」
「えっ?」

 鏡を見るとぴょんぴょんと四方八方に跳ねていたので、これは住職としてあるまじき姿だなと苦笑してしまった。

 あーあ、いつも流が直してくれるからって……

 僕はいつだって……流に頼りすぎだ。

 ベッドに転がってあれこれ検索していた薙が、自信満々の笑顔でスマホの画面を見せてくれた。

「父さん、このコースにしよう!」
 
『銀閣寺・哲学の道 古《いにしえ》を偲ぶ散策コース』

「いいね。父さん、薙と『哲学の道』を歩きたかったんだ」
「オレも!」
 
  ****
  
「丈……これって」
「洋、比べてみよう」
「あぁ」

 慌てて自分の鞄から、父の遺品のボタンを取り出した。

「やっぱり……同じだ! 寸分も違わない!」

 がま口に大切にしまわれていたのも俺が母の部屋で見つけたのも……月桂樹とペンのレリーフに『高』の文字が彫られたボタンだった。

「まさか……洋のお父さんと縁があるのか。洋はさっき何を見た?」
「……学ラン姿の青年が夕凪を訊ねてきていた」
「名前は?」
「『まこくん』と夕凪が呼んでいたが、それ以上のことは分からない」

 そこまで話すと、丈が俺の手をグイッと引っ張った。

「洋! 京都市内に戻ろう!」
「えっ、でも宇治に来たばかりなのに」
「ここでの用事は済んだ。その証拠にもう夕凪の家はない。同時に夕凪が伝えたかったものは受けとめただろう。だからこそ、どうしてもその学校を探しあてよう。きっと何かが分かるはずだ」
「あぁ」

 今回の京都旅行の目的の一つは、俺の父のルーツを探すことだった。

 そのことに、丈がこんなにも真剣になってくれるなんて、嬉しいよ。

 俺たちが歩く度に、チリンチリンと鈴の音が聞こえた。

 この音色は……

 過去から現在へ
 現在から過去へ

 思いを繋ぐ音なのだ。

  鈴はその清浄な音色によって、邪気を祓うといわれている。

 だからこそ、真っ直ぐに教えて欲しい。

 何と何が繋がっていくのか、まだ不確かなんだ。 

 夕凪が後生大事にしたであろう鈴と学ランのボタンは、今、俺の手中にある。

 このアイテムが、鍵となる!




 宇治駅で電車を待っていると、翠さんから電話がかかってきた。

「洋くん! 大変だ!」
「翠さん? 一体、どうしたんですか」

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