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第3部 15章
花を咲かせる風 21
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「洋、どうして祇園白川に? もしかして夕凪もここに来たことがあったのか」
「……あったと思う。さっきから胸の奥がザワザワしているからね」
「ふっ……そのように艶やかな姿で見つめられると、変な気分になるな」
「今更? 丈はいつも俺に対して変な気分のくせに」
丈の脇腹を冗談めかして小突くと、履き慣れない草履がずるりと滑りバランスを崩してしまった。
「あっ」
「危ない!」
すぐに逞しい丈の手が支えてくれ、転ばずに済んだ。
片手で軽々と俺の全てを支える力強い手に、下半身がじんと疼く。
まったく……丈は狡い。
風情のある若旦那の出で立ちの丈こそ、俺を煽る。
「わ、悪い、ありがとう」
「洋……」
丈がそのまま俺を抱きしめてくる。
「丈……は、離せっ……駄目だ」
顎を掴まれ、口づけを受ける。
「んっ駄目だ。紅がつく……」
「フッ……今日は駄目が多いんだな」
駄目といいながらも、丈にすっぽりと抱きしめられると、導かれるように自ら背伸びして、続きを求めてしまう。
「やっぱり……したい」
暫くの間、夜桜に隠れて深い口づけを交わした。
丈から降り注ぐ口づけは、甘く蕩けるようで溜らない。
俺……変だ。
男なのに女性の姿で大胆なことをして。
いくら旅先で心が解放されているからといって……野外でやり過ぎだ。
情熱的に求め合っているうちに、丈の手が着物の裾を割って太股を撫でてきたのでビクッと震えてしまった。僅かに残った理性で、このまま止まらなくなってしまうのを阻止した。
「あっ……丈、んっ……お願いだ。ここじゃ嫌だ……駄目だ……あっ、ん――」
男なのに、こんな甘ったるい声が出るなんて……
哀願するように丈の胸に手を置いて身体を離そうと試みるが、丈はお構いなしに俺の腰に逞しい腕を回して自分の方へ抱き寄せ、さらに深い口づけを落としてきた。
丈の厚い胸板を直に感じると、膝がガクガクと震え、立っていられなくなる。
あぁ……官能の渦に巻き込まれていく。
それと同時に、どんどん記憶がクリアになっていく。
夕凪も同じ場所で……女物を着物をすっぽり被って、誰かに抱かれたことがある。その相手は……
「丈!」
「ふっ……洋、確かにここでは集中できないよな。宿に戻ろう」
「……最後まで責任を取ってくれよ」
「仰せのままに」
乱された着物を整え、またしずしずと歩き出す。
「お淑やかだな」
「歩き難いからだ。あれ? あんな所に人が立っているよ」
「どうせ観光客だろう。どこだ?」
「ほら、あそこだよ」
丈に教えるために指差して、ハッとした。
向こうも、同じようにこちらを指差していたから。
「え……あれ? なんで……翠さんと薙くんが……あんな所に?」
「何だと? また翠兄さんがついて来てしまったのか」
なんと……翠さんと薙くんの旅先は、俺たちと同じ京都だったのか。
しかも二人はお揃いのような着物姿だ。
こんな場所で会うなんて……
驚いたのと同時に、見るからに仲良し親子な様子が、微笑ましかった。
俺たちの方から、二人に歩み寄った。
「あーあ、父さんが声を出すから、見つかっちゃったじゃないか」
「え? 父さんのせいなの? 薙が見つけたからだよ」
「えー! 責任をなすりつけるなんて酷いな」
「そ、そうかな? それより……洋くんの着物姿艶やかで素敵だね。そして丈も若旦那のようだよ」
「うん! 洋さん、それ最高に似合っているね! 違和感ないよ。そうだ、父さんもしてみる?」
「……父さんがしたら、薙も道連れだよ」
「なんで、そーなる?」
「父さんが今、決めた」
「えぇ~!」
お構いなしに父子の会話が盛り上がっている様子に、丈と顔を見合わせて苦笑してしまった。
俺、こんな姿なのに、違和感なく受けとめてくれて良かった。同時に翠さんと薙くんの親子関係が、ここまで修復しているのを知れて嬉しくなった。
父と子か。
俺の父の名は、浅岡信二。
もしも父さんが生きていたら、俺もこんな風に笑っていたのかな?
笑ってみたかった。
京都。
ここは父さんにとても近い場所だ。
もしかして……
夕凪の気配を感じながら父さんを探せば、何かが見つかるのかもしれない。
今宵、夕凪の姿に近づいてみて、その思いは強くなった。
明日は宇治の山荘へ行こう!
月影寺に移した墓以外に、何かが眠っている予感がする。
夕凪は何を残したのか。
俺はそれを知りたい。
歴史を遡り、紐解いていこう。
あとがき
****
本日更新分は夕凪の空 京の香り『羽織る7』とリンクしています。
「……あったと思う。さっきから胸の奥がザワザワしているからね」
「ふっ……そのように艶やかな姿で見つめられると、変な気分になるな」
「今更? 丈はいつも俺に対して変な気分のくせに」
丈の脇腹を冗談めかして小突くと、履き慣れない草履がずるりと滑りバランスを崩してしまった。
「あっ」
「危ない!」
すぐに逞しい丈の手が支えてくれ、転ばずに済んだ。
片手で軽々と俺の全てを支える力強い手に、下半身がじんと疼く。
まったく……丈は狡い。
風情のある若旦那の出で立ちの丈こそ、俺を煽る。
「わ、悪い、ありがとう」
「洋……」
丈がそのまま俺を抱きしめてくる。
「丈……は、離せっ……駄目だ」
顎を掴まれ、口づけを受ける。
「んっ駄目だ。紅がつく……」
「フッ……今日は駄目が多いんだな」
駄目といいながらも、丈にすっぽりと抱きしめられると、導かれるように自ら背伸びして、続きを求めてしまう。
「やっぱり……したい」
暫くの間、夜桜に隠れて深い口づけを交わした。
丈から降り注ぐ口づけは、甘く蕩けるようで溜らない。
俺……変だ。
男なのに女性の姿で大胆なことをして。
いくら旅先で心が解放されているからといって……野外でやり過ぎだ。
情熱的に求め合っているうちに、丈の手が着物の裾を割って太股を撫でてきたのでビクッと震えてしまった。僅かに残った理性で、このまま止まらなくなってしまうのを阻止した。
「あっ……丈、んっ……お願いだ。ここじゃ嫌だ……駄目だ……あっ、ん――」
男なのに、こんな甘ったるい声が出るなんて……
哀願するように丈の胸に手を置いて身体を離そうと試みるが、丈はお構いなしに俺の腰に逞しい腕を回して自分の方へ抱き寄せ、さらに深い口づけを落としてきた。
丈の厚い胸板を直に感じると、膝がガクガクと震え、立っていられなくなる。
あぁ……官能の渦に巻き込まれていく。
それと同時に、どんどん記憶がクリアになっていく。
夕凪も同じ場所で……女物を着物をすっぽり被って、誰かに抱かれたことがある。その相手は……
「丈!」
「ふっ……洋、確かにここでは集中できないよな。宿に戻ろう」
「……最後まで責任を取ってくれよ」
「仰せのままに」
乱された着物を整え、またしずしずと歩き出す。
「お淑やかだな」
「歩き難いからだ。あれ? あんな所に人が立っているよ」
「どうせ観光客だろう。どこだ?」
「ほら、あそこだよ」
丈に教えるために指差して、ハッとした。
向こうも、同じようにこちらを指差していたから。
「え……あれ? なんで……翠さんと薙くんが……あんな所に?」
「何だと? また翠兄さんがついて来てしまったのか」
なんと……翠さんと薙くんの旅先は、俺たちと同じ京都だったのか。
しかも二人はお揃いのような着物姿だ。
こんな場所で会うなんて……
驚いたのと同時に、見るからに仲良し親子な様子が、微笑ましかった。
俺たちの方から、二人に歩み寄った。
「あーあ、父さんが声を出すから、見つかっちゃったじゃないか」
「え? 父さんのせいなの? 薙が見つけたからだよ」
「えー! 責任をなすりつけるなんて酷いな」
「そ、そうかな? それより……洋くんの着物姿艶やかで素敵だね。そして丈も若旦那のようだよ」
「うん! 洋さん、それ最高に似合っているね! 違和感ないよ。そうだ、父さんもしてみる?」
「……父さんがしたら、薙も道連れだよ」
「なんで、そーなる?」
「父さんが今、決めた」
「えぇ~!」
お構いなしに父子の会話が盛り上がっている様子に、丈と顔を見合わせて苦笑してしまった。
俺、こんな姿なのに、違和感なく受けとめてくれて良かった。同時に翠さんと薙くんの親子関係が、ここまで修復しているのを知れて嬉しくなった。
父と子か。
俺の父の名は、浅岡信二。
もしも父さんが生きていたら、俺もこんな風に笑っていたのかな?
笑ってみたかった。
京都。
ここは父さんにとても近い場所だ。
もしかして……
夕凪の気配を感じながら父さんを探せば、何かが見つかるのかもしれない。
今宵、夕凪の姿に近づいてみて、その思いは強くなった。
明日は宇治の山荘へ行こう!
月影寺に移した墓以外に、何かが眠っている予感がする。
夕凪は何を残したのか。
俺はそれを知りたい。
歴史を遡り、紐解いていこう。
あとがき
****
本日更新分は夕凪の空 京の香り『羽織る7』とリンクしています。
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