重なる月

志生帆 海

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第3部 15章

花を咲かせる風 2

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「拓人、ボタン渡せた?」
「あぁ、薙も?」
「うん」
「じゃあ、お互い成功だ!」

 帰り道、拓人とオレはにっこり笑って、グータッチをした。

 朝、妙に拓人が固くなっていたから、オレから言い出した事だった。

……

「なぁ拓人、制服のボタンには、意味があるらしいよ」
「へぇ? どんな?  ……第二ボタン以外にもあるのか」

 拓人も第二ボタンの伝説は知っているのか。

 父さんの高校の学ランが納戸から出てきた時、おばあちゃんが不思議がっていた。

「翠はイケメンでよくモテたのに、どうしてここに残っているのかしら? 七不思議だわ」
「ここに何か意味があるの?」
「全部のボタンに意味があるのよ」
「へえ、おばあちゃんはもの知りだな~」
「伊達に三人の息子を育てたわけじゃないわ。目をね、こんな風に光らせて観察したのよ」
「おば……あちゃん、怖いよ、その目!」
 
 おばあちゃんとのやりとりを話すと、拓人が笑ってくれた。

「薙の家って明るんだな。でもそうか……4番目は家族か」
「拓人、だから親に一緒に渡さないか。中学の記念に拓人と思い出を作りたい」
「薙……」

 本心だよ、拓人。
 オレ、寂しい、ずっと傍にいてくれたお前と離れるの。
 だから後々一緒に語れる思い出を作らないか。
 
……

 一緒に登下校した道は、明日からはない。
 これからは自分たちで作っていく。

「拓人、また会おう!」
「薙、春休み、一緒に遊べるか」
「もちろん!」

 拓人とは笑顔で別れた。
 これからも続く友達だから、涙はいらない。

****

 月影寺

 ニャァ……

「ん、どうした? 腹、減ったか」

 あっ、そうか……今日は薙くんの卒業式に流さんも参列しているから、いないんだった。いつもなら、そろそろ流さんが暖かい餌を持って来てくれる時間なのに。

「よし、ちょっと待ってろ」

 買い置きのキャットフードを与えてみたが、子猫の食は進まないようだ。

 丈がプレゼントしてくれた白い猫が、寂しげな顔で俺を見つめてくる。
 
「……そうか、お前も……温もりをしってしまったんだな」

 猫を抱き上げて、そっと抱っこしてやる。

「うわっ、だいぶ重くなったな」

 そのまま一緒に外に出た。

 少しだけ、人恋しくて。
 少しだけ、待ち遠しくて。

「きっと、皆、そろそろ帰ってくるよ」

 猫を胸元に抱きしめてまま、山門で待つことにした。

「まだかな?」

 そうか、家族の帰りを心待ちに出来るのって、こんなに嬉しいことなのか。

 やがて見えてくる。

 学ランのボタンが無くなり、白いシャツが見え隠れしている薙くん。

 仕立ての良いスーツをビシッと着こなした翠さん。

 二人を守るようにそびえ立つ流さん。

 三人並ぶと、とてもバランスが良い。

「あっ、洋さん!」

 やがて列から薙くんが飛び出して、俺のもとに走って来た。

「薙くん! 卒業おめでとう」
「洋さん、ありがとう! にゃんこ抱っこしていい?」
「もちろん」

 胸元の温もりが離れても、俺の心は温かいままだ。

 翠さんも流さんも、俺の元に駆け寄って輪の中に入れてくれる。

「なんだ、洋くん、腹、減ったのか」
「洋くんはお腹を空かせてしまったんだね」
「え? そんなことはナイです」

 グウゥゥー

「ははっ、腹は正直だな」
「流、今すぐご飯にしよう」
「は……恥ずかしいな」

 最近、妙にお腹が空く。

「洋くん、腹が鳴るのは、生きている証拠だ。恥ずかしがるなよ」

 クゥゥゥ――

 すると、今度は薙くんが鳴らした。

「オレも腹減ったー!」
「よしよし、二人は腹ぺこ兄弟みたいだな」

 俺も団欒の中に、溶け込んでいく――

 あたたかい場所にいる。

 
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