重なる月

志生帆 海

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14章

クリスマス特別編 月影寺の救世主 6

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「こもりん?」
「ううう……寒いです……ブルブルします」
「うわっ、かなり熱が上がっているな」
「うわーん、これではせっかくのお饅頭が食べられませんよ」
「馬鹿! それどころじゃないだろう!」
「でも……あれは上生菓子だったのにぃ……硬くなって干からびてしまいますよ……くすん」
「おい!」

 俺にくっついて寝汗をかいているこもりん。

 汗ばんだ額をタオルで拭いてやり、眉をひそめた。

 かなり高熱で辛そうだ。

 一方……俺の方は熱のピークは越えたようで、身体はかなり楽になっていた。こもりんが持って来てくれた栄養ドリンクが効いたようだな。市販品ではなく手作りの生姜シロップだったので、身体の芯からポカポカしてきた。きっとお寺の秘伝のドリンクで、流さんの手作りに違いない。

 問題は風太だ。  栄養ドリンク……風太に飲ませればよかったよ。ごめんな。

「そうだ、家に連絡しないと。このままだと無断外泊になってしまうだろ」
「うううう……ふらふらします」

 風太はよろよろとスマホを取り出して、電話をかけた。

「もしもし……あ、お母さん。僕、おつかいで菅野くんの家にきて……熱だしちゃって……はい、休ませてもらいますね。大丈夫ですよ。菅野くんはいい人だから……看病してもらってます」

 おお! 『菅野くん』と堂々と名前を出してくれるのか!
 なんだか一昔前の箱入り息子のようで、可愛いな。
 ということは……俺も挨拶した方がいいのでは?

 恋人同士とは流石に話せていないだろうが、友人と話してくれているようで、嬉しい。同時に背筋を正しくなった。

「風太、電話貸して」
「あ……はい」

 緊張するが、ここはきちんと挨拶しておきたい。
 
「あの、電話、かわりました。菅野良介です」
「まぁ、あなたが菅野くんなのね。あの……ごめんなさいね。あの子少し風邪気味だったみたいで」
「すみません。俺のせいです」
「そんなんことないわ。あの子ね……いつも菅野くんの話をしているのよ。友達なんていない子だったので、私達嬉しくて。風太と仲良くしてくださってありがとう」
「そんな……こちらこそ。あの、熱が高いので今日は泊まらせます」
「もちろんよ。ご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」

 電話を切って、ホッとした。

 親公認でお泊まりだと喜びたいところだが、真っ赤な顔でふぅふぅ言っている風太を見ると、気の毒になった。

「風太。おいで」
「菅野くぅん……」
「一緒に眠ろう。眠ったらきっと良くなるよ」

 水分を取らし、解熱剤を飲ませて、俺たちはまたくっつき合った。

 ラジオをつけるとクリスマスソングが流れてきて、あぁそうかと……ようやく今日がクリスマスだと思い出す始末だ。

 でもさ……こんなクリスマスがあってもいいのかもな。

 大好きな子とかぜっぴき同士でダウン。

 俺たちの人生は長い。

 こんな日もあるさ!

 明日になればきっと良くなる。

 そう信じられるのは明るい恋だから?

 未来があるっていいな。

****

「流、離れに行くんじゃなかったのか」
「寄り道さ」
「こっちは丈たちの離れだよ? こんな時間に……お邪魔だよ」

  実は丈に一つ頼まれていた。

『I Love you』の七宝焼きのプレートとイルミネーション電球を準備してやったんだ。

 あいつ、病院からすっ飛んで帰ってきて、息を切らせながらベッドルームから見える樹木に装飾したのだろうな。

 その出来映えを見たかったのだ。

「流、真っ暗だよ?」
「きっと……もうすぐだ」
「?」

 翠には何も話していないので、首を傾げていた。

 やがて突然灯りが灯った。

「流、見て! あそこだけ、光っている!」
「ふっ、丈の演出だよ」
「え……そうなのか」
「あいつらに愛が灯ったんだ」
「ふふ」

 翠がくすぐったそうに笑う。

「何故笑う?」 
「僕の弟たちはロマンチックだなって」
「まぁな。それから俺の方がロマンチックだ」
「どうかな? 丈はしつこい男だよ。流を抜かそうと虎視眈々と」
「いや、弟には負けられない」
「あは、嬉しいね。僕の流。お前のやる気は、僕の元気の源だよ」
 
 翠がたおやかに笑う。

 その笑顔を絶やさないように守るのが俺の役目だ。

 チカチカと点滅するイルミネーションは、夜空を駆ける流星のようにも見えた。

「星の瞬きみたいに綺麗だね」
「翠……」
「何?」

 だから俺は翠の手をとって、手の甲に誓いのキスを落とした。

「翠……愛してる」
「流……僕も愛してる」

 さぁ行こう。
 俺たちも愛を灯しに――

 
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