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14章
クリスマス特別編 月影寺の救世主 3
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「洋、おばあ様から手紙が届いていたぞ」
「本当か!」
クリスマス・イブ。
帰宅した丈から手渡されたのは、祖母からの手紙だった。
「どうした? すぐに開けないのか」
「宛先が、丈と連名になっているから」
「そうなのか」
「だから、あとで一緒に見よう」
張矢 丈様
洋様
俺たちの名前が、真っ白な封筒の上に仲良く並んでいる。
おばあ様の字は母さんの筆跡と似ているから、そっと触れると、ふわりと懐かしい気持ちになった。
仕事では『浅岡』のままで通しているので、新鮮だ。
「はりや……よう」
そう呟くと、コートを脱いだ丈が俺を背後から包み込むように抱きしめてきた。
「洋は浅岡や月乃でなくて良かったのか」
「当たり前だ。丈と同じ姓を名乗れることが、俺にとってどんなに意味があり幸せなことか分かるか」
これは、過去の俺がどんなに望んでも叶わなかった夢だよ。
その晩、俺はパチパチと燃える暖炉の前で、裸にされた。
「丈? こんな場所で俺を抱くのか」
「クリスマス・イブだからな」
「ふっ、理由になってないよ」
「私は燃え上がるような恋をしている、今も昔も」
「最高の言葉だよ」
丈とソファになだれ込み、身体を重ねて思うこと。
俺たち、何度目のクリスマスを迎えた?
確かあの日は、雪が降っていたな。
俺は丈をひとりぼっちで待っていた。
寒い寒いホワイトクリスマスだった。
白い息を吐きながら裸足で丈を出迎えた日から、少しも色褪せない想いがここにある。
この身に丈を迎え入れて共に果てた後は、白いブランケットに二人で包まれて、おばあ様からの手紙の封を切った。
中から出てきたのは、繊細なカットのクリスマスカードだった。
「あぁ、綺麗だな」
「まるでおとぎの国のホワイトクリスマスだな」
真っ白なカードには、温かな手紙が添えられていた。
May this Christmas bring more happy memories and joy to you and your family.
(洋と洋の家族の皆さんに、素敵な思い出ができますように)
May you have a warm, joyful Christmas this year.
(あなたが暖かさと喜びに包まれますように!)
「おばあ様の願いは、丈が叶えてくれる」
「あぁ、私は洋のために生きている」
俺たちは白い毛布の中で、誓いの口づけを交わした。
ホワイト、クリスマス。
Merry Christmas to my love.
俺の愛する人に、メリークリスマス!
****
「こもりん、駄目だって! お、おい……もう離れろ」
「僕……菅野くんに会いたかったんです」
俺が寝ていたせいで、玄関先でどれくらい待っていたんだ?
北風に吹かれた風太の身体は冷え切って、ぶるぶる震えていた。
「身体が冷たいな。これじゃ風太も風邪をひいちまう!」
「菅野くん……僕、もう……ひいたかも? 寒いです……よ」
風太が手足をキュッと丸めて、俺の布団に倒れ込んできた。
「お、おい! 今、暖めてやる!」
俺も熱があるが、風太も熱っぽい。
「菅野くんの看病に来たのに……ごめんなさい。僕……役立たずで……ぐすっ」
「あー、泣くな。風太もかぜっぴきなら、俺たち、遠慮無く暖め合えるから……泣くなって」
布団の中に風太を抱き寄せて、抱きしめた。
俺の熱も、これでいよいよピークだ。
ふたりで風邪を引いて寝込むクリスマス。
うん……俺たちらしいのかも?
「菅野くん……僕、かっこわるいですよ」
「いや、風太は可愛いよ、最高に愛しいよ」
「はぁ……お饅頭は今日は無理みたいです」
「っていうか風太、家に連絡しておかないと心配するぞ。今日はこのまま泊まっていけ」
「は、はじめてのお泊まりですか」
「初めては初めてだけど、ちょっと違う初めてだがな」
「でも……菅野くんのそばに一晩中いられるのには変わりないですよ」
そう言いながら風太は目を閉じてしまった。
まるで冬眠する栗鼠のように……風太はくるんと手足をまるめて寝息を立てて出した。
長い人生、こんなクリスマスがあってもいいかもな。
メリークリスマス、風太。
早く良くなれよ。
俺も早く治すよ!
「本当か!」
クリスマス・イブ。
帰宅した丈から手渡されたのは、祖母からの手紙だった。
「どうした? すぐに開けないのか」
「宛先が、丈と連名になっているから」
「そうなのか」
「だから、あとで一緒に見よう」
張矢 丈様
洋様
俺たちの名前が、真っ白な封筒の上に仲良く並んでいる。
おばあ様の字は母さんの筆跡と似ているから、そっと触れると、ふわりと懐かしい気持ちになった。
仕事では『浅岡』のままで通しているので、新鮮だ。
「はりや……よう」
そう呟くと、コートを脱いだ丈が俺を背後から包み込むように抱きしめてきた。
「洋は浅岡や月乃でなくて良かったのか」
「当たり前だ。丈と同じ姓を名乗れることが、俺にとってどんなに意味があり幸せなことか分かるか」
これは、過去の俺がどんなに望んでも叶わなかった夢だよ。
その晩、俺はパチパチと燃える暖炉の前で、裸にされた。
「丈? こんな場所で俺を抱くのか」
「クリスマス・イブだからな」
「ふっ、理由になってないよ」
「私は燃え上がるような恋をしている、今も昔も」
「最高の言葉だよ」
丈とソファになだれ込み、身体を重ねて思うこと。
俺たち、何度目のクリスマスを迎えた?
確かあの日は、雪が降っていたな。
俺は丈をひとりぼっちで待っていた。
寒い寒いホワイトクリスマスだった。
白い息を吐きながら裸足で丈を出迎えた日から、少しも色褪せない想いがここにある。
この身に丈を迎え入れて共に果てた後は、白いブランケットに二人で包まれて、おばあ様からの手紙の封を切った。
中から出てきたのは、繊細なカットのクリスマスカードだった。
「あぁ、綺麗だな」
「まるでおとぎの国のホワイトクリスマスだな」
真っ白なカードには、温かな手紙が添えられていた。
May this Christmas bring more happy memories and joy to you and your family.
(洋と洋の家族の皆さんに、素敵な思い出ができますように)
May you have a warm, joyful Christmas this year.
(あなたが暖かさと喜びに包まれますように!)
「おばあ様の願いは、丈が叶えてくれる」
「あぁ、私は洋のために生きている」
俺たちは白い毛布の中で、誓いの口づけを交わした。
ホワイト、クリスマス。
Merry Christmas to my love.
俺の愛する人に、メリークリスマス!
****
「こもりん、駄目だって! お、おい……もう離れろ」
「僕……菅野くんに会いたかったんです」
俺が寝ていたせいで、玄関先でどれくらい待っていたんだ?
北風に吹かれた風太の身体は冷え切って、ぶるぶる震えていた。
「身体が冷たいな。これじゃ風太も風邪をひいちまう!」
「菅野くん……僕、もう……ひいたかも? 寒いです……よ」
風太が手足をキュッと丸めて、俺の布団に倒れ込んできた。
「お、おい! 今、暖めてやる!」
俺も熱があるが、風太も熱っぽい。
「菅野くんの看病に来たのに……ごめんなさい。僕……役立たずで……ぐすっ」
「あー、泣くな。風太もかぜっぴきなら、俺たち、遠慮無く暖め合えるから……泣くなって」
布団の中に風太を抱き寄せて、抱きしめた。
俺の熱も、これでいよいよピークだ。
ふたりで風邪を引いて寝込むクリスマス。
うん……俺たちらしいのかも?
「菅野くん……僕、かっこわるいですよ」
「いや、風太は可愛いよ、最高に愛しいよ」
「はぁ……お饅頭は今日は無理みたいです」
「っていうか風太、家に連絡しておかないと心配するぞ。今日はこのまま泊まっていけ」
「は、はじめてのお泊まりですか」
「初めては初めてだけど、ちょっと違う初めてだがな」
「でも……菅野くんのそばに一晩中いられるのには変わりないですよ」
そう言いながら風太は目を閉じてしまった。
まるで冬眠する栗鼠のように……風太はくるんと手足をまるめて寝息を立てて出した。
長い人生、こんなクリスマスがあってもいいかもな。
メリークリスマス、風太。
早く良くなれよ。
俺も早く治すよ!
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