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14章
クリスマス特別編 月影寺の救世主 2
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小森を見送るのと入れ違いに、写経にやってくる人が増えてきた。
やはり今日も圧倒的に女性が多いな。
いや、女性しかいないのか。
やれやれ上は80代から下は高校生まで、守備範囲が広いことで。
「ここのご住職さまとっても美形なのよね♡」
「目の保養になるのよね♡」
ほらな! 明らかに翠目当てな輩ばかり紛れ込んでいるのを蹴散らしてしまいたい衝動にかられていると、翠に制された。
「流、いちいち物騒な顔をしないでおくれ。皆さん、大事な檀家さんたちだよ」
「へぇ~ うちの寺の檀家さんは女性だけだったか」
「その、檀家さんの紹介の紹介でいらっしゃる方も多くてね」
拗ねるように言うと、翠が少し困った顔をした。
「流、心配は無用だよ。僕は女性にはもう関心が持てないんだ。だから変な輩が紛れ込むより、この方が落ち着くんだ。分かっておくれ、ん?」
そっと見えない場所で手を繋いで、俺を甘やかす。
「確かに一理あるな」
それに今日は月影寺のレアキャラ、麗しの貴公子・洋くんまで登場だ。こんなこと本人には直接言えないが、翠も洋くんもよからぬ虫 (男)を呼び寄せやすい体質なので、確かに女性陣にキャーキャー囁かれるている位が具合がいいのかもな。
「ほら、心を無にしよう。今日の写経はこれでいいかな?」
寺にクリスマスなど関係ない。だから写経はオーソドックスなものだし、写経場には何の飾りもしていない。
「味気ないかな? だから、せめてイルミネーションでお迎えし、お見送りしたくてね」
どうやら、わざわざクリスマスに写経に来てくれる気持ちに、礼を尽くしたいようだ。
今日も翠の心は晴れている。
月影寺を照らす月は、今日もさやかなり。
心を無にして写経をすれば、終わった後にはモヤモヤしていた心はすっきり晴れ渡り、毎日をつつがなく過ごせることへの感謝の気持ちが芽生えているだろう。
「そういえば、薙は?」
「今日は拓人くんの家に泊まりでクリスマス勉強会をするそうだよ。あの子、受験生なのに大丈夫かな?」
「翠に似て、賢いから大丈夫だろ」
「いや、流に似て……大胆だよ」
お? ということは、俺と翠だけなのか。
そう思うと期待も高まっていく。
「流、イルミネーション……星が瞬くように綺麗だね。繊細な光をありがとう」
「翠が喜ぶことなら何でもするさ」
「僕も……流を喜ばせたい」
「あぁ、だから今宵は離れの茶室で……なんだろう?」
「そう……僕からも贈り物がある」
「期待しているよ」
今宵は一緒に日付を跨ごう。
ミッドナイトクリスマス。
それが今年のクリスマスだ。
****
「参ったなぁ……解熱剤を飲んだのに、まだ39度もあるなんて」
なんとか会社から電車を乗り継いで埼玉のアパートに帰宅し、スーツを脱ぎ散らかし部屋着に着替え、布団に潜った。
ブルブルと悪寒がするぞ。
熱を出すのなんて、何年ぶりだよ?
実家にヘルプの電話をしようと思ったがクリスマスイブで店は忙しいし、せっかくのクリスマス気分を台無しにしてしまうからやめた。
葉山に仕事を押しつけるなんて悪いことしたな。あいつ、芽生坊と宗吾さんと楽しいクリスマスを過ごすはずだったのに申し訳ないよ。だが、いつも一歩引いて大人しい葉山が俺を叱りつけ、仕事の代打を即決で受けてくれたのは、頼もしかったな。
目を閉じたら、今一番会いたい人の顔と茶色くて丸い物体が浮かんで来た。
俺の若くて可愛い恋人、風太の甘い笑顔とお饅頭だ。
そのせいか、石段から転げ落ちてきたこもりんとお饅頭をキャッチする夢を見た。
あーあ、せっかく付き合って初めてのクリスマスなのに、会いたかったな。
そこで夢から覚めると、インターホンが何度も鳴っていた。
「誰だよ? 怠くて無理……」
無視しようと思ったが、耳を澄ましてハッとした。
この泣き声って、まさか……こもりん!?
「かんのくん……ぐすっ」
慌てて飛び起きて玄関の扉を開けると、マスクをした風太が脇にしゃがんでいた。大きな風呂敷を抱えて、ぐずぐす泣いている。
「ど、どうして! いつから……」
「あ……ぐすっ、菅野くん、よかったです」
「どうして来たんだ?」
「小森風太、看病に来ました」
参った! これは嬉し過ぎる! さっきまでの悪寒も吹っ飛ぶよ。
「風太、会いたかった」
「菅野くん、僕も会いたかったです」
「おっと風邪をうつしちゃうから離れろ」
「大丈夫です。マスクしているし」
会いたい時に会いたい人が現れるって、最高のサプライズなんだな。
葉山もいつもこんな気持ちで宗吾さんと接しているのか。
「嬉しいよ。来てくれてありがとうな」
「あ、あの……具合は?」
「吹っ飛んだ」
「駄目ですよ。まだ熱があります、寝ていて下さい」
魔法のポケットのように風呂敷から次々と出てくるのは、看病グッズだった。
「僕が流さん直伝のお粥を作りますよ~ お台所を借りてもいいですか」
「あぁ」
なんだか夢みたいだ。
風太が看病してくれるなんて。
クリスマスだからか。
これは最高のプレゼントだ。
「あ、言い忘れていました。菅野くん、今日はメリークリスマスですよ」
「お、おう。風太、俺たちが付き合って初めて迎えるクリスマスだな」
「はい! だから不謹慎ですが……看病に呼んでもらえて嬉しかったです」
「ん? 俺は呼んでないが」
「……いい親友をお持ちですね」
葉山が気を遣ってくれたのか。
俺たちの恋のキューピットは葉山なのかもな。
「風太、メリークリスマス!」
「菅野くん、メリークリスマスです。ケーキはありませんが、特注お饅頭でお祝いしませんか。会えて僕……すごく嬉しいです。菅野くんだぁ……」
風太にマスク越しに頬をスリスリされてドキドキした。
お、俺……違う熱が上がりそうだ!
やはり今日も圧倒的に女性が多いな。
いや、女性しかいないのか。
やれやれ上は80代から下は高校生まで、守備範囲が広いことで。
「ここのご住職さまとっても美形なのよね♡」
「目の保養になるのよね♡」
ほらな! 明らかに翠目当てな輩ばかり紛れ込んでいるのを蹴散らしてしまいたい衝動にかられていると、翠に制された。
「流、いちいち物騒な顔をしないでおくれ。皆さん、大事な檀家さんたちだよ」
「へぇ~ うちの寺の檀家さんは女性だけだったか」
「その、檀家さんの紹介の紹介でいらっしゃる方も多くてね」
拗ねるように言うと、翠が少し困った顔をした。
「流、心配は無用だよ。僕は女性にはもう関心が持てないんだ。だから変な輩が紛れ込むより、この方が落ち着くんだ。分かっておくれ、ん?」
そっと見えない場所で手を繋いで、俺を甘やかす。
「確かに一理あるな」
それに今日は月影寺のレアキャラ、麗しの貴公子・洋くんまで登場だ。こんなこと本人には直接言えないが、翠も洋くんもよからぬ虫 (男)を呼び寄せやすい体質なので、確かに女性陣にキャーキャー囁かれるている位が具合がいいのかもな。
「ほら、心を無にしよう。今日の写経はこれでいいかな?」
寺にクリスマスなど関係ない。だから写経はオーソドックスなものだし、写経場には何の飾りもしていない。
「味気ないかな? だから、せめてイルミネーションでお迎えし、お見送りしたくてね」
どうやら、わざわざクリスマスに写経に来てくれる気持ちに、礼を尽くしたいようだ。
今日も翠の心は晴れている。
月影寺を照らす月は、今日もさやかなり。
心を無にして写経をすれば、終わった後にはモヤモヤしていた心はすっきり晴れ渡り、毎日をつつがなく過ごせることへの感謝の気持ちが芽生えているだろう。
「そういえば、薙は?」
「今日は拓人くんの家に泊まりでクリスマス勉強会をするそうだよ。あの子、受験生なのに大丈夫かな?」
「翠に似て、賢いから大丈夫だろ」
「いや、流に似て……大胆だよ」
お? ということは、俺と翠だけなのか。
そう思うと期待も高まっていく。
「流、イルミネーション……星が瞬くように綺麗だね。繊細な光をありがとう」
「翠が喜ぶことなら何でもするさ」
「僕も……流を喜ばせたい」
「あぁ、だから今宵は離れの茶室で……なんだろう?」
「そう……僕からも贈り物がある」
「期待しているよ」
今宵は一緒に日付を跨ごう。
ミッドナイトクリスマス。
それが今年のクリスマスだ。
****
「参ったなぁ……解熱剤を飲んだのに、まだ39度もあるなんて」
なんとか会社から電車を乗り継いで埼玉のアパートに帰宅し、スーツを脱ぎ散らかし部屋着に着替え、布団に潜った。
ブルブルと悪寒がするぞ。
熱を出すのなんて、何年ぶりだよ?
実家にヘルプの電話をしようと思ったがクリスマスイブで店は忙しいし、せっかくのクリスマス気分を台無しにしてしまうからやめた。
葉山に仕事を押しつけるなんて悪いことしたな。あいつ、芽生坊と宗吾さんと楽しいクリスマスを過ごすはずだったのに申し訳ないよ。だが、いつも一歩引いて大人しい葉山が俺を叱りつけ、仕事の代打を即決で受けてくれたのは、頼もしかったな。
目を閉じたら、今一番会いたい人の顔と茶色くて丸い物体が浮かんで来た。
俺の若くて可愛い恋人、風太の甘い笑顔とお饅頭だ。
そのせいか、石段から転げ落ちてきたこもりんとお饅頭をキャッチする夢を見た。
あーあ、せっかく付き合って初めてのクリスマスなのに、会いたかったな。
そこで夢から覚めると、インターホンが何度も鳴っていた。
「誰だよ? 怠くて無理……」
無視しようと思ったが、耳を澄ましてハッとした。
この泣き声って、まさか……こもりん!?
「かんのくん……ぐすっ」
慌てて飛び起きて玄関の扉を開けると、マスクをした風太が脇にしゃがんでいた。大きな風呂敷を抱えて、ぐずぐす泣いている。
「ど、どうして! いつから……」
「あ……ぐすっ、菅野くん、よかったです」
「どうして来たんだ?」
「小森風太、看病に来ました」
参った! これは嬉し過ぎる! さっきまでの悪寒も吹っ飛ぶよ。
「風太、会いたかった」
「菅野くん、僕も会いたかったです」
「おっと風邪をうつしちゃうから離れろ」
「大丈夫です。マスクしているし」
会いたい時に会いたい人が現れるって、最高のサプライズなんだな。
葉山もいつもこんな気持ちで宗吾さんと接しているのか。
「嬉しいよ。来てくれてありがとうな」
「あ、あの……具合は?」
「吹っ飛んだ」
「駄目ですよ。まだ熱があります、寝ていて下さい」
魔法のポケットのように風呂敷から次々と出てくるのは、看病グッズだった。
「僕が流さん直伝のお粥を作りますよ~ お台所を借りてもいいですか」
「あぁ」
なんだか夢みたいだ。
風太が看病してくれるなんて。
クリスマスだからか。
これは最高のプレゼントだ。
「あ、言い忘れていました。菅野くん、今日はメリークリスマスですよ」
「お、おう。風太、俺たちが付き合って初めて迎えるクリスマスだな」
「はい! だから不謹慎ですが……看病に呼んでもらえて嬉しかったです」
「ん? 俺は呼んでないが」
「……いい親友をお持ちですね」
葉山が気を遣ってくれたのか。
俺たちの恋のキューピットは葉山なのかもな。
「風太、メリークリスマス!」
「菅野くん、メリークリスマスです。ケーキはありませんが、特注お饅頭でお祝いしませんか。会えて僕……すごく嬉しいです。菅野くんだぁ……」
風太にマスク越しに頬をスリスリされてドキドキした。
お、俺……違う熱が上がりそうだ!
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