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14章
身も心も 36
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流さんは付き添いで宿泊するので、洋さんと一緒に電車で帰ることにした。
「薙くん、お父さんの退院が決まって本当に良かったね」
「ありがとう」
「翠さんも元気そうで良かったよ」
「父さん、柔らかい笑顔だったな」
「うん、手術が無事に終わり、ホッとしているんだろうね。俺も嬉しいよ」
「……」
洋さんにはお父さんがいないと聞いているから、こんな風に言ってもらうのは申し訳ない。
「薙くん? あのね、俺に遠慮しなくていいよ。むしろ見せて欲しいんだ」
「何を?」
「薙くんがお父さんと仲睦まじく過ごす姿をさ」
本心だと思った。
「オレ……長い長い……遠回りをしていたみたいだ。父さんに悪いことをしたよ」
「気づけたのなら、道を修正すればいいよ。まだ間に合うよ。あんなに素敵なお父さんは滅多にいないよ。大事にしないとね」
「うん、そう思う」
「理想だよ……翠さんみたいな人が俺の理想なんだ。だから夢を見せて欲しい」
熱心に語る洋さんの美貌は、あまりに気高い。
洋さんって、時々触れ難い時がある。
脆く壊れそうで心配になる。
「洋さんも月影寺の一員だろ? もう父さんの一番下の弟だよ」
「あ……ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
そうだ、それが安心だ。
父さんや流さん丈さんの輪の中にいれば、洋さんも自然に笑えるんじゃないかな。父さんも我慢ばかりしていたけれども、もしかして洋さんも? 洋さんって父さんと同じ雰囲気を纏っているから、そう思うのかな?
「薙くん、俺ね……父親を交通事故で早くに亡くしているんだ。その後母が再婚して……新しいお父さんは出来たが……その、上手くいかなくてね」
「そうだったのか」
確かそのお母さんも若くして亡くなっていると聞いている。それから、ずっと天涯孤独だったんだな。
「だから翠さんと薙くん親子を見ていると、俺ももし父さんが生きていたら、こんな関係だったのかなと想像して嬉しくなるんだ。だから遠慮はいらないよ」
「分かった」
遠慮するのは性ではないから、巻き込めばいい。
もっと洋さんに懐いてみようか。
一応月影寺のメンバーの中では一番若いんだし!
「前も言ったかもだけど……洋さんはオレの兄さんみたいだよ」
「あ……うん、ありがとう。薙くんがそんな風に思ってくれるの嬉しいよ。俺ね、こんなんだから友人も少ないし……」
「洋さんも……もっと笑って欲しい。今の父さんみたいに」
「あぁ、そうしたい。翠さんも……丈も変わった。だから俺も変わりたい」
「あ、じゃあさ、寄り道しない?」
なんとなく滅多にない時間なので、真っ直ぐ帰るのが勿体なくなった。
「もしかして月下庵茶屋?」
「そう! ほらあのお寺の小坊主くん……」
「あぁ小森くん?」
「そうそう、なんだかさ、父さんがいなくて……最近ひもじそうなんだ」
「ははっ、流石翠さんの息子だ。気が利くね」
「じゃあ行こうよ!」
洋さんに対して、同級生を誘うように声をかけると、心から嬉しそうに微笑んでくれた。
「俺も最近あんこが好きになったんだ。小森くんの影響かも!」
「オレも!」
たまにはこんな寄り道もいい。
人に関心が持てなかったオレだが、父さんが変わっていくのを見たら、変わりたくなった。きっとそれは洋さんも同じなんだろうな。
「薙くん、お父さんの退院が決まって本当に良かったね」
「ありがとう」
「翠さんも元気そうで良かったよ」
「父さん、柔らかい笑顔だったな」
「うん、手術が無事に終わり、ホッとしているんだろうね。俺も嬉しいよ」
「……」
洋さんにはお父さんがいないと聞いているから、こんな風に言ってもらうのは申し訳ない。
「薙くん? あのね、俺に遠慮しなくていいよ。むしろ見せて欲しいんだ」
「何を?」
「薙くんがお父さんと仲睦まじく過ごす姿をさ」
本心だと思った。
「オレ……長い長い……遠回りをしていたみたいだ。父さんに悪いことをしたよ」
「気づけたのなら、道を修正すればいいよ。まだ間に合うよ。あんなに素敵なお父さんは滅多にいないよ。大事にしないとね」
「うん、そう思う」
「理想だよ……翠さんみたいな人が俺の理想なんだ。だから夢を見せて欲しい」
熱心に語る洋さんの美貌は、あまりに気高い。
洋さんって、時々触れ難い時がある。
脆く壊れそうで心配になる。
「洋さんも月影寺の一員だろ? もう父さんの一番下の弟だよ」
「あ……ありがとう。そう言ってもらえるのは嬉しいよ」
そうだ、それが安心だ。
父さんや流さん丈さんの輪の中にいれば、洋さんも自然に笑えるんじゃないかな。父さんも我慢ばかりしていたけれども、もしかして洋さんも? 洋さんって父さんと同じ雰囲気を纏っているから、そう思うのかな?
「薙くん、俺ね……父親を交通事故で早くに亡くしているんだ。その後母が再婚して……新しいお父さんは出来たが……その、上手くいかなくてね」
「そうだったのか」
確かそのお母さんも若くして亡くなっていると聞いている。それから、ずっと天涯孤独だったんだな。
「だから翠さんと薙くん親子を見ていると、俺ももし父さんが生きていたら、こんな関係だったのかなと想像して嬉しくなるんだ。だから遠慮はいらないよ」
「分かった」
遠慮するのは性ではないから、巻き込めばいい。
もっと洋さんに懐いてみようか。
一応月影寺のメンバーの中では一番若いんだし!
「前も言ったかもだけど……洋さんはオレの兄さんみたいだよ」
「あ……うん、ありがとう。薙くんがそんな風に思ってくれるの嬉しいよ。俺ね、こんなんだから友人も少ないし……」
「洋さんも……もっと笑って欲しい。今の父さんみたいに」
「あぁ、そうしたい。翠さんも……丈も変わった。だから俺も変わりたい」
「あ、じゃあさ、寄り道しない?」
なんとなく滅多にない時間なので、真っ直ぐ帰るのが勿体なくなった。
「もしかして月下庵茶屋?」
「そう! ほらあのお寺の小坊主くん……」
「あぁ小森くん?」
「そうそう、なんだかさ、父さんがいなくて……最近ひもじそうなんだ」
「ははっ、流石翠さんの息子だ。気が利くね」
「じゃあ行こうよ!」
洋さんに対して、同級生を誘うように声をかけると、心から嬉しそうに微笑んでくれた。
「俺も最近あんこが好きになったんだ。小森くんの影響かも!」
「オレも!」
たまにはこんな寄り道もいい。
人に関心が持てなかったオレだが、父さんが変わっていくのを見たら、変わりたくなった。きっとそれは洋さんも同じなんだろうな。
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