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14章
身も心も 34
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「翠!」
「流!」
入院中……僕たちは毎日ドラマチックな再会を繰り返していた。
「翠、今日の調子はどうだ?」
「いいよ。実はね、さっき丈が来てくれて、明日退院出来ることになったんだ」
「え? まじか」
「うん、順調だって」
そう告げると、流が破顔した。
「そうか、そうか良かったな! そろそろかと思っていた」
「本当か、嬉しいよ。流っ……」
感極まって流に抱きつこうと思ったら、流が一歩退いてしまった。
えっ、どうしたんだ? いつもなら僕が求めなくても触れてくる勢いなのに。
「あのさ、今日はお見舞いに……来ているんだ。おーい、もう入っていいぞ」
「え?」
扉が開くと、薙と洋くんが立っていた。
「父さん! 明日退院なんだって」
「えっ、なんで知って?」
「さっきから丸聞こえだよ」
「え……」
特別室だから油断して、声を控えていなかったのか。恥ずかしいよ。
「翠さん、退院なんですってね」
「洋くん!」
僕が手を伸ばすと、二人が躊躇いもなく触れてくれた。
近しい者の温もりはいい。心地いいよ。
「二人ともありがとう。早く月影寺に戻りたいよ」
「なーんだ、父さん、もう明日退院するなら、大人しく寺で待っていれば良かったよ」
「すみません。俺たち、お邪魔ですよね」
何故か洋くんと薙にまで恐縮されて、僕の方が恥ずかしくなってしまった。
「お邪魔なんかじゃないよ。とても嬉しいよ」
「でも父さん……本当に良かったよ。結構大変な手術だったと聞いて心配していたんだ」
「俺もです」
「うん、丈が本当に綺麗に縫合してくれて、治りもとても順調なんだよ」
「流石丈先生だな。良かった!」
「良かったです」
そこまで和やかに話していたのに、突然……薙の声が詰まった。
「うっ……」
「薙……どうした? 僕は元気だよ?」
「ごめん、あれ? なんでオレ泣いて」
薙は恥ずかしそうに、顔を背けた。
「薙は小さい時から……よく傷を心配してくれたね。覚えている?」
「ん……風呂に入る度に、すごく心配だったんだよ! だから……本当に良かった」
薙が泣いた。
この子がこんな風になくなんて、久しぶりだ。
「ごめん……父さん……ずっとお前に負担をかけていた」
「ちがう! 一番苦しかったのは父さんだ。いつも我慢ばかりして」
薙は泣きながら怒っていた。
「そんな風に怒ってくれるんだね。僕を心配して」
いつからだろう、薙が僕を避けるようになったのは。
いつからだろう、顔を合わせなくなってしまったのは。
いつから……
月影寺に引き取るまで、僕と薙の関係は冷え切っていたことを久しぶりに思い出した。
だから、こんなにも僕を想い、僕を心配し、僕の退院を喜んでくれるのが、震えるほど嬉しかった。
「薙……僕の息子、また一緒に暮らそう。これからも仲よくしておくれ」
「も、もうっ、父さんは人を泣かせる天才だ!」
洋くんも隣で涙ぐんでいた。
「翠さんと薙くんは、俺が知る中で、本当に……最高の親子です」
彼のひと言は、とても心が籠もっており、とても心に響いた。
「流!」
入院中……僕たちは毎日ドラマチックな再会を繰り返していた。
「翠、今日の調子はどうだ?」
「いいよ。実はね、さっき丈が来てくれて、明日退院出来ることになったんだ」
「え? まじか」
「うん、順調だって」
そう告げると、流が破顔した。
「そうか、そうか良かったな! そろそろかと思っていた」
「本当か、嬉しいよ。流っ……」
感極まって流に抱きつこうと思ったら、流が一歩退いてしまった。
えっ、どうしたんだ? いつもなら僕が求めなくても触れてくる勢いなのに。
「あのさ、今日はお見舞いに……来ているんだ。おーい、もう入っていいぞ」
「え?」
扉が開くと、薙と洋くんが立っていた。
「父さん! 明日退院なんだって」
「えっ、なんで知って?」
「さっきから丸聞こえだよ」
「え……」
特別室だから油断して、声を控えていなかったのか。恥ずかしいよ。
「翠さん、退院なんですってね」
「洋くん!」
僕が手を伸ばすと、二人が躊躇いもなく触れてくれた。
近しい者の温もりはいい。心地いいよ。
「二人ともありがとう。早く月影寺に戻りたいよ」
「なーんだ、父さん、もう明日退院するなら、大人しく寺で待っていれば良かったよ」
「すみません。俺たち、お邪魔ですよね」
何故か洋くんと薙にまで恐縮されて、僕の方が恥ずかしくなってしまった。
「お邪魔なんかじゃないよ。とても嬉しいよ」
「でも父さん……本当に良かったよ。結構大変な手術だったと聞いて心配していたんだ」
「俺もです」
「うん、丈が本当に綺麗に縫合してくれて、治りもとても順調なんだよ」
「流石丈先生だな。良かった!」
「良かったです」
そこまで和やかに話していたのに、突然……薙の声が詰まった。
「うっ……」
「薙……どうした? 僕は元気だよ?」
「ごめん、あれ? なんでオレ泣いて」
薙は恥ずかしそうに、顔を背けた。
「薙は小さい時から……よく傷を心配してくれたね。覚えている?」
「ん……風呂に入る度に、すごく心配だったんだよ! だから……本当に良かった」
薙が泣いた。
この子がこんな風になくなんて、久しぶりだ。
「ごめん……父さん……ずっとお前に負担をかけていた」
「ちがう! 一番苦しかったのは父さんだ。いつも我慢ばかりして」
薙は泣きながら怒っていた。
「そんな風に怒ってくれるんだね。僕を心配して」
いつからだろう、薙が僕を避けるようになったのは。
いつからだろう、顔を合わせなくなってしまったのは。
いつから……
月影寺に引き取るまで、僕と薙の関係は冷え切っていたことを久しぶりに思い出した。
だから、こんなにも僕を想い、僕を心配し、僕の退院を喜んでくれるのが、震えるほど嬉しかった。
「薙……僕の息子、また一緒に暮らそう。これからも仲よくしておくれ」
「も、もうっ、父さんは人を泣かせる天才だ!」
洋くんも隣で涙ぐんでいた。
「翠さんと薙くんは、俺が知る中で、本当に……最高の親子です」
彼のひと言は、とても心が籠もっており、とても心に響いた。
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