1,376 / 1,657
14章
身も心も 34
しおりを挟む
「翠!」
「流!」
入院中……僕たちは毎日ドラマチックな再会を繰り返していた。
「翠、今日の調子はどうだ?」
「いいよ。実はね、さっき丈が来てくれて、明日退院出来ることになったんだ」
「え? まじか」
「うん、順調だって」
そう告げると、流が破顔した。
「そうか、そうか良かったな! そろそろかと思っていた」
「本当か、嬉しいよ。流っ……」
感極まって流に抱きつこうと思ったら、流が一歩退いてしまった。
えっ、どうしたんだ? いつもなら僕が求めなくても触れてくる勢いなのに。
「あのさ、今日はお見舞いに……来ているんだ。おーい、もう入っていいぞ」
「え?」
扉が開くと、薙と洋くんが立っていた。
「父さん! 明日退院なんだって」
「えっ、なんで知って?」
「さっきから丸聞こえだよ」
「え……」
特別室だから油断して、声を控えていなかったのか。恥ずかしいよ。
「翠さん、退院なんですってね」
「洋くん!」
僕が手を伸ばすと、二人が躊躇いもなく触れてくれた。
近しい者の温もりはいい。心地いいよ。
「二人ともありがとう。早く月影寺に戻りたいよ」
「なーんだ、父さん、もう明日退院するなら、大人しく寺で待っていれば良かったよ」
「すみません。俺たち、お邪魔ですよね」
何故か洋くんと薙にまで恐縮されて、僕の方が恥ずかしくなってしまった。
「お邪魔なんかじゃないよ。とても嬉しいよ」
「でも父さん……本当に良かったよ。結構大変な手術だったと聞いて心配していたんだ」
「俺もです」
「うん、丈が本当に綺麗に縫合してくれて、治りもとても順調なんだよ」
「流石丈先生だな。良かった!」
「良かったです」
そこまで和やかに話していたのに、突然……薙の声が詰まった。
「うっ……」
「薙……どうした? 僕は元気だよ?」
「ごめん、あれ? なんでオレ泣いて」
薙は恥ずかしそうに、顔を背けた。
「薙は小さい時から……よく傷を心配してくれたね。覚えている?」
「ん……風呂に入る度に、すごく心配だったんだよ! だから……本当に良かった」
薙が泣いた。
この子がこんな風になくなんて、久しぶりだ。
「ごめん……父さん……ずっとお前に負担をかけていた」
「ちがう! 一番苦しかったのは父さんだ。いつも我慢ばかりして」
薙は泣きながら怒っていた。
「そんな風に怒ってくれるんだね。僕を心配して」
いつからだろう、薙が僕を避けるようになったのは。
いつからだろう、顔を合わせなくなってしまったのは。
いつから……
月影寺に引き取るまで、僕と薙の関係は冷え切っていたことを久しぶりに思い出した。
だから、こんなにも僕を想い、僕を心配し、僕の退院を喜んでくれるのが、震えるほど嬉しかった。
「薙……僕の息子、また一緒に暮らそう。これからも仲よくしておくれ」
「も、もうっ、父さんは人を泣かせる天才だ!」
洋くんも隣で涙ぐんでいた。
「翠さんと薙くんは、俺が知る中で、本当に……最高の親子です」
彼のひと言は、とても心が籠もっており、とても心に響いた。
「流!」
入院中……僕たちは毎日ドラマチックな再会を繰り返していた。
「翠、今日の調子はどうだ?」
「いいよ。実はね、さっき丈が来てくれて、明日退院出来ることになったんだ」
「え? まじか」
「うん、順調だって」
そう告げると、流が破顔した。
「そうか、そうか良かったな! そろそろかと思っていた」
「本当か、嬉しいよ。流っ……」
感極まって流に抱きつこうと思ったら、流が一歩退いてしまった。
えっ、どうしたんだ? いつもなら僕が求めなくても触れてくる勢いなのに。
「あのさ、今日はお見舞いに……来ているんだ。おーい、もう入っていいぞ」
「え?」
扉が開くと、薙と洋くんが立っていた。
「父さん! 明日退院なんだって」
「えっ、なんで知って?」
「さっきから丸聞こえだよ」
「え……」
特別室だから油断して、声を控えていなかったのか。恥ずかしいよ。
「翠さん、退院なんですってね」
「洋くん!」
僕が手を伸ばすと、二人が躊躇いもなく触れてくれた。
近しい者の温もりはいい。心地いいよ。
「二人ともありがとう。早く月影寺に戻りたいよ」
「なーんだ、父さん、もう明日退院するなら、大人しく寺で待っていれば良かったよ」
「すみません。俺たち、お邪魔ですよね」
何故か洋くんと薙にまで恐縮されて、僕の方が恥ずかしくなってしまった。
「お邪魔なんかじゃないよ。とても嬉しいよ」
「でも父さん……本当に良かったよ。結構大変な手術だったと聞いて心配していたんだ」
「俺もです」
「うん、丈が本当に綺麗に縫合してくれて、治りもとても順調なんだよ」
「流石丈先生だな。良かった!」
「良かったです」
そこまで和やかに話していたのに、突然……薙の声が詰まった。
「うっ……」
「薙……どうした? 僕は元気だよ?」
「ごめん、あれ? なんでオレ泣いて」
薙は恥ずかしそうに、顔を背けた。
「薙は小さい時から……よく傷を心配してくれたね。覚えている?」
「ん……風呂に入る度に、すごく心配だったんだよ! だから……本当に良かった」
薙が泣いた。
この子がこんな風になくなんて、久しぶりだ。
「ごめん……父さん……ずっとお前に負担をかけていた」
「ちがう! 一番苦しかったのは父さんだ。いつも我慢ばかりして」
薙は泣きながら怒っていた。
「そんな風に怒ってくれるんだね。僕を心配して」
いつからだろう、薙が僕を避けるようになったのは。
いつからだろう、顔を合わせなくなってしまったのは。
いつから……
月影寺に引き取るまで、僕と薙の関係は冷え切っていたことを久しぶりに思い出した。
だから、こんなにも僕を想い、僕を心配し、僕の退院を喜んでくれるのが、震えるほど嬉しかった。
「薙……僕の息子、また一緒に暮らそう。これからも仲よくしておくれ」
「も、もうっ、父さんは人を泣かせる天才だ!」
洋くんも隣で涙ぐんでいた。
「翠さんと薙くんは、俺が知る中で、本当に……最高の親子です」
彼のひと言は、とても心が籠もっており、とても心に響いた。
10
お気に入りに追加
443
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる