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14章
身も心も 31
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空を見上げていると、突然呼ばれた。
横を見ると、白衣の丈がポケットに手を突っ込んで立っていた。
「兄さん!」
「あぁ、丈か……さっきはすまなかったな」
「いえ……私でお役に立てたのなら」
丈が笑ったので、俺も釣られて笑った。
もうバレバレか、俺たちが個室の中で何をしていたのか。
思わず肩を竦めるが、丈はさして気にしていないようだった。
「もう診察の時間か」
「入っても、いいですか」
「もちろんだ」
特別室は想像以上に広い。
ベッドの中で多少の艶めいた声を漏らしても、扉までかなり距離があるので、外には聞こえないだろう。
シャワーに洗面台、ソファに至れり尽くせりだが、アレがないんだよな。
「なぁ丈、この特別室は最高だな」
「ありがとうございます」
「だが一つだけ、忘れてないか」
「あぁ、迷ったのですが……付き添いのベッドなら、今回は置きませんでした」
「やっぱり、泊まっちゃダメなのかよ」
「……特別室のベッドは通常の病室よりも広いので……あっ、今のは聞かなかったことに。医師として推奨しているわけでは、けっしてありませんからね」
おいおい、どうして丈が顔を赤らめる?
案外可愛いところも、あるんだな。
「丈、お前の気遣いは充分に伝わった」
「ちなみに、この部屋は特別室なので付き添いの寝泊まりは自由です」
「早く言えよ、コイツ」
肘でつついてやると、丈が笑った。
そんな明るい笑顔を見せるなんて想定外で、ぽかんと口を開けてしまった。
「丈……お前、さては今度洋くんをここに連れ込もうと? 職権乱用だぞ?」
「そ、そんなことしませんよ。想像はしましたが」
「ははっ、俺たちの思考回路は一緒なのか」
「いやですよ」
笑いながら中に入ると、翠が背もたれを起こしたベッドにもたれながら、柔和に微笑んでいた。
こちらもいい笑顔だ。
「流と丈、楽しそうだね。兄さんも混ぜておくれ」
兄の顔をしたがる翠も好きだから、嬉しくなる。
それだけ術後の経過がいいってことだろう?
「兄さん、具合はどうですか」
「ん……だいぶいいよ。もちろん傷は痛むが、それよりも気分がいい」
「良かったです。その調子なら、付き添いの寝泊まりの許可を出せそうですね」
丈がもったいぶって言えば、翠は目を見開いて驚いていた。
「えっ、い、いいのか。手術の後だからダメかと……付き添いのベッドもないし諦めていたんだ」
あーもう、可愛いことばかり口走る兄が愛おしい。
「意図的ですよ。すべて」
「ん?」
「いえ、こっちの話です。さぁ傷の確認をさせてください、その前に血圧と熱を……」
丈が血圧測定をしようとすると、翠が今度は困った顔をした。
「あ、あのね……血圧が高いかも……それから身体が火照ってるから熱があるかも……でも、その具合が悪いんじゃなくて、その……」
あー、もう聞いてられないぞ。
「大丈夫です。兄さん、落ち着いてください。全て察しています。口に出さなくていいです。その分は考慮しますから」
こんな医者がいてはならない。だが、こんな医者がいてよかった。
弟だから、丈だから。
お前の存在は、唯一無二だ!
横を見ると、白衣の丈がポケットに手を突っ込んで立っていた。
「兄さん!」
「あぁ、丈か……さっきはすまなかったな」
「いえ……私でお役に立てたのなら」
丈が笑ったので、俺も釣られて笑った。
もうバレバレか、俺たちが個室の中で何をしていたのか。
思わず肩を竦めるが、丈はさして気にしていないようだった。
「もう診察の時間か」
「入っても、いいですか」
「もちろんだ」
特別室は想像以上に広い。
ベッドの中で多少の艶めいた声を漏らしても、扉までかなり距離があるので、外には聞こえないだろう。
シャワーに洗面台、ソファに至れり尽くせりだが、アレがないんだよな。
「なぁ丈、この特別室は最高だな」
「ありがとうございます」
「だが一つだけ、忘れてないか」
「あぁ、迷ったのですが……付き添いのベッドなら、今回は置きませんでした」
「やっぱり、泊まっちゃダメなのかよ」
「……特別室のベッドは通常の病室よりも広いので……あっ、今のは聞かなかったことに。医師として推奨しているわけでは、けっしてありませんからね」
おいおい、どうして丈が顔を赤らめる?
案外可愛いところも、あるんだな。
「丈、お前の気遣いは充分に伝わった」
「ちなみに、この部屋は特別室なので付き添いの寝泊まりは自由です」
「早く言えよ、コイツ」
肘でつついてやると、丈が笑った。
そんな明るい笑顔を見せるなんて想定外で、ぽかんと口を開けてしまった。
「丈……お前、さては今度洋くんをここに連れ込もうと? 職権乱用だぞ?」
「そ、そんなことしませんよ。想像はしましたが」
「ははっ、俺たちの思考回路は一緒なのか」
「いやですよ」
笑いながら中に入ると、翠が背もたれを起こしたベッドにもたれながら、柔和に微笑んでいた。
こちらもいい笑顔だ。
「流と丈、楽しそうだね。兄さんも混ぜておくれ」
兄の顔をしたがる翠も好きだから、嬉しくなる。
それだけ術後の経過がいいってことだろう?
「兄さん、具合はどうですか」
「ん……だいぶいいよ。もちろん傷は痛むが、それよりも気分がいい」
「良かったです。その調子なら、付き添いの寝泊まりの許可を出せそうですね」
丈がもったいぶって言えば、翠は目を見開いて驚いていた。
「えっ、い、いいのか。手術の後だからダメかと……付き添いのベッドもないし諦めていたんだ」
あーもう、可愛いことばかり口走る兄が愛おしい。
「意図的ですよ。すべて」
「ん?」
「いえ、こっちの話です。さぁ傷の確認をさせてください、その前に血圧と熱を……」
丈が血圧測定をしようとすると、翠が今度は困った顔をした。
「あ、あのね……血圧が高いかも……それから身体が火照ってるから熱があるかも……でも、その具合が悪いんじゃなくて、その……」
あー、もう聞いてられないぞ。
「大丈夫です。兄さん、落ち着いてください。全て察しています。口に出さなくていいです。その分は考慮しますから」
こんな医者がいてはならない。だが、こんな医者がいてよかった。
弟だから、丈だから。
お前の存在は、唯一無二だ!
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