重なる月

志生帆 海

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14章

特別番外編 ある日の月影寺 (小森風太編)

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 縁側で日向ぼっこをするのが快適な、のどかな秋の午後。

 僕はうろうろと月影寺の小坊主の小森風太くんを探していた。

「小森くん、おやつだよ。あれ? 来ないね……どこにいるんだい?」

 いつもなら僕が呼べば飛んで来るのに、どうしたのだろう?

 本殿から渡り廊下に移動し、辺りをキョロキョロ見渡していると、いつものように作務衣姿で、手に箒を握りしめた流がやってきた。

「翠、どうした?」
「うん……それが小森くんの姿が見えなくてね」
「あぁ、あいつなら」
「知っているの?」
「山門の石段で見かけたぞ」
「何故、そんな所に……この時間は本堂にいるはずなのに?」
「くくっ、菅野くんとの運命の出会いの場所なんだってさ」

 ふたりで山門を見に行くと、小森くんがちょこんと石段に座っていた。
 
 白い着物に黒い前掛けをした小森くんの後ろ姿が見えたので、安堵した。15歳の時から成長を見守っているので、姿が見えないと心配になってしまうよ。それに僕が呼べばいつも子犬のように飛んで来てくれるから、可愛くて仕方ないんだ。

「小森くん、お饅頭だよ~ おいで~」
「……」
「返事がないね。一体どうしたのかな?」

 流が軽快に石段を降りて確かめてくれた。

「コイツ、気持ち良さそうに転た寝をしているぞ」
「え? お饅頭よりも眠気なの?」

 そんなこと、この5年間一度もなかったので驚いた。

「きっと眠れない夜を過ごしているのさ。昔の俺たちみたいに。なぁ翠……こっちに来いよ」

 山門の死角に連れ込まれて、いきなり流に口づけられたので驚いてしまった。

「りゅ、流――、ダメだ」
「小森は涎を垂らしていたぞ。あれはあんこの夢じゃない。彼氏の夢だ。何だかあてられるな」
「な、何を言って……」

 まだまだ幼さの残る小森くんが、恋をした。

 僕たちは、あんこのように甘い彼の初恋に刺激を受けているのか。

 僕は春先に火傷痕を消す手術を受けてから、変わった。

 自分の欲望に抗うのをやめた。

 素直になった。

 だから、ほんの束の間の触れ合いも、こんな風に求めてしまうようになった。

「りゅ……流、甘いのがいい……向こうで……ふたりで……お饅頭を食べよう」

 僕はさり気なく流の手を引っ張り、離れの茶室に連れ込んだ。

「翠?」
「だ、だから……ここなら……」

 少しだけ、束の間でいいから、僕にも甘い時間をおくれ。



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