重なる月

志生帆 海

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14章

身も心も 30

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「流っ、どうしよう」
「しっ!」

 看護師の声に怯える翠の口元を手で覆い、耳元で宥めるように囁いてやった。

「落ち着け、大丈夫だ」
「な……どうして?」

 それは看護師の声を制する声が聞こえたからさ。
 
 救世主、丈の登場だ。

 この特別個室を手配してくれた張本人だから、中の様子が手に取るように分かるのか、俺たちの状況を察してくれたらしい。

 丈の静かで低い落ち着いた声に、安堵した。

 お前は兄想いのいい弟だ。恩に切るよ。

「翠、もう大丈夫だ。もう行ってしまった」

 だが羽目を外すことに慣れていない翠だから、先ほどまで盛り上がっていた熱は冷め、冷静になってしまっただろう。

 それも仕方がない。
 そうやって長い年月を生きて来た人だから。

 何もかも求め過ぎてはならぬ。
 今までの翠も、俺は大切なんだ。

 俺の兄、月影寺の住職としての翠も尊重してやりたい。
 どんな翠も、俺の翠だから。

「さてと……ここまでにするか」
 
 覆い被さっていた身体を退かそうとすると、翠が意外な行動に出た。

「待て」

 驚いたことに翠の手が伸びて、俺が離れるのを制した。

「翠……?」
「……み、導いて欲しい、最後まで」
「いいのか」
「流……苦しいんだ。このままでは」

 翠が素直に本能のままに俺を求めてくれる。
 
 こんな日がやってくるなんて、感無量だ。

 丈がくれた束の間の時は、俺達の愛を深める物となっていく。

 チュッと翠の屹立に口づけをし、舌で先端をちろちろと舐めて、じわりと溢れてくる蜜を啜ってやった。

「んっ……」
「流も辛いだろう」

 俺の股間に手を彷徨わせて来るので、困ってしまった。

 ずっと一方的な片想いだと思っていたから、相思相愛の状態で求め合うのに、慣れていない。

「よせ。翠の気持ちだけ貰っておく。俺のことは退院してからだ。楽しみにしている」

 翠は俺の気持ちを素直に受け取り、身体の力を緩めてくれた。だから舌を巧みに使って愛撫を繰り返すと、可愛らしい屹立が嵩をどんどん増していくのが分かった。

 まだ術後間もないのだ。無理はさせられない。

「んっ、ん」

 翠はさっきから自分の手で口を塞ぎ、声を堪えている。
 早く解放してやりたい。

「イケよ」
「んっーー」

 焦らすことなく高めてやれば、翠は呆気なく弾けた。翠の生きている匂いに包まれて、安堵した。
 
「大丈夫か、無理させたな」
「りゅ……う……僕だけ、ごめん。でも、ありがとう」

 尊い身体に触れさせて貰えたのは俺の方なのに、俺に礼を言うなんて。
 
 蒸しタオルで優しく拭ってやり、新しいパジャマを着せてやると、つい先ほどまで、しどけない姿を見せていたとは思えない、楚々とした雰囲気に包まれていた。

 これはこれで良い。

 冷静になり辺りを見渡せば、広い特別個室はガラス張りで明るい光で満ちていた。

 青空に浮かぶ雲。
 木々の緑が目に眩しい。

 祝福された部屋だ、ここは。

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