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14章
身も心も 27
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「翠、俺、蒸しタオルをもらってくるから、ちょっと待ってろ」
作務衣姿の流がバタバタと出て行こうとするので、思わず呼び止めてしまった。
「流……頼むから、もう少し落ち着いて行動してくれ」
ただでさえ目立つ長髪に作務衣姿。その上とびきり雄々しい美丈夫だ。人目に付きすぎてしまう。
女性なら誰もが憧れるような精悍な流。
お前がそんなに頬を上気させて人前に出ていくのは、心配なんだよ。
「あぁ、悪い。翠に迷惑をかけるところだった」
違うんだ。だが、僕の勝手な嫉妬心からだとは言い出せず、苦笑してしまった。
僕……少し変か。目覚めてからずっと上機嫌だ
窓の外を見れば……長閑な小春日和。
こんな季節はよく流と外遊びをしたね。
2歳下の弟は、僕よりまだ身体が小さくて可愛かった。
僕が走れば走って、僕が歩けば歩く。
今みたいに頬を上気させて、必死に僕の後ろを追いかけてきた弟だった。
「翠、待たせたな。あちち……」
「流、ありがとう」
なんだか急に照れ臭くなって、沈黙が流れた。
そこに響き渡ったのは……
ごくり……
ゴクッ――
お互い唾を飲み込む音だった。
「ははっ、今の音を聞いたか」
「りゅ、流こそ」
「どうした? 緊張してるのか」
「あの傷を取った姿をお前に見せるから」
まだ今はガーゼだらけの酷い状態だが、それでも、長い間こびりついていた醜い傷痕が身体から離れてくれたと思うと、嬉しくて嬉しくて。
「翠……そう緊張するな。さぁ横になれ。こんなお役を仰せつかると思って、清拭のやり方ならマスターしてきたぞ」
「お前はそんなことまで……」
流は僕に毛布をかけ、その下で寝衣を脱がせていった。そして僕の首元にフェイスタオルをかけて、枕を濡らさないようにした。
「手際が良すぎるよ」
「介護士になれそうか」
「僕だけの流がいい」
「もちろんだ」
そのまま蒸しタオルで、目から額、頬、鼻、口、顎、耳、首の順番で丁寧に拭いてくれた。続いて上肢も……手指から前腕、そして上腕、肩と清拭してくれた。
それは僕のパーツの一つ一つを丁寧に辿る旅のようだった。
「綺麗な顔立ちだな……翠の目も口も本当に美しい」
「恥ずかしいよ」
「次は……胸元だ。手術の傷を避けて拭くから安心しろ」
「……あぁ」
覚悟は決めて任せたはずなのに、綿毛布を捲られると急に恥ずかしさが込み上げ、ギュッと目を閉じてしまった。
バスタオルを下半身にかけて気を遣ってもらった。
「……ありがとう」
乳首……乳輪……そのカタチに沿って、蒸しタオルを当てられると、身体が素直にぴくぴくと反応してしまった。
男の薄い胸なのに、すっかり流に愛される器官の一つとなった場所だから、感じてしまうんだ。
慌てて腹筋に力を込めて快楽をやり過ごすのに努めた。
腹部から恥骨付近まで一気に拭かれ、いよいよ僕は困ってしまった。
「流、もういい、もうあとは自分で拭くから!」
「何言って、これからだろ? おい、翠……もしかして」
「い、言うな」
読経だ! こんな時は読経を唱えるしか!
そう思って口ずさもうとしたら、視界が暗くなった。
むぎゅっと、流の唇が押し当てられていたのだ。
「ん……ん、ぐっ」
「翠、今日は読経はナシな」
「りゅ……流……」
「ここは何のために個室なんだ?」
作務衣姿の流がバタバタと出て行こうとするので、思わず呼び止めてしまった。
「流……頼むから、もう少し落ち着いて行動してくれ」
ただでさえ目立つ長髪に作務衣姿。その上とびきり雄々しい美丈夫だ。人目に付きすぎてしまう。
女性なら誰もが憧れるような精悍な流。
お前がそんなに頬を上気させて人前に出ていくのは、心配なんだよ。
「あぁ、悪い。翠に迷惑をかけるところだった」
違うんだ。だが、僕の勝手な嫉妬心からだとは言い出せず、苦笑してしまった。
僕……少し変か。目覚めてからずっと上機嫌だ
窓の外を見れば……長閑な小春日和。
こんな季節はよく流と外遊びをしたね。
2歳下の弟は、僕よりまだ身体が小さくて可愛かった。
僕が走れば走って、僕が歩けば歩く。
今みたいに頬を上気させて、必死に僕の後ろを追いかけてきた弟だった。
「翠、待たせたな。あちち……」
「流、ありがとう」
なんだか急に照れ臭くなって、沈黙が流れた。
そこに響き渡ったのは……
ごくり……
ゴクッ――
お互い唾を飲み込む音だった。
「ははっ、今の音を聞いたか」
「りゅ、流こそ」
「どうした? 緊張してるのか」
「あの傷を取った姿をお前に見せるから」
まだ今はガーゼだらけの酷い状態だが、それでも、長い間こびりついていた醜い傷痕が身体から離れてくれたと思うと、嬉しくて嬉しくて。
「翠……そう緊張するな。さぁ横になれ。こんなお役を仰せつかると思って、清拭のやり方ならマスターしてきたぞ」
「お前はそんなことまで……」
流は僕に毛布をかけ、その下で寝衣を脱がせていった。そして僕の首元にフェイスタオルをかけて、枕を濡らさないようにした。
「手際が良すぎるよ」
「介護士になれそうか」
「僕だけの流がいい」
「もちろんだ」
そのまま蒸しタオルで、目から額、頬、鼻、口、顎、耳、首の順番で丁寧に拭いてくれた。続いて上肢も……手指から前腕、そして上腕、肩と清拭してくれた。
それは僕のパーツの一つ一つを丁寧に辿る旅のようだった。
「綺麗な顔立ちだな……翠の目も口も本当に美しい」
「恥ずかしいよ」
「次は……胸元だ。手術の傷を避けて拭くから安心しろ」
「……あぁ」
覚悟は決めて任せたはずなのに、綿毛布を捲られると急に恥ずかしさが込み上げ、ギュッと目を閉じてしまった。
バスタオルを下半身にかけて気を遣ってもらった。
「……ありがとう」
乳首……乳輪……そのカタチに沿って、蒸しタオルを当てられると、身体が素直にぴくぴくと反応してしまった。
男の薄い胸なのに、すっかり流に愛される器官の一つとなった場所だから、感じてしまうんだ。
慌てて腹筋に力を込めて快楽をやり過ごすのに努めた。
腹部から恥骨付近まで一気に拭かれ、いよいよ僕は困ってしまった。
「流、もういい、もうあとは自分で拭くから!」
「何言って、これからだろ? おい、翠……もしかして」
「い、言うな」
読経だ! こんな時は読経を唱えるしか!
そう思って口ずさもうとしたら、視界が暗くなった。
むぎゅっと、流の唇が押し当てられていたのだ。
「ん……ん、ぐっ」
「翠、今日は読経はナシな」
「りゅ……流……」
「ここは何のために個室なんだ?」
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