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14章
身も心も 17
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麻酔下で、夢は見ない。
パンっと手を叩かれて目覚めると、手術が終わっていた。
「兄さん、分かりますか」
「じょ……う?」
「そうです。終わりましたよ。無事に皮膚移植できました。あとは兄さんの治癒力で綺麗に治して下さい」
「あ、りがとう……」
全身麻酔の影響で声が上手くでなかったが、丈には真っ先にお礼を伝えたかった。
手術室の自動扉が開くと、すぐに流とも会えた。
「兄さん! 俺が分かりますか」
「流……あ、りがとう」
流……会いたかった!
みんな、僕の為にありがとう。
ここにいない両親、洋くん……薙にも感謝している。
病室に着く頃には、また眠くなってきてウトウトとし出した。
今度はしっかり夢を見た。
この道は、もう何度も往復した北鎌倉から鎌倉に続く道だ。
中学、高校と、毎日この道を通って通学した。
夢の中の僕は、まだ高校生だった。
狭い道なので、二人歩くので精一杯だった。
いつも達哉と待ち合わせして彼と並んで歩き、後を中学生の流が歩いていたんだ。
僕は、背中に流の熱い視線を浴びていることを知っていた。
だから本心では……何度も流の横に並びたいと思ったよ。
今日の僕は、もう我慢しない。躊躇わない。
だから、それを実行する。
「達哉ごめん。ちょっと流と話があるんだ」
「ん? いいぞ。俺、今日は日直だから先行くぞ」
「ありがとう」
僕は歩く速度を弱め、流の横に並んだ。
中学生の流は意外そうな顔をした。
「兄さん?」
「流……今日は部活ないよな? 僕と寄り道をしようか」
「月下庵茶屋?」
「ん……お前の好きな焼うどんをご馳走してあげるよ。今月はお小遣いが残っているから」
「やった!」
ずっとしてみたかった流との放課後デートだ。
その日の放課後、月下茶屋で先に座って待っていると、流が息を切らしてやってきた。
「兄さん! ごめん、遅れて!掃除当番だった」
「大丈夫だよ。今来たところだよ」
本当は待ちきれなくて三十分も前に着いていたことは、内緒だ。
「何にする?」
「白玉あんみつがいい」
「え? 焼きうどんじゃなくて?」
「兄さんの好きなものを知りたい」
「そうか」
僕の好きなものは……流だよ。
その言葉は呑み込んで、二人向かい合わせて白玉ぜんざいを頬張った。
「うまいな。白玉がふわふわだ」
「ふふっ、美味しいよね。あんこの甘さも甘すぎず絶妙なんだよ」
「口で溶けるようだな」
流と同じものを食べている。
ただそれだけのことが嬉しくて、嬉しくて……
学生時代にもっとしてあげればよかった。
見栄を張って、我慢ばかりしていないで。
「兄さん? 起きたのか」
「……流」
目が覚めると病院のベッドの上で、まだ酸素マスクをして、点滴に繋がれていた。
手術をした左胸下は重苦しかったが、そんなことよりも、もうあの醜い火傷痕が自分の身体から消えてくれたことの方が嬉しかった。
「具合はどうだ?」
「気分がいいよ。流……退院したら月下庵茶屋に行こう」
「唐突だな」
「一緒に白玉あんみつと……そうだな。白玉ぜんざいも食べよう」
「ふっ、翠……お腹が空いているのか。術後なのに、元気そうだな」
「夢を見たから……」
流が僕の手を握ってくれる。
「夢は現実にしていかないとな。翠はこの瞬間、生まれ変わったんだから」
「ん……あとね、焼きうどんも食べてみたい」
「へぇ、嬉しいな」
「流が好きなものをもっと知りたい」
「翠……それっ……反則だ」
流がパッと手を離して、照れ臭そうに頬を赤らめた。
パンっと手を叩かれて目覚めると、手術が終わっていた。
「兄さん、分かりますか」
「じょ……う?」
「そうです。終わりましたよ。無事に皮膚移植できました。あとは兄さんの治癒力で綺麗に治して下さい」
「あ、りがとう……」
全身麻酔の影響で声が上手くでなかったが、丈には真っ先にお礼を伝えたかった。
手術室の自動扉が開くと、すぐに流とも会えた。
「兄さん! 俺が分かりますか」
「流……あ、りがとう」
流……会いたかった!
みんな、僕の為にありがとう。
ここにいない両親、洋くん……薙にも感謝している。
病室に着く頃には、また眠くなってきてウトウトとし出した。
今度はしっかり夢を見た。
この道は、もう何度も往復した北鎌倉から鎌倉に続く道だ。
中学、高校と、毎日この道を通って通学した。
夢の中の僕は、まだ高校生だった。
狭い道なので、二人歩くので精一杯だった。
いつも達哉と待ち合わせして彼と並んで歩き、後を中学生の流が歩いていたんだ。
僕は、背中に流の熱い視線を浴びていることを知っていた。
だから本心では……何度も流の横に並びたいと思ったよ。
今日の僕は、もう我慢しない。躊躇わない。
だから、それを実行する。
「達哉ごめん。ちょっと流と話があるんだ」
「ん? いいぞ。俺、今日は日直だから先行くぞ」
「ありがとう」
僕は歩く速度を弱め、流の横に並んだ。
中学生の流は意外そうな顔をした。
「兄さん?」
「流……今日は部活ないよな? 僕と寄り道をしようか」
「月下庵茶屋?」
「ん……お前の好きな焼うどんをご馳走してあげるよ。今月はお小遣いが残っているから」
「やった!」
ずっとしてみたかった流との放課後デートだ。
その日の放課後、月下茶屋で先に座って待っていると、流が息を切らしてやってきた。
「兄さん! ごめん、遅れて!掃除当番だった」
「大丈夫だよ。今来たところだよ」
本当は待ちきれなくて三十分も前に着いていたことは、内緒だ。
「何にする?」
「白玉あんみつがいい」
「え? 焼きうどんじゃなくて?」
「兄さんの好きなものを知りたい」
「そうか」
僕の好きなものは……流だよ。
その言葉は呑み込んで、二人向かい合わせて白玉ぜんざいを頬張った。
「うまいな。白玉がふわふわだ」
「ふふっ、美味しいよね。あんこの甘さも甘すぎず絶妙なんだよ」
「口で溶けるようだな」
流と同じものを食べている。
ただそれだけのことが嬉しくて、嬉しくて……
学生時代にもっとしてあげればよかった。
見栄を張って、我慢ばかりしていないで。
「兄さん? 起きたのか」
「……流」
目が覚めると病院のベッドの上で、まだ酸素マスクをして、点滴に繋がれていた。
手術をした左胸下は重苦しかったが、そんなことよりも、もうあの醜い火傷痕が自分の身体から消えてくれたことの方が嬉しかった。
「具合はどうだ?」
「気分がいいよ。流……退院したら月下庵茶屋に行こう」
「唐突だな」
「一緒に白玉あんみつと……そうだな。白玉ぜんざいも食べよう」
「ふっ、翠……お腹が空いているのか。術後なのに、元気そうだな」
「夢を見たから……」
流が僕の手を握ってくれる。
「夢は現実にしていかないとな。翠はこの瞬間、生まれ変わったんだから」
「ん……あとね、焼きうどんも食べてみたい」
「へぇ、嬉しいな」
「流が好きなものをもっと知りたい」
「翠……それっ……反則だ」
流がパッと手を離して、照れ臭そうに頬を赤らめた。
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