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14章
身も心も 15
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その日は丈のジャージを着たまま、母屋で夕食をご馳走になった。
流さんが作ってくれた三色丼を食べていると、塾帰りの薙くんがドタバタと入ってきた。
「あれ? 洋さんがジャージなんて珍しいな。なんで?」
「えっ、ゴホッ」
「洋、大丈夫か。水を飲め」
「あ……ありがとう」
まさか丈のジャージを彼シャツのように着させられているとは言えず、むせてしまった。
「? でも、かっこいいな。黒いジャージなんて今時珍しいし」
「そ、そうかな」
それでも褒められれば悪い気はしない。
「それどこで買ったの? 俺の部屋着にしたいな~ 俺に貸してくれない?」
「え?」
そう来る?
「それはダメよ!」
「ダメだろ」
「……ダメだ」
わ! お母さんと流さんと丈の声が揃った。
「えー! みんなして否定? 何だよー」
「よし、では……薙には私が新しいのを買ってやろう」
「え? いいの」
「もうすぐ誕生日だろ?」
「うん! やった! 実はさ、MIKEのジャージで欲しいのがあるんだ」
「なるほど、いいぞ」
あっ、丈がまた笑った。
最近は優しく温かく笑うんだな。
丈が家族の中で笑っている。
それがこんなにも嬉しいことだなんて。
****
その晩、風呂上がりの洋にジャージを羽織らせた。
明らかにダブダブなのが、愛おしくて溜まらない。
さっきから高校時代の寂しい思い出が、どんどん霞んで見えなくなっていた。
「洋……どんな気分だ?」
「うーん、俺の知らない丈に包まれているみたいかな」
「そんなことない。私は私だ」
すると洋が艶やかに微笑み、クンクンとジャージの匂いを嗅いだ。
その仕草に……まるで私の身体を探られているようでドキッとした。
「本当だ! 丈の匂いが染み付いているよ」
「ふっ……そんなことするんだな。洋も……」
「意外だった? 俺って案外子供っぽいのかもよ」
「いいんじゃないか。もっと変わっていいぞ。どんな洋でも私の洋だから」
「ん……じゃあ、今度は俺のジャージも探してくる」
「……」
丈が複雑な顔をする。
「どうした?」
「いや……どこのカップルも同じようなことをしているんだなと」
「もしかして、このジャージ交換って、流さんと翠さんがやっていたのか」
ビンゴって顔をしているな。
「まあな。入院中の翠兄さんが流兄さんの着古したジャージを着て、嬉しそうにしていたよ」
「いいね。翠さん……大丈夫かな。心細いだろうね」
「ジャージがついているから」
「俺も丈が遅い時とか夜勤の時……これを抱きしめていそうだ」
「寂しいのか」
「まあね……寂しいよ」
「素直で可愛いな。なぁ……洋……もう一度魔法をかけてくれないか」
丈が右手を俺に差し出したので、俺は手の甲に恭しくキスをしてあげた。
「大丈夫……丈の手は……」
「言ってくれ」
「ゴッドハンドだろ?」
「ふっ、そうだ」
****
翌朝、洋に見送られ玄関に立った。
姿見に映る自分の顔を確かめると、横から洋が覗き込んで来た。
「丈……どうした?」
「どんな顔をしている?」
「凄腕のドクターの顔だよ。丈先生」
「洋……」
私を鼓舞するように、洋が背伸びして濃厚なキスをしてくれた。
唇と手の甲に……
「丈……これをお守りに」
洋が手渡してくれたのは、海里先生の白衣だった。
胸元には私の名前が刺繍してある大切なものだ。
「海里先生もついていて下さるんだな……よし、頑張ってくるよ」
「応援しているよ、いってらっしゃい」
洋もまた明るく前向きになった。
朝日に照らされる洋は、私の守り神のようだと思いながら、ハンドルを握った。
流さんが作ってくれた三色丼を食べていると、塾帰りの薙くんがドタバタと入ってきた。
「あれ? 洋さんがジャージなんて珍しいな。なんで?」
「えっ、ゴホッ」
「洋、大丈夫か。水を飲め」
「あ……ありがとう」
まさか丈のジャージを彼シャツのように着させられているとは言えず、むせてしまった。
「? でも、かっこいいな。黒いジャージなんて今時珍しいし」
「そ、そうかな」
それでも褒められれば悪い気はしない。
「それどこで買ったの? 俺の部屋着にしたいな~ 俺に貸してくれない?」
「え?」
そう来る?
「それはダメよ!」
「ダメだろ」
「……ダメだ」
わ! お母さんと流さんと丈の声が揃った。
「えー! みんなして否定? 何だよー」
「よし、では……薙には私が新しいのを買ってやろう」
「え? いいの」
「もうすぐ誕生日だろ?」
「うん! やった! 実はさ、MIKEのジャージで欲しいのがあるんだ」
「なるほど、いいぞ」
あっ、丈がまた笑った。
最近は優しく温かく笑うんだな。
丈が家族の中で笑っている。
それがこんなにも嬉しいことだなんて。
****
その晩、風呂上がりの洋にジャージを羽織らせた。
明らかにダブダブなのが、愛おしくて溜まらない。
さっきから高校時代の寂しい思い出が、どんどん霞んで見えなくなっていた。
「洋……どんな気分だ?」
「うーん、俺の知らない丈に包まれているみたいかな」
「そんなことない。私は私だ」
すると洋が艶やかに微笑み、クンクンとジャージの匂いを嗅いだ。
その仕草に……まるで私の身体を探られているようでドキッとした。
「本当だ! 丈の匂いが染み付いているよ」
「ふっ……そんなことするんだな。洋も……」
「意外だった? 俺って案外子供っぽいのかもよ」
「いいんじゃないか。もっと変わっていいぞ。どんな洋でも私の洋だから」
「ん……じゃあ、今度は俺のジャージも探してくる」
「……」
丈が複雑な顔をする。
「どうした?」
「いや……どこのカップルも同じようなことをしているんだなと」
「もしかして、このジャージ交換って、流さんと翠さんがやっていたのか」
ビンゴって顔をしているな。
「まあな。入院中の翠兄さんが流兄さんの着古したジャージを着て、嬉しそうにしていたよ」
「いいね。翠さん……大丈夫かな。心細いだろうね」
「ジャージがついているから」
「俺も丈が遅い時とか夜勤の時……これを抱きしめていそうだ」
「寂しいのか」
「まあね……寂しいよ」
「素直で可愛いな。なぁ……洋……もう一度魔法をかけてくれないか」
丈が右手を俺に差し出したので、俺は手の甲に恭しくキスをしてあげた。
「大丈夫……丈の手は……」
「言ってくれ」
「ゴッドハンドだろ?」
「ふっ、そうだ」
****
翌朝、洋に見送られ玄関に立った。
姿見に映る自分の顔を確かめると、横から洋が覗き込んで来た。
「丈……どうした?」
「どんな顔をしている?」
「凄腕のドクターの顔だよ。丈先生」
「洋……」
私を鼓舞するように、洋が背伸びして濃厚なキスをしてくれた。
唇と手の甲に……
「丈……これをお守りに」
洋が手渡してくれたのは、海里先生の白衣だった。
胸元には私の名前が刺繍してある大切なものだ。
「海里先生もついていて下さるんだな……よし、頑張ってくるよ」
「応援しているよ、いってらっしゃい」
洋もまた明るく前向きになった。
朝日に照らされる洋は、私の守り神のようだと思いながら、ハンドルを握った。
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