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14章
身も心も 8
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父さんが手術のため入院すると聞かされたのは、1ヶ月前だった。
最初は重大な病気になったのかと心配したが、流さんが丁寧に皮膚の治療のためだと教えてくれたので、安堵した。
父さんの胸元に酷い火傷痕があるのは、ずっと前から、幼い頃から知っていた。
一緒に風呂に入っていた時に見つけて、かなり驚いたからな。
綺麗で優しい父さんの身体を侵食するようにはびこる火傷痕……幼子心に憎くて、なんとかしてやりたかった。
だが幼いオレに出来たのは『いたいのいたいのとんでいけ』と……子供だましのまじないだけだった。
でも……父さんはその度に本当に嬉しそうに、オレを抱きしめてくれた。
だからお風呂に一緒に入る度に、おまじないをかけてあげた。
あの頃はなんの躊躇いも無く父さんに抱っこされ、父さんに触れられた。
そんな父さんがオレを置いて去って行った時は、恨んだよ。
だからここに来ても最初は許せなくて反抗ばかりして、沢山……父さんを傷つけてごめん。
あれ? なんだか……無性に父さんに触れたくなってきた。オレ……もう15歳なのにこんなの変だろ?
「父さん……もう寝たかな? ちゃんと眠れたかな」
耐えきれずに口に出した瞬間、父さんが扉をノックしたので驚いた。
素直に甘えられない俺は、古典の勉強を教えてもらうことを口実に、父さんを部屋に留めた。
こんな近くに座ってもらうの、久しぶりだな。なんだよ、オレ、幼い子供みたいに胸をときめかせているのか。
すると父さんがオレを懐かしい瞳で包み、頭を撫でてくれた。
父さんは感情を隠さなくなった。
「びっくりした! 父さん……何?」
「いや、暫く入院するから……息子に触れたくなったんだ」
オレに触れたくなった?
その言葉が嬉しくて温かく……脳内をリフレインした。
父さんが歩み寄ってくれている。ならば……オレも近づこう。
「父さん、応援している……だから頑張って!」
「ん……ありがとう」
ちゃんと言えた! もう一つ強請っても? 今日ならいいよな?
「あのさ……今日だけ……父さんの部屋で寝たいんだけど」
****
「父さん……手を繋がないか」
「薙……ありがとう」
和室に横並びに敷いた布団で、薙と手を繋いだ。
心細い夜に……大切な温もりに触れられてもらえ、涙が出そうだ。
口数の少ない薙だが、心根の優しい子なのだ。
幼い頃は本当に仲良し親子で、風呂はいつも僕と入り、僕の布団によく潜り込んできたんだよ。覚えているかい?
そんなことを考えながら薙を見つめると、また目が合った。今日は何度も交差するね。
「と、父さん……あのさ……手術……怖いか」
「……正直に言うと……怖いよ。僕はね、痛みに弱い人間なんだよ」
「父さんは弱くなんてない。誰だって痛いのは嫌いだ」
「そうだね、僕は手術したことないから怖いのかも。術後、暫くは痛みが続くと丈から説明は受けているが」
もういい歳の大人が情けない。子供の前でこんな泣き言を言うなんて。
そろそろ自制しないと……
深呼吸して気を引き締めた。
「さぁもう寝なさい」
「父さん!」
「どうした?」
「あのさ……そっちに行ってもいい」
いつもポーカーフェイスな薙が、今は真っ赤になって恥ずかしそうに俯いていた。
「おいで、一緒に眠ろう」
「きょ、今日だけだぞ。父さんが寂しそうだから」
「分かっているよ。全部父さんのせいだ」
「父さん!」
温もりがまた近くなる。
「いたいの……いたいのとんでいけ……」
薙がそっぽを向きながら、呪文を唱えてくれた。
だから、僕は頑張れる――
****
明け方、翠の部屋を覗いて、泣けた。
翠と翠の息子が寄り添って眠っている。
親子という大切な絆を、翠は結び直したのだ。
最初は重大な病気になったのかと心配したが、流さんが丁寧に皮膚の治療のためだと教えてくれたので、安堵した。
父さんの胸元に酷い火傷痕があるのは、ずっと前から、幼い頃から知っていた。
一緒に風呂に入っていた時に見つけて、かなり驚いたからな。
綺麗で優しい父さんの身体を侵食するようにはびこる火傷痕……幼子心に憎くて、なんとかしてやりたかった。
だが幼いオレに出来たのは『いたいのいたいのとんでいけ』と……子供だましのまじないだけだった。
でも……父さんはその度に本当に嬉しそうに、オレを抱きしめてくれた。
だからお風呂に一緒に入る度に、おまじないをかけてあげた。
あの頃はなんの躊躇いも無く父さんに抱っこされ、父さんに触れられた。
そんな父さんがオレを置いて去って行った時は、恨んだよ。
だからここに来ても最初は許せなくて反抗ばかりして、沢山……父さんを傷つけてごめん。
あれ? なんだか……無性に父さんに触れたくなってきた。オレ……もう15歳なのにこんなの変だろ?
「父さん……もう寝たかな? ちゃんと眠れたかな」
耐えきれずに口に出した瞬間、父さんが扉をノックしたので驚いた。
素直に甘えられない俺は、古典の勉強を教えてもらうことを口実に、父さんを部屋に留めた。
こんな近くに座ってもらうの、久しぶりだな。なんだよ、オレ、幼い子供みたいに胸をときめかせているのか。
すると父さんがオレを懐かしい瞳で包み、頭を撫でてくれた。
父さんは感情を隠さなくなった。
「びっくりした! 父さん……何?」
「いや、暫く入院するから……息子に触れたくなったんだ」
オレに触れたくなった?
その言葉が嬉しくて温かく……脳内をリフレインした。
父さんが歩み寄ってくれている。ならば……オレも近づこう。
「父さん、応援している……だから頑張って!」
「ん……ありがとう」
ちゃんと言えた! もう一つ強請っても? 今日ならいいよな?
「あのさ……今日だけ……父さんの部屋で寝たいんだけど」
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「父さん……手を繋がないか」
「薙……ありがとう」
和室に横並びに敷いた布団で、薙と手を繋いだ。
心細い夜に……大切な温もりに触れられてもらえ、涙が出そうだ。
口数の少ない薙だが、心根の優しい子なのだ。
幼い頃は本当に仲良し親子で、風呂はいつも僕と入り、僕の布団によく潜り込んできたんだよ。覚えているかい?
そんなことを考えながら薙を見つめると、また目が合った。今日は何度も交差するね。
「と、父さん……あのさ……手術……怖いか」
「……正直に言うと……怖いよ。僕はね、痛みに弱い人間なんだよ」
「父さんは弱くなんてない。誰だって痛いのは嫌いだ」
「そうだね、僕は手術したことないから怖いのかも。術後、暫くは痛みが続くと丈から説明は受けているが」
もういい歳の大人が情けない。子供の前でこんな泣き言を言うなんて。
そろそろ自制しないと……
深呼吸して気を引き締めた。
「さぁもう寝なさい」
「父さん!」
「どうした?」
「あのさ……そっちに行ってもいい」
いつもポーカーフェイスな薙が、今は真っ赤になって恥ずかしそうに俯いていた。
「おいで、一緒に眠ろう」
「きょ、今日だけだぞ。父さんが寂しそうだから」
「分かっているよ。全部父さんのせいだ」
「父さん!」
温もりがまた近くなる。
「いたいの……いたいのとんでいけ……」
薙がそっぽを向きながら、呪文を唱えてくれた。
だから、僕は頑張れる――
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明け方、翠の部屋を覗いて、泣けた。
翠と翠の息子が寄り添って眠っている。
親子という大切な絆を、翠は結び直したのだ。
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